☆17 戦場
街道を挟む様に、三角屋根の家々が並び立っている。
建物の様子はいつもと変わり無いが、その建物の住人達の様子は普段とは打って変わって、不安と恐怖の表情を浮かべている。
そして、皆一応にホワイト・ロックの方向へと向かっている。
恐らく、この様子なら動ける人なら無事にホワイト・ロックまで辿り着くだろう。
なら……
「全員聞いてくれ! 俺達は子供や老人。或いは怪我人と言った、自分の力ではホワイト・ロックまで辿り着けそうにない人達の救助に回るぞ!」
俺の声を聞くと同時に候補生達が街へと走り出した。
よし、いいぞ……
「気が動転してる人もいるだろうから、そう言う人達にも声を掛けてホワイト・ロックまで向かう様に諭しやってくれ!」
皆、一応に子供や老人達の元へと駆け寄り、彼等の手を取り、共にホワイト・ロックへと向かう。
「一度に出来るだけ沢山の人達をホワイト・ロックに導け! そして、ホワイト・ロックまで誘導したら、直ぐにここに戻って来てこい、いいな!」
俺は候補生達にそう声を掛け、更に奥へと歩き出した。
何人かの候補生が俺に着いて来ようとしたが、それを手で制止する。
「ここから先は俺だけでいい。お前達はここで他の人達を助けてくれ」
見ると、遠くの三角屋根から火の手が上がっている。
俺はその方向に向かって歩き出す。
そう、俺は前線の方に向かって歩き出した。
その瞬間、腹の底が揺られる様な轟音と共に僅かに大地が揺れた。
なるほど、やっぱりあそこが最前線なのだろう。師範もあそこで戦っているはずだ……
もう一度、師範に言われた言葉を思い出す。そう俺の役目は、ここら一帯の民間人達の避難誘導だ。
これ以上深く前線に入り込むのは俺の役目ではない。
そう思い、辺りを一度見渡してみる。
恐らく、民間人の避難はあらかた済んでいるのだろう。街並みは静かでとても閑散としている。
むしろ、耳鳴りがするのではないかと思う程に静かだ。遠くの方では人の声や、前線の方では叫び声の様な物が微かに聞こえる。
しかし、この辺り一帯は静寂その物だ。
恐らく、ここら一帯は大丈夫だろう。逃げ遅れた人が居ないか、少しだけ確かめてから俺も後方に戻るか……
そう思った矢先、俺の耳に微かな人の声が届いた。
子供の泣く声がする。
この静寂の空間を裂く様に子供の泣く声が俺の耳に届いた。
恐らく、この近くで子供がまだ残ってるんだ。
耳を済まして声の出所を探る。
「こっちか?」
自分を諭すように呟くと、建物と建物の間の細い通路を見詰める。
確かにその通路の先から声がする様な気がする。とにかく、確かめてみるしかない。
俺はその細い通路へと向かった。
その時、ふと頭を過る。あの悪夢の裏路地を……
まったく、なんでこんな時には、あの悪夢が頭に……
不意にその通路に視線を向けて気が付いた。
ああ、そうか、ここはあそこに似ているんだ……
あの悪夢の裏路地に……




