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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第81話:ピネット・ピルギノット〈中編〉

ピネット視点です。

「アタシを、専属の用心棒に?」


 依頼が失敗した日から数日。

 アタシはロドリゴス家の屋敷に招かれていた。呼んだのはロドリゴス家当主、モラン・ロドリゴス男爵だ。


 「そうだとも。もちろん報酬は弾む」


 モランは高価そうな壺を手に取って眺めながら、アタシにそう話した。

 アタシは今、彼の執務室に通されている。調度品や装飾品で飾られたこの部屋は、少し下品な感じがする。貧乏人であるアタシの、嫉妬から生まれた感情かもしれないが。


 今日彼がアタシを呼んだ理由は、ロドリゴス商会が持つ、行商人集団の旅に同行する用心棒としての雇用提案だった。期間はアタシがアルビオン学園に入学するまでの、残り約二か月。短い期間ではあるものの、専属として雇いたいという話だ。


 「……良い、話だと思うんですが……」


 日銭を必死に稼ぐ身としては、安定した収入というのは喉から手が出るほど欲しいものだ。加えて、行商人たちに同行するとなれば食料も支給されるだろう。

 さらに言えば、アタシはロドリゴス家に対して大きな恩がある。あの森で彼らに助けて貰わなければ、アタシたちは確実に全滅していただろう。命の恩人と言っても過言ではない。その恩に対して、多少報いることができるのであれば、アタシにとって絶好の機会とも言える。


 「何か、問題でもあるのかね?」


 モラン男爵は依然として壺を眺めており、アタシを見ることは無い。

 アタシは出された紅茶を一口飲むと、彼の言葉になんて答えるべきかと考える。

 良い話なのは間違いない。だが、アタシにとってあまりにも都合が良過ぎる話だ。


 (失礼だけど、裏があるんじゃないかって考えるよねぇ)


 人族よりも優れた能力を持つ獣人と言っても、アタシはそこいらにいる青銅(ブロンズ)級冒険者だ。貴族お抱えともなれば、もっと相応しいランクの冒険者に依頼するべきだろう。


 (なんでアタシが、しかも当主直々に?)


 紅茶をもう一口飲む。残念ながらアタシの舌では、この紅茶がどれくらい良いものかはわからない。それに香りが強すぎて、喉を通る時に不快感が凄い。鼻が利きすぎるのも考えものだ。


 「疑っているのか? 何か裏があるのでは、と」

 「……いや、まぁ」


 図星を指され、アタシは答えに迷った。結果、肯定も否定もできず、口ごもってしまった。

 貴族に対する態度としては、非常にまずいのでは、と思って彼を見るが特に様子は変わっていない。


 「当然の反応だな。都合の良い話だと感じたのであれば、それは正しい」


 もしや聞こえていなかったのでは、と思ったが、彼からの返答によってそんなことは無かったと内心焦る。だがモラン男爵は、そう言ってから一向に怒りもしないし、糾弾もしてこない。むしろその様子が余計に気味が悪い。

 何を考えているかわからないし、どう答えて良いかもわからないアタシは、彼を見つめていた。


 「……君が今の話に頷いたら、話そうと思っていたんだがな」


 モラン男爵はそう言うと、眺めていた壺をテーブルに置き、立ち上がった。彼は執務室の窓へ歩いて行き、外を見ながら話を続けた。


 「学園に息子が通うことになってな」

 「……?」


 モラン男爵の息子、名前は確かマウロと言っただろうか。実際に会ったことはないものの、以前酒場でロドリゴス商会の話をしている時に聞いた気がする。

 その子が学園に通うとして、アタシにどんな関係があるのだろう。同学年だし、友達になってくれとでも言うのだろうか。


 「我が家は最近になって貴族となった。私としてはまだまだ平民の、しがない商人だと思っているのだが……」


 そう言ってモラン男爵はアタシを見る。彼はどこか暗く、何かに悩んでいるような表情を見せた。

 ロドリゴス家は、最も新しい貴族と呼ばれる家だ。具体的にいつ頃、爵位を王から賜ったかなんて知らないが。


 「反面、息子は貴族意識が強い。それこそ問題を起こしかねないほどに」


 ……なんとなく、ではあるがモラン男爵がアタシに求めるものがわかった気がする。


 「良い仕事を紹介する代わりに、学園でお子さんの面倒を見て欲しい……と?」

 「まあ、そんなところだ」


 裏があるとは思ったが、こんな内容だとは予想がつかなかった。もっと面倒な仕事を頼まれると思いきや、まさか子供のお守りとは。

 正直、面倒すぎてやりたくない。子供と言っても、学園に入学できるということは、アタシとそんなに年齢は違わないはずだ。同い年の面倒を見るなんて、馬鹿みたいだ。

 色々言いたいことはあるが、残念ながらそれを正直に言うことはできない。なので、適当な理由をつけて断ろうと考えた。


 「自分の面倒すらまともに見れませんので……難しいと思います」


 まあ嘘ではない。入学すれば、自分のことで手一杯になるのは明らかだ。他人の面倒なんて見てられない。


 「入学し、一週間。その期間だけでもどうだ?」


 するとモラン男爵は、期間を設けることで食い下がってきた。

 三年間付きっきり、とまでは言わないから、せめて最初の一週間だけでもということだろうか。その一週間が、おそらく一番忙しいんだろうに。


 (……面倒っていう感情を抜きにすれば、良い話なんだけどねぇ)


 入浴してから一週間だけ、モラン男爵の息子の面倒を見る。それを了承すれば、アタシは明日からの食事と寝床、金が手に入る。


 (うーん……)


 アタシは残りの紅茶を飲み干しながら、頭を悩ませた。

 貴族意識が強い、ということでアタシがマウロと接触した時、どんな反応を返されるかわからない。凄い上から目線で来られたら、流石に嫌だなぁと思う。


 まあでも、色んなことに目を瞑って我慢すれば良いのかもしれない。面倒を見ろと言っても、問題に繋がるようなことを諌めれば良いだけではないだろうか。

 そう考えると、とても簡単な気がする。簡単なことで今がどうにかできるなら、とアタシは思った。


 「……わかりました。引き受けます」


 悩みに悩んだ結果、アタシはモラン男爵の提案を飲むことにした。

 正直、今になって考えれば単純で、もう少し考えても良かったと思う。だがアタシにとっては、次の日のご飯が大事だった。


 アタシはモラン男爵と契約し、入学までは用心棒として。入学後は一週間、彼の息子であるマウロの面倒を見ることになった。


 用心棒の方は、何も問題は無かった。多少の魔物と戦闘になったことはあったが、大きな怪我も無く終えられた。

 マウロは……正直、とんでもない問題児だと入学初日から思い、受けたことを後悔する程度には厄介だった。

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