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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第74話:渾身の一手

 撃ち込まれる魔術を避け、次の攻撃が来る前に梳り足(けずりあし)で間合いに踏み込み、剣を振り下ろすタイミングで吹き飛ばされる。

 何度繰り返したのか、途中から数えるのを止めてしまったので正確にはわからないが二、三十以上だろう。


 (おかげで一つ、思いついた)


 マウロの周りをただ、作業のように思いながら動いていたわけじゃない。

 この状況、この膠着状態を一度解かなければ、何もできないまま終わってしまう。


 (こういう状況にならないよう、準備してきたのに)


 一方的な内容。

 それを避けるための魔術の得意距離から徐々に接近し、梳り足(けずりあし)によって一瞬で距離を詰める、という対策を組んできた。

 だが今のところ、ことごとく上手くいっていない。いや、正確には最善手を潰されている。

 遠距離は魔術による牽制、近距離は謎の爆発による吹き飛ばし。前者はそもそもマウロの戦い方として、アリスとの決闘で見たものと同じだ。

 だが後者は違う。特に一回目の梳り足(けずりあし)による飛び込み。

 知らなければ、対応できるような速度じゃない。


 (……今考えることじゃない)


 私は走りながら頭を振って、考えを振り払う。そう、今はそんなことを考えている余裕は無い。今必要な考えは、状況の打破だ。


 (思いついたは良いけど、試したことさえ無い)


 成功するかわからない。そして、どれだけ自分の体に負担が掛かるかもわからない。


 (でもやらないとーー)


 そう思った瞬間、足元が爆発した。

 巻き上げられた砂利が私の体を撫で、爆風は動きを鈍くした。私はそれで止まることはなく、速度は一瞬落ちたが再び走り出した。


 (やっぱり、精度が良くなってきてる……!)


 何回も、何十回も動き続ける私に撃ち込むことで、マウロは魔術の命中精度を上げてきている。

 現に今のように、ほぼ運で避けられたような攻撃が増えてきつつある。いずれ直撃するであろうことは、想像に難く無い。


 (痛い、全身が軋む、疲れた)


 少しずつ溜められてきたダメージと疲労、その両方が私の体を蝕む。

 加えて、汚れや小さな傷によってボロボロに見える自分の姿と、あの過剰な豪華さを一切変えずにただ立っているマウロの姿、それを比べて焦りを感じる。


 「……観客も飽きてきたぞ、アスファロス。そろそろ何か変化が欲しい、とな?」


 あくびを噛み殺し、詠唱をしていたマウロが私にそう話し掛け、眠そうな瞳を向けてくる。

 その言葉と態度に一瞬、怒りの感情が湧き上がるが自制する。今挑発に乗って冷静さを欠けば、それこそ本当に終わってしまう。


 (落ち着け。機会を伺え)


 頭の中で、やりたいこと、その動き方を何度も思い描く。

 もしも本当に、私のマウロ対策が本人に知られているとしたら、これから繰り出す技は今作り上げたもの。


 (対応も回避も、できるならやってみろ……!)


 再び、足元が爆発した。

 その瞬間を、私は待っていた。私は巻き上がる砂埃に自分の体を入れ、マウロから私の姿を見えないようにする。それだけなら、ただの不意打ちの前準備でしかない。


 ――だからこそ、警戒は初撃に絞られるはずだ。


 私は砂埃の中、一気にマウロへと飛び出す。それまで繰り出してきた梳り足(けずりあし)と同じだが、一つ違う箇所がある。

 剣の構え、それが振り上げではない。切先をマウロへと向け、剣全体は私の腰と同じ高さにある。

 騎士団剣術の、鋤の構えに似たものだ。


 速度は十分、距離感も問題無い。一瞬で間合いへと入る。


 「馬鹿の一つ覚えだろ!」


 マウロの言葉が聞こえる。

 私の体が、間合いへと入った。再びマウロが笑いながら何かを言っている。

 世界が、ゆっくりになる。


 「――なに!?」


 私の目の前にいるマウロが、驚いたような表情と声を上げた。同時に、彼の姿が少しだけ離れていることに気が付く。

 フェイントを、マウロに対し行ったのだ。

 真っ直ぐ前へ構えた剣、その切先を梳り足(けずりあし)による接近中に、地面へと突き刺す。

 それによって前へと進む力はその勢いを無くし、私の体は止まる。

 全身を、急に止まったことによる負荷が掛かり、骨が軋む音が聞こえた。

 そして後ろへと飛び退き、再度間合いの外へと距離を離した。


 目の前、私とマウロの間の空間が破裂し、風を巻き起こす。それと同時に、彼の右腰に淡い緑色の光が見えた。


 (――魔道具!)


 私が吹き飛ばされていたのは、魔道具によるものだと確信した。であれば予備動作である詠唱や、彼から直接魔力光が見えなくても不思議じゃない。距離を詰めていたことで、彼の右腰の光に気付いていなかったのだ。


 (今はどうでも良いッ!)


 それは今、必要な情報じゃない。

 加速する思考と意識は、減速する世界の中で一瞬という現象の中に凝縮される。


 切先を地面から抜き、屈むことで姿勢を落としながら上半身を折り曲げる。前屈のような体勢を取り、剣の柄を自分より後ろに引くことで突きの構えを取る。

 思い出すのは獣人の娘、ピネットのあの突進の構え。


 「ッッッ!!!」


 屈んだ足をバネに見立て、一気に伸ばす。両足を伸ばしたことで進む力を得た私は、歯を食いしばりながらマウロへと飛び込む。


 「――だああああああああッ!!!!!」


 マウロの予測を上回る、渾身の一手。

 白銀の剣、その切先は彼を捉えた。

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