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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第58話:二人の相性

 「今出るよ」


 扉をノックすると、その向こうから足音と共にそんな声が聞こえた。その一声で隣のレミィはぴくりと体が反応し、何故か少し緊張した表情になった。


 私たちは夕食に行くため、予定通りピネットを迎えに来ていた。

 ピネットの部屋は、私たちの部屋とは真反対に位置していた。少し離れた、といったが五分もかからない距離だ。


 「なんで緊張してるの?」

 「だ、だって……獣人の方と、初めてお話しするんだもの……」


 だからと言ってそんな風になるだろうか、と思いながらピネットを待つ。最初にピネットを見た時もレミィは、ジッと見つめていた。

 確かに珍しい種族であることは間違いないし、貴族が立ち入る場所に獣人が入ることは中々無い。獣人の貴族もいないし。

 ピネットは明るくて活発な子だ。レミィのこの調子だと、彼女に振り回されてしまいそうだ。


 そんなことを考えていると、扉がガチャリと音を立て開いた。開かれた先には明るい茶髪をふわふわとさせながら、衣服を少し乱したピネットが立っていた。


 「迎えに来たよ、ピネット」

 「お、ということは一緒に食事、大丈夫って感じ?」

 「大丈夫。ね?」


 ピネットと少し会話した後、レミィに同意を求めて隣の彼女に視線を送ると、彼女は固まっていた。ピネットの方を見ながら、その場にまるで石になったように。


 「……えーっと……これホントに大丈夫なの?」

 「一応、二つ返事で良いよってことだったんだけど……」

 「ふぅん?」


 ピネットがレミィを観察するように見ていると、彼女は部屋から一歩出てレミィの目の前に立つ。

 ピネットの方がレミィより身長が高いため、ピネットがレミィのことを見下ろす形になり、レミィは何故かピネットと目を合わせようとしないことから、傍から見た二人の姿はいじめっ子といじめられっ子だ。


 「聞いてるだろうけど、アタシの名前はピネット・ピルギノット。貴女は?」


 先制攻撃、と言わんばかりのその名乗りにレミィはビクッと体を一度震わせた。

 なんでこんな一触即発、みたいな雰囲気になっているのだろうか。お互い、初対面から険悪になるような関係性でないと思っていたのだが。


 ピネットは少し前屈みになり、目を逸らし続けるレミィの顔を覗き込む。それに対しレミィは顔を逸らし続けて、目線を彼女と合わせようとしない。


 「レミィ……?」


 彼女の顔を横から見ると、頬が若干赤く染まっている。まるで熱を帯びたような表情は、どういうことだろう。


 「ご、ごめんなさい……その、は、恥ずかしくて……」


 私とピネットが不思議そうに見ていれば、レミィはそう言って頭を下げた。


 「わた、私、獣人の方とお話、ずっと憧れてて……!」


 レミィはそう言って顔を勢いよく上げると、彼女の顔はほんのりと赤らんでおり、また瞳は輝きながらピネットを見ていた。

 なるほど。憧れの獣人が目の前にいて、話したいけどいざ話すとなったら恥ずかしくなってしまった、といったところか。


 「レミオレッタ・スヴァン・レオンゴルドです!」


 よろしくお願いします、と言いながら再び頭を下げて右手を差し出し握手を求める姿はまるで、お付き合いを申し入れる人のようだった。

 ピネットを見ると、口元に手を当てくつくつとレミィに聞こえないよう笑いながらレミィを見ていた。そして私に目配せすると、レミィの差し出された右手を取る。


 「よろしくね。アタシも貴女のこと、レミィって呼んでも良い?」


 その言葉に顔を上げたレミィが、頭を何度も縦に振ることで肯定した。

 それとほぼ同時に、私と手を繋いでいたアリスの腹部から空腹の音が聞こえ、その音を合図に私たちは四人で食堂へと向かう。



―――☆☆☆―――



 「獣人の方を主人公にした物語が本当に好きで……!」


 ソテーされた豚肉をナイフで切り、口へ運ぶ。臭みはハーブ類で消されており、噛むごとに甘みを持った脂が広がる。バターの香るソースが見事に豚肉とマッチしており、お互いがお互いを引き立てていた。

 久しぶりの肉料理に心奪われた私は、このままだとすぐに食べ切ってしまうのを危惧し、自制しながらゆっくり食べ進める。


 「特にウィグによる自伝、“海を超えた獣”は冒険の魅力が全て詰まってて……!」


 スープも美味しい。丁寧に裏漉しまでされたとうもろこしのスープはどろりとしており、一度口に入れればとうもろこしの強烈な香りと甘みが鼻腔を貫く。だが決して嫌なものではない。香り過ぎず、くど過ぎず、ちょうど良いのだ。


 「“剣の森”に行ってみたいのも、己の瞳に獣人たちの姿を焼き付けたいと思ってのことなのです!」


 先ほど知ったのだが、パンはどうやらおかわりができるらしい。ちなみに夕食に出されたパンは、今朝と同じ黒パンだ。ほんのりと酸味のある黒パンは、豚肉のソテーととうもろこしのスープ、その両方と相性が良い。少し硬いので、スープに浸けるとふやけて食べやすい。


 「学園に来れば獣人の方とお会いできると思ってましたが、まさかお話しできるなんて本当に嬉しい!」


 ……さて、放置していたことに少し触れるとしよう。

 私の向かいに座るレミィ。彼女はピネットの部屋から食堂へと移動するまでに、ある程度緊張がほぐれたのかピネットにずっと話かけている。興奮気味で。

 対するピネットはと言うと困っている、なんてことはなくむしろ上機嫌でレミィの話を聞いていた。自分自身のことではないが、同じ種族のことを明るくポジティブに話してくれるレミィを楽しげに、所々で相槌を打ちながら見ていた。


 「いやぁ、あの“金獅子”のご令嬢にそ褒められると、アタシのことじゃないけど嬉しくなっちゃうねぇ。どう? 耳触る?」

 「良いんですか!?」


 盛り上がっている二人を見ながら、私とアリスは食事を続ける。

 ここまで二人の相性が良いとは思っていなかったので少し驚くが、それ以上にこんなに高揚したレミィの姿の方が驚きだ。


 「フィリア」

 「うん?」

 「騒がしい」

 「……こういう時は賑やかって言うんだよ」

 「わかった」


 賑やかなのは良いことだ。折角四人でご飯を食べているのだ。賑やかに楽しく食事を摂ることだって、急速には必要なことだろう。

 ピネットの耳を触って興奮するレミィの姿を見て、私は切り分けた豚肉を口に運んだ。

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