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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第40話:私の前に立つ者

 教室へ入るとまばらではあるものの、同じホワイトルームの生徒たちがいた。大体十五人はいるだろうか。

 ホワイトルームに属する生徒数は具体的には把握していないが、私たちを含めて二十人近くいたはずなので八割ぐらいは既にいるだろう。昨日見た獣人の女子生徒もいる。


 特に座る席の指定もされていなかったし、他の生徒を見るに昨日と違う場所を取っていそうだったのでおそらく自由なのだろう。

 私たちは廊下側の一番奥の席、つまり昨日と同じ場所を取ることにした。席順としては廊下側からレミィ、アリス、私、オルで座り、窓側の席は空けている。

 その席順に理由は無く、自然とそうなった。


 「アリスヒルデちゃんは算術得意?」

 「少しだけ母に教わった。得意かはわからない」


 私の右隣ではレミィとアリスが談笑している。

 アリスの顔を見てニコニコと話しているレミィに対し、アリスは横目でレミィを見ていて、その顔は無表情のままだ。

 アリスの感情は雰囲気で多少喜んでいたり落ち着いていたりするのはなんとなくわかるが、無表情というのは少し圧がある。

 レミィは気にならないようだが、私としてはもう少し感情表現豊かになっても良いと思う。いくら好意的と言っても、出会ったばかりなので指摘することはしないが。

 ちなみに机の下で私の右手をアリスがずっと握っているわけだが、授業が始まったら離してくれるだろうか。右利きなので、何か書いたりするのであれば不便だ。後で離してもらうように言ってみよう。


 私は授業前ということで特にやることもない。つまり暇を持て余している状態だ。

 隣で話す二人に混ざろうとは思わなかったので、隣のオルに話し掛けてみることにした。


 「オルは得意そうだよね、算術」

 「ああ、もちろんだとも。一通りのことは家で学んで来たさ」


 そう語りながら前髪を払うオルは、言葉通り自信に溢れていた。

 まあ、当然か。商人の息子で計算ができないなんていうのは、いないとまでは言わないが珍しいだろう。一応私も入学試験のために必死で勉強したが、おそらくオルには遠く及ばない。

 何か授業で困ったら、頼らせて貰うことにしよう。

 オルは片肘を机に付き、広げた掌に頬を乗せ、笑いながら私に問いかける。


 「寮はどうだい?」


 うーん、と私は考える。

 昨晩のことを思い出せば、特に困ったことは無い。アリスの着替えやらで考えることはあったが、困ったとまではならなかった。

 レミィも一緒に居たし、楽しかったと思う。


 「共同生活は慣れてるから気にならないかな。レミィとアリスもいるし、楽しいよ」

 「それは良い。僕も寮にすれば良かったと昨晩後悔したよ」


 そう答えた私に対し、彼は苦笑しながらそう言った。

 私は彼の表情が気になり、どうしてと問い掛ける。

 するとオルは前髪を指先で弄りながら、少し恥ずかしげに語った。


 「今まで家族と一緒に暮らしていたからね。静かな部屋、というのは……ね?」


 なるほど、と私は思った。

 きっとオルは寂しいのだろう。

 私は幸か不幸か、誰も居ない場所で暮らしたことはない。自分が暮らす環境には、必ず誰かしらが存在し賑やかだった。一人だけの環境というのが想像できないが、寂しいという気持ちは理解できる。

 真に彼の気持ちは理解できないかもしれないが、その感情自体はわかることができる。


 「“隣人は常に心に寄り添うものである”と言うが、わかっていても寂しいものさ」

 「……よく知ってるね、その言葉」

 「君相手ならこう言った方が面白いかと思ってね」


 彼が言った言葉は、アルビス教の経典に書かれている言葉だ。

 一応彼にも簡単ではあるが、私が教会で暮らしていたことは話している。境遇や過去までは勿論話していないので、あくまで雑談程度のものだ。

 ちなみに彼も私と同様、特にアルビス教を信仰している訳ではない。なので経典の内容を知っている彼に少し驚いたのだ。国教と言えど、信仰していなければ知る由もない。


 「私が知らなかったらどうするの?」

 「その時は、美しい貴女に素敵な言葉を贈れた、と言って喜んでいたさ」

 「上手だね、色んな意味で」


 私がそう言うとオルは不敵に笑った。

 世渡り上手というのは彼のようなことを言うのだろう。


 そんな他愛の無い会話をしていると、教室の扉が開く音が聞こえた。

 それ自体に私は特段興味を持たなかった。算術の授業を受ける子が来ただけと思ったからだ。

 私の意識は再度、オルとの会話に向けられる。


 だが、私の耳は再び扉側へと向けられることになる。


 生徒たちの談笑する声の中、私に近付いてくる足音が聞こえたのだ。

 それだけであれば、廊下側の席に座る生徒が近付いて来ているだけだと思う。

 その足音が複数で、力の入ったものでなければ、だ。


 私は気になり、視線を移す。

 真っ直ぐこちらを見ながら近付く人物は三人。その三人を私は知っている。

 この教室の中で最も煌びやかな服に身を包み、明るい緑の髪をした少年。そしてその少年の両脇を固めるように二人の男子が、木製の床で籠った音を立てながら歩いてくる。


 「――おい」


 少年は私に近付くと足を止め、座る私を見下ろすように声を掛けてきた。

 私は自然と手に力が入るのを自覚した。


 「要求を果たしに来た」


 彼は腕を組みながら、私を睨みつけている。

 隣で談笑していたアリスとレミィ、そして教室全体の視線が私たちに向けられていることに気付く。自然と、教室内はシン、としていた。


 彼――マウロ・ロドリゴスが私の前に立っていた。

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