DOLL Case 1.~夜明けに鳴くカラス~ 後編
*ただいまこの台本は工事中です。
〈注意〉この台本は後編です。前編がないと成立しないお話ですので、あらかじめご了承ください。
【登場人物】
小春♀16:Case 1.の主人公。引っ込み思案。メンヘラ。
千夏♀18:小春の”大切な人”。変人。苗字は美空
明希♀18:小春の部活の先輩(部長)。男口調の番長気質。苗字は染丘
幸雄♂17:小春の部活の先輩。生真面目で世話焼き。苗字は凩
佐伯♂28:高校教師。謎の多い人物。話が長い。
マテリア♀16~18?:佐伯の相棒らしき人物。メイド服の少女。行儀がいい。
日和♀16:小春の友人。天真爛漫。平たく言えばアホの子。
人形:正体不明のDOLL。千夏役の方の兼ね役です。
※ナレ(役名)のように表記されているところはその役の人がナレーションを担当してください。なお()内の役に設定上の意味合いはありませんので読みやすい形で変更してもらっても構いません。
※ADを要求する箇所も多く出てきます。各々の声劇の楽しみ方に合わせて頑張ってください。
※SE等々ないとよくわからなくなるシーンもあります。細かくキチンとやりたい方は一度ざっと読んで確認することをお勧めします。なお示し合わせたアドリブでそれっぽく辻褄を合わせてもらっても構いません。
【暫】←しばらくの間を表す
【舞台は前編の最後、小春と佐伯の会話から】
小春:かん……そく……?
佐伯:そう、観測者。学者の中には格好つけてシーカーだとかイマジネーターだとか呼びたがる奴もいるけど、僕から言わせれば観測者で十分だ。なんたって一番的を得ているからね。
小春:あのっ!
佐伯:おや?なんだい。
小春:あっ……。その、えっと。はっ、話が見えてこないんですが!私はこの先、どうしたらいいんですか!その、えっと……あっ!そうだ、幻覚!この幻覚が見えているのは……その……何か……病気とかなんでしょうか!!
【佐伯、目を丸くする】
佐伯:……えっと、キミが見ているのは決して幻覚ではないよ。尋常ならざるものであるのは間違いないが、確かにそこに存在する物体だ。無論私の目にも見えている。もっともキミよりはひどくぼんやりだがね。
小春:なっ……
佐伯:そうだね。そのあたりの込み入った話は彼女に聞いてもらおう。マテリア、あとは頼めるかい。
小春(M):マテリアってあの隣の子……?あの服……メイドさん?
小春:うっ……!
【SE 残像】
【小春がメイド服の少女に意識を向けると、一瞬同じような残像が視界に走る】
マテリア:わかった。
小春(M):またこの残像……もしかしてあの子も?
【SE 残像】【マテリア、一瞬で小春の目の前に移動する】
小春(M):いつの間に目の前に……!
マテリア:怖がらないで。
小春:え……?
佐伯:あいにく、僕は昼間よりもこの夜の時間のほうが忙しいんだ。さながら現代に蘇る吸血鬼ドラキュラ伯爵といったところかな?後のことはそのマテリアに聞いてくれ。大丈夫。僕よりは丁寧な説明をしてくれるさ!ではさらば!はっはっは。
小春:あ!ちょっと!……行っちゃった。
マテリア:じゃあ私たちも行きましょう。
小春:行くって、どこにですか?
マテリア:あなたのおうち
小春:!?
マテリア:あなた一人暮らしでしょ?なら変に怪しまれることもない。
小春:なんでそれを……というかそんな急に!
マテリア:大丈夫。迷惑になるようなことはしない。あなたにはこれから知らなければいけないことが沢山ある。だからあなたが一番落ち着ける場所で話がしたいの。それに最低限あの子の世話もしてあげないといけない。どう?さっきよりはっきり見えてる?
小春:えっと……
マテリア:……そうね。まずはゆっくり深呼吸して。そうして落ち着いたらじっくりと確認するの。焦らなくていいわ。
【小春、深呼吸をする】
小春(M):彼女、マテリアさんの見た目は私と同年代くらいだ。だけどその立ち居振る舞いはとても大人びていた。彼女の優しげな声に敵意がないということは鈍い私にもわかった。いわれるままに私はあらためて人形を確認する。心落ち着けてみるとその全貌が何となく見えてきた。
【SE 残像】
小春:女の人……
マテリア:人間の女性?
小春:はい。まだぼんやりとですが
マテリア:そう。目視はできているようね。ならいいわ。
小春:あの子、ついてきてくれるんですか?
マテリア:そうね。おそらく大丈夫だろうけど……
【マテリア、人形に声をかける】
マテリア:どう?あなたもそのままではつらいでしょう?あなたにしっかりした実体を与えてあげる。今は私たちについてくるだけでいいわ。わかった?
人形:……
マテリア:……大丈夫そうね。
小春:今の間でどんなやり取りが!?
マテリア:あの子のことについては私たちのほうがよっぽど詳しい。大丈夫。ついてきてくれるわ。
小春:ほんとかな……。
【暫】
小春:ごめんね~散らかってて~!
マテリア:問題ないわ。むしろキレイにしてるじゃない。
小春:そ、そうかな。えへへ。
【暫】
【ここからのマテリアの長台詞はだんだん早口になる感じで。小春を翻弄してください】
小春:でぃぺんでん……おーがに……?
マテリア:Dependent Organism of Liquid Lives。彼女の正式名称よ。その頭文字をとってDOLLと略される。依存性流動有機生命体なんて訳があてられることもあるそうよ。
小春:いぞんせー、りゅーどー、ゆーきせー……
マテリア:依存性流動有機生命体。特定の形状の骨格 及び肉体を持たない流動有機生命体の中でも人間の認識能力ないしは想像力に働きかけ、それらを利用する形で自らの在り様を定める生物。そのほとんどが不特定多数の人間に観測されることで固定化される……いわば個として存在し得るらしいけど、その不特定多数の中にも必ず彼らの存在の核となる認識をもつ人間が存在する。それが“観測者”よ。
小春:へぇえ~…………
マテリア:……難しい?
小春:うん……とっても。
マテリア:私にもわからない
小春:ええ!
マテリア:リュージがよく熱弁して聞かせてくれるんだけど実は私もよくわかってないの。この説明もリュージの受け売り。
小春:リュージってあの男の人?
マテリア:そう。サエキリュージ。……本当は本名で呼んじゃいけないんだけど、リュージが今回はそのほうがいいって
小春:彼は何者?
マテリア:……難しい質問ね。簡潔に言うなら管理人かしら。彼はここら一体に現れるDOLLの監視と管理を行っているの。もっともDOLLの出現自体 稀なことだし彼が言うほど忙しくはないはずなんだけどね。
【マテリア、ふふふ、と笑う】
【暫】
小春:マテリアさんは
マテリア:マテリアでいいわ。
小春:じゃあ……マテリア?
マテリア:なぁに
小春:もしかしてマテリアも同じ?
マテリア:そう。その通り。私も彼女と同じ。DOLLよ。
ナレ(明希):小春はあらためて人形を見た。マテリアの言う通り彼女は律儀にも二人のあとをついてきたのだった。
マテリア:私の観測者はリュージよ
小春:でもマテリアはこの子とは全然……
マテリア:同じには見えない……そうね。じゃあ今度はこの子自身の話をしましょうか。小春はこの子を人間の女性といったけれど……年齢はいくつくらい?
小春:私と同じくらい……いや、ちょっと上?染丘部長と同じくらいかなぁ。
小春(M):だけど、部長よりはもっと柔らかで穏やかな雰囲気がする。彼女は無表情で黙ったままじっとこちらを見つめている。
小春:というか得体のしれない物の怪よりも風格のある染丘部長っていったい……
マテリア:そのソメオカが誰かは知らないけれど。……なるほど。高校生の女の子ね。じゃあ次の質問だけど。
小春:ごくり……。
マテリア:彼女は、あなたのタイプの女性?
小春:……はい?
マテリア:あら、語弊があったかしら。つまりはあなたが恋愛対象として好みの女性かという話だけれど。
小春:ちょちょちょちょっと待って!!
マテリア:なぁに?
小春:ど、どうしてそんな話に
マテリア:あなた同性愛者でしょ?
小春:あ……
【暫】
小春:どうしてわかったんですか。
マテリア:あら、ほんとうにそうなのね。
小春:へ?
マテリア:私はエスパーじゃないわ
小春:カマをかけたの?でもなんで……
マテリア:私たちDOLLは依存性生命体。誰かの想像力でかたどられる存在。いわば観測者の理想通りに姿をかえる粘土細工みたいなものなの。様々なケースがあるけど観測者がヒトとして理想の姿を想像すると理想の“恋人”になりがちなの。この子……すなわちあなたのDOLLが女性の姿をしていたからもしかしてあなたの恋人とする性別は同じ女性かしらと思っただけよ。
小春:そうなんだ……がーん……
マテリア:そう落ち込まないで。あなたはそのパーソナリティで苦労したこともあるかもしれない。けれど私たちの世界ではよくあること。隠さなくていいわ。
小春:マテリア……。
【暫】
【場面は移り変わる。時が経ち、マテリアと佐伯が電話で話している】
佐伯:で?そのあとは?
マテリア:あのDOLL、ずいぶんと汚れていたから私がシャワーの面倒を見たわ。今は小春と一緒に“眠っている”。……今はまだ小春が意識を保っていないと個として存在するのは難しいようね。
佐伯:なるほどね。それで、彼女はちゃんと“カラス”だったかい。
マテリア:ええ。確認したわ。彼女を流していた時。背中にしっかりと
A crow cawing at daybreak(夜明けに鳴くカラス)の印字が
佐伯:なるほど……なら彼女は博士の作品で間違いないね。
マテリア:……ねぇリュージ
佐伯:なんだい、マテリア
マテリア:本当に言わなくてよかったの
佐伯:何を?
マテリア:彼女、“カラス”は予定よりもずいぶん早く出現した。通常、認知の薄い状態から多くの人の目に触れ、しっかりとした人間の形になるまでには時間がかかる。
佐伯:そうだね
マテリア:あの子には……最初から形が用意されていたのではなくて?
佐伯:……
マテリア:リュージ?
佐伯:……それは我々が彼女に教えることじゃない。いずれ彼女はその事実と向き合うことになる。そこから先の選択は僕らの干渉するところじゃない。
マテリア:小春に全て委ねると?
佐伯:そう。
マテリア:……
佐伯:心配かい?
マテリア:……彼女には重い選択だわ。
佐伯:キミは相変わらず優しいね
マテリア:リュージが私をそうしたんでしょ?
【暫】
マテリア:夜は暗く先の見えない世界。人はその中でもがき、苦しみ、それでも光を求めて進んでいく。どうか彼女の道が星の光で明るく照らされますように。
【暫】
【舞台は数日後。とある教室。幸雄と小春の会話】
幸雄:浮かない顔だね。
小春:そうですか?
幸雄:わかるよ。長期休暇直前なのにこうも忙しく駆り出される僕ら文化祭 振興委員会……。そりゃ夏休み期間に各クラス出し物の準備するからそれまでに色々決めとかなきゃいけないのはわかるけど……せっかくテストも終わったってのに。さっさと休ませてほしいよね、僕たちも。
小春:はい。
幸雄:うん。
【二人、沈黙】
幸雄:……他の奴ら遅いね。早く来すぎちゃったかな
小春:そうですね。
幸雄:扇風機付けてるのにアッツいねぇ……ドア開けようか?
小春:そうですね。
幸雄:ったく。今年は例年にない異常気象だってニュースでさんざん言ってるのに、冷房は生徒は操作できないって……だったら教師が早入りして付けとけっての。ねぇ?
小春:そうですね。
幸雄:うんうん。今や温暖化の時代、暑さは死活問題だってのに。考えが古すぎるんだようちの高校は。
小春:そうですね。
【二人、またも沈黙】
幸雄:……大丈夫?
小春:へ?
幸雄:小春ちゃん、いつもみたいなキレがないけど
小春:そんなにキレてますか普段の私
幸雄:体調悪いんだったら今日は休んだら?僕が先生に伝えとくよ。
小春:いえ。大丈夫です……(“です”は声が消えるように)
幸雄:熱中症だったら怖いよ?
小春:大丈夫……
幸雄:保健室いこっか?
小春:大丈夫って言ってるじゃないですか!!!(怒って)
幸雄:!
小春:あっ……
【二人、三度目の沈黙】
小春:すみません……
幸雄:いや、僕がしつこかったよ。ごめん。
小春:……
幸雄:……
小春:……やっぱり今日は休みます。
幸雄:……そっか。うん。わかった。
小春:はい。
幸雄:今日決まったことはまたメモって渡すよ。ちゃんと水分とって、ゆっくりしてね。
小春:わかりました。お疲れ様です。
幸雄:お疲れ様。
【暫】
小春:……少し歩こう。
小春(M):七月中旬。下校時刻を過ぎ、生徒の姿はまばらだ。私は帰る前に少し校舎を散歩することにした。涼しい廊下を歩いていると外を走る運動部の掛け声や吹奏楽部のチューバの音色が聞こえてくる。
【暫。ここから回想】
千夏(幼少):廊下でなにしてるの?
小春(M):私と千夏は同じ小学校だった。当時、私は友達が少なく、複雑な家庭環境もあって家にも学校にも居場所なんてなかった。昼休み、下校時間。誰もいない暗い廊下の隅。消火栓の非常灯を眺めながらぼんやりしているときが一番心が安らいだ。
小春(幼少):べつに。たってるだけ。
千夏(幼少):なんで?
小春(幼少):なんでって……ぼーっとしてるの
千夏(幼少):へー
【沈黙。千夏、小春の横で一緒に立つ】
小春(幼少):……なにしてるのよ
千夏(幼少):べつにー。ぼーっとしてるだけー。
小春(幼少):まねしないで
千夏(幼少):ちがうよー。千夏もここすきだもん。
小春(幼少):あんた、チナツっていうの。
千夏(幼少):うん。そっちは?
小春(幼少):……小春。
小春(M):それからだ。私たちはよく話すようになった。千夏は私より二つも上だったから普段会うことはめったになかった。誰もいない廊下、誰もいない階段、運動場の木陰、中庭の壁の隅。そのすべてが私たちの秘密の待合場所だった。今思えば当時、千夏も居場所がなかったのかもしれない。私たちは自然と互いに惹かれあっていった。
【視点は高校の廊下に移る。小春、ひとり呟く】
小春:千夏……
【暫】
小春:会いたいよ……千夏……
【SE 残像】
小春:え!?うぁ!!(突然の頭痛)
【誰もいない廊下に制服姿の人形が現れる】
小春:!(驚く)あなたなんで学校に!
【暫。ここから少し回想】
小春:私以外には見えない?
マテリア:ええ。正確には同じDOLLである私にも見える。リュージもぼんやりとは見えているそうだけど彼は私たちと関わってきた時間が長いから、ほとんど勘みたいなものだと思うわ。
【一呼吸おいて】
マテリア:それに彼女が人の姿を保てるのは夜の間だけみたい。人の姿をとっていないときはたとえあなたであっても見ることはできないわ。
【回想終わり。場面は学校に戻る】
小春:学校では発現しないはずじゃ……!
【※はSE化け物の唸り もしくは役者のアドリブで返答。ただし意味のある言葉を発話しないこと】
人形:※
小春:なに?何か伝えようとしてるの?
人形:※
小春:それ……うちの制服、どうしてあなたが着てるの?
人形:※
【暫】
小春(M):……ついてくるし
人形:※
小春:ねぇ。あなたって私の理想の女の子なんでしょ。それって私の気を引くため?
人形:……
小春:……でもごめんね。私、他に好きな人がいるの。だからあなたの気持ちに応えられない。……あなたのことも本当はあまりはっきり見えない。見てると頭が痛くってうまく見つめることができないの。どうしても目を背けたくなる。
人形:……
小春:ねぇ。あなた、本当は誰なの?
【暫】
人形:※
小春:え?
明希:誰だてめぇはぁあ!!!!
【突如現れた明希、人形を突き飛ばす。人形、廊下にしりもちをつく】
小春:染丘部長!?
明希:チィ!ただでさえ補習の後で憂鬱だってのに輪をかけてサイアクな気分だ……!!
小春(M):この廊下、先輩の教室の近く?でもそんなことより!どうして先輩にあの子が見えてるの!?
明希:てめぇ何もんだ、あ?そんな成りで小春たぶらかしてどういうつもりだ!おい!
小春(M):とにかく止めないと……!
小春:先輩!やめてください!
明希:(小春を無視して人形の胸ぐらをつかみ)アイツがいなくなったのにもてめぇが一枚かんでんのか、ええ?アタシの目ぇごまかせるとでも思ったか?この—————
【一呼吸おいて】
明希:“ナツのニセモノ野郎”!!
小春:え……
【ここからの明希の台詞はだんだん遠くなる演出があると尚良い】
明希:ナツとはガキん時からのダチなんだよ!!小学生の時、親の都合で引っ越して、中学になってノコノコ帰ってきたアタシをアイツは笑顔で迎えてくれた!アタシはなぁ!昔よりずっと笑うのが下手くそになったナツを見てなぁ!もう二度とアイツを一人にしねぇって誓ったんだよ!!……ああ、誓ったのにこのザマさ。どこをどう探してもアイツはいねぇ。しまいにゃてめぇみたいなニセモンが出てくる始末さ!……なぁてめぇ知ってんなら教えてくれよ。ナツは!ナツは一体どこに行っちまったんだよ!!
小春:千夏……この人形が千夏……
マテリア【回想】:——観測者がヒトとして理想の姿を想像すると理想の“恋人”になりがちなの————彼女は、あなたのタイプの女性?
小春:恋人……大切な人……
【一呼吸おいて、ゆっくりと噛み締めるように】
千夏:—————小春は、私の大切な(花の)一輪になってくれる?
【暫】
小春:千夏……
【小春、ゆらりと倒れて気絶する】
【SE 人が倒れる】
【暫】
小春(M):目が覚めた時、見えたのは白い天井だった。
小春:ここは……
幸雄:あ、気が付いた?
小春:凩先輩……
日和:ごはるぅうううううう!!
【日和、小春に抱き着く】
小春:え?うわ!!ひ、日和!?
日和:うえ゛ええん!!よ゛がったよぉおおお!!しんじゃうがどおもったよお゛ぉお!お゛おおおん!!
小春:そんなおおげさな……よしよし、大丈夫だよ日和。
日和:(AD 泣きながら小春によしよしされる)
幸雄:僕もびっくりしたよ。もう帰ったと思ってた小春ちゃんが突如として廊下で倒れてるもんだから。
小春:(独り言のように)あのまま気絶して……そうだ!部長は!
幸雄:隣で寝てるよ。
小春:ええ!?
明希:うう……(うなされている)
幸雄:何したか知らないけど、部長を怒らせちゃったのかい?まったく困ったものだよね。ド貧血のくせに超怒りん坊なんだから。……心配するこっちの身にもなってほしいよ。
小春:じゃああの後部長も倒れて……
幸雄:たまたまその場に居合わせたキミの友達と保健室まで運んできたんだ。
日和:う゛ん、う゛ん、(鼻声でうなずく)
小春:そうだったんだ……
【暫】
小春:それで私は……丸一日もここで?
幸雄:いや?ほんの三時間ほどだよ。さっきもいったけどここは保健室だ。病院じゃない。
小春:え?でも……
ナレ(マテリア):小春は保健室の窓から外を眺めた。外は夕暮れになるどころか燦燦とした太陽が。まるで昼間のように明るかった。
小春:だけど、それならもう夕方のはずですよね?
日和:異常気象なの
小春:異常気象?
幸雄:まだ日が落ちていないようなんだ。
小春:は!?
幸雄:最近、夏にもなって日が長いだろ?
小春:そんな、それにしてもこんな!
幸雄:だよね。僕もそう思う。だけど大人たちも誰も疑問を持たないようなんだ。今年は温暖化の影響もあるからこんな日もあるだろうって。
日和:ねぇ小春。もしかしてだけどさ。このまま待っててもずーっと一生夜が来なくて、そのまま世界が終わっちゃうのかな。
小春:そんな……。
幸雄:とにかく今日は家に帰ってゆっくり休んで。外は暑いけど……大丈夫?一人で帰れるかい?
【暫】
小春(M):日和も凩先輩も最後まで私を心配してくれた。だけどこれ以上二人に迷惑をかけるわけにもいかない。私はカンカン照りの野外に一人歩きだした。
小春:ほんとうに、世界が終わりそうな太陽だ。
小春(M):あの事件の後、私と部長が倒れてるのを二人が見つけた時、側には他に誰もいなかったらしい。あの女の子。千夏の姿をしたDOLLは一体どこに行ってしまったのだろう。
小春:……傷つけちゃったかな。
小春(M):最初からわかっていたはずだった。あの子の姿は初めて会った時から見れば見るほど千夏にそっくりだった。その大きな目も、つややかな睫毛も、口も、輪郭も、その長くて綺麗な髪も。全てが私の憧れた姿そのものだった。なのに。気づけなかった。私の目と脳が気づくことを拒絶していた。マテリア、あのメイド服の少女ににいくら諭されたところで私には彼女を見る気など端からなかったのだ。
小春:あの子、今どこにいるんだろう。
佐伯:知りたいかい?
小春:え?
【小春、振り向くと後ろに声をかけた佐伯の姿が】
小春:リュージさん……?
佐伯:サエキで呼んでくれ。下で呼んでいいのはマテリアだけだ。
小春:彼女がどこにいるのか知ってるんですか?
佐伯:ああ。それにもう一つ。この異常気象の原因もね。
小春:え?なんでその話に……
佐伯:あのDOLL。僕たちが“カラス”と呼ぶ少女は、ここから少し先にいった山麓の神社にいる。
小春:なんでそんなところに?
佐伯:さぁ?僕にもわからない。だけど彼女を見たというマテリアの話では彼女の姿はまるで——————
【一呼吸おいて】
佐伯:光り輝く女神様みたいだったそうだよ。
千夏【回想】:——————ねぇ、ハル。私はね。アマテラスなんだ。そう、太陽の女神様——————
小春:まさか……
佐伯:心当たりがあるようだね
小春:あの子は一体どうなっちゃうんですか!!
佐伯:さぁね。今わかるのは、彼女があの空に浮かぶ太陽と繋がろうとしているということだけ。その余波がこの異常気象といったところだ。興味深い現象だろう?
小春:興味深い現象って…!?何言ってるんですか!!早く止めないと!!
佐伯:どうして?
小春:だってこのままじゃ……!
佐伯:このままじゃ?
小春:このままじゃ……だって!
佐伯:世界が終わるなんて現象にはならないよ。せいぜい耐えきれなくなったDOLLの身体が霧散して消滅するくらいだ。世の中には例年より幾ばくか日照時間が長かった日として記録され、それもそのうち他の出来事に埋もれて忘れ去られる。世界には何一つとして影響しない。
小春:そんな……。っ!(小春、走り出す)
佐伯:(小春を制するように)どこへ行くんだい?……彼女を止める気かい?キミに何ができる?
小春:そんなのわからないじゃないですか!
佐伯:あれは美空千夏じゃないよ。
小春:!なぜ千夏のことを……!
佐伯:どうでもいい存在だろう。世界にとっても、キミにとっても。あれは美空千夏の姿を真似た化学物質のカタマリだ。死んだところでその亡骸さえヒトにとっては煩わしい不燃ごみさ。
小春:っ……あなたDOLLの管理人なんでしょう!?
佐伯:そうとも。僕はアレら希少な生物の監視役。それも貴重な研究資材としてね。だがこうなってしまっては僕にも手が出せない。今までにほとんど例を見ない事態だ。でも安心してくれ。神社に残ったカスは今後のためすべて僕が回収する。キミがわざわざ出向いてやることは何もない。
【小春、絶句する】
佐伯:ご理解いただけたかな?
小春:……私には、わかりません……!ちっともわかりません!!だけど私には……!私には“責任”があります!あの子があんな風になっちゃったのは全部私の……!世界がどうかなんて知らない!これは私個人の気持ちですっ!
【暫】
佐伯:……そうか。なら好きにしたまえ。彼女がいるのはこの道をまっすぐ行った先だ。“まっすぐ”だ。寄り道も分かれ道もなしだ。一度道をそれたらもうたどり着くことはできないよ。
小春:……!ありがとうございます!いってきます!!
【小春、その場から走り去る】
佐伯:……行ってしまったか。ふむ。
【佐伯、物思いにひとり呟く】
佐伯:マテリア。キミの思いは間違ってなかったよ。やれやれ……まったく僕はいつもキミに先を示されてばかりだ。
【視点は走っている小春に移る】
小春:はぁ、はぁ、ちょっと先って言ってたけど、山麓ってまさかあの遠くに見える山!?はぁ、はぁ、全然ちょっとじゃないじゃない!
小春(M):どうしよう。たどり着けなかったらどうしよう。間に合わなかったらどうしよう。私ってなんでいつだってこうなの?千夏は私にはなにも言わずに行っちゃった。あんなに近くにいたのに、あんなに一緒だったのに!私はいつも蚊帳の外で見てるだけなの?
小春:そんなの、もう、やだよ……(息を切らしながら)
【小春の元へ、自転車に乗った明希が全力疾走してくる】
【SE 自転車のベル】
明希:ハぁぁあああルぅぅううううううう!!!!
小春:え!?え、え!?なに!?
明希:ぜぇ、はぁ、乗れ!!!
小春:部長!!なんで!!
明希:聞いたんだよ!!
小春:え?
明希:全部聞いたんだ!あのメイド女に!アタシも、全部!!カンソクだかニンギョウだかもろもろ全部だ!!
小春:マテリア……!
明希:いいから早く!時間ねぇんだろ!!
小春:でも!先輩には関係ありません!……私一人で行きます!自転車借ります!!
明希:ばかやろう!てめぇのタッパでアタシのチャリが漕げるか!!いいから乗れ!!アホ!!!
小春:むぅ……!
【明希、小春を後ろに乗せて神社に向かって自転車を漕いでいる】
明希:はぁ、はぁ、なぁハル。アンタ、アタシのことキライだろ。
小春:そんなこと……
明希:“デキてたんだろ”?ナツと。アンタからしたらアタシは好きな女の側にいきなり現れたジャマモンだ。
小春:……知ってたんですね。
明希:バレバレ。私が気づかないとでも思った?
小春:…………のに
明希:はぁ?なんて?
小春:だったらもっと気を利かせてくれたらよかったのに……
明希:ははは!いいねぇそうこなくっちゃ!!だけど残念。たとえ気を利かせてもアタシとナツは親友だ。そこは譲れねぇし譲らねぇ。けど安心しろ。アタシはアイツに気があるわけじゃない。
小春:でも
明希:最後までアイツの側にいてやれるのはきっとアンタだけだよ
小春:……
小春(M):それです。先輩。それが言えるのが許せないんです。くやしいんです。なんてわがままは口が裂けても言えなかった。
【暫】
明希:はぁ、はぁ、着いたっ……
小春:あの子だ……!行かなきゃ!
【小春、自転車から降りて境内に走る】
明希:はぁ、はぁ、オイオイ、ありがとうもなしか、はぁ、はぁ、とんでもない女だぜ、まったく……。……行ってこい、ハル。
【明希、鍵もかけず自転車から降りて木陰に座り込む】
【SE 倒れる自転車】
【暫】
ナレ(マテリア):それはうたたねで見る夢のような光景だった。神社の境内、石畳の道の上、古く朽ちた大きな木の社を背景に。その光り輝く少女は白い着物に細い羽衣を下げ、天女のような姿で凛と立っていた。
小春:ねぇ!!
ナレ(マテリア):小春が呼びかけると、少女はゆっくりと荘厳に彼女を一瞥する。
小春:あなた……もうすっかり千夏の顔ね。
人形(千夏):どうしたの?小春?
小春:っ!
人形(千夏):ねぇ見て。これが私の本当の姿。一度小春に見せたかったの。
小春:……もういいの。千夏。
人形(千夏):素敵でしょ?これで私もかわいいあなたに見合う姿になれたかしら?
小春:もういいの。もういいのよ。
人形(千夏):どうして?ずっと会いたかったんでしょう?
小春:……そうね。本当に。会いたかった。もう一度千夏に会えるなら(たとえ)死んじゃったっていいってくらい。
人形(千夏):ならどうしてそんなに悲しそうな顔をするの?ねぇ小春。私は帰ってきた。空を見て。あの光り輝く日光の先。あそこに私の故郷があるの。小春も一緒に行きましょう?
小春:それは……とても素敵なお誘いね。……だけどごめん。私はその誘いには応えられない。
人形(千夏):なぜ?
小春:私の知ってる千夏は……私の大切な千夏はね?そんなストレートにデートに誘えるほど器用なヤツじゃないの。もっとへたくそで、あどけなくて、夢見がちで。何でもできそうに見えるけど、ホントはちっともそんなことなんてないんだから。だから……だからこそ私は、チナツの側にいてあげたかった。二人で一緒に欠けたところを埋めあっていきたかった。私はそんな不器用なチナツだからこそ世界で一番大好きだったんだよ。
人形(千夏):……
小春:だから……もういいの。千夏。
ナレ(マテリア):小春は、目の前の壮大な少女をその小さな腕で抱きしめた。
小春:私はどうしようもなくバカで、最低で、意気地なしで、いつもいやになるくらいだけど。だけどちゃんと生きてるから。ちゃんと少しでもキレイな女の子になってチナツを待ってるから。だからもう心配しないで。私の大切な人はいつもここにいるから。
人形(千夏):……かわいくないわね
小春:ばか。チナツが私をそうしたんでしょ?
人形(千夏):そうだった?
小春:そうよ。忘れたの?この短い間ですっかり老けてボケ老人になっちゃった?
人形(千夏):うそつき。
小春:うそじゃないし。ばーか
人形(千夏):……ふへへ(くしゃりと笑う)
【明希、貧血でフラフラな身体をやっと起こして二人を眺める】
明希:アイツ……消えちまったのか?
マテリア:いいえ。ちゃんとそこにいるわ。
明希:うわっ!?メイド女!?いつの間に……。というか、いるの?アタシにはナツが虚空を抱きしめてるようにしか見えないんだけど。
マテリア:でも“カラス”は消滅してない。単に彼女があの姿でいるのをやめただけ。今はまた眠っている。飽きちゃったんじゃない?
明希:なんだそりゃ。気まぐれな奴らだなお前ら。
マテリア:ええ。もちろん。だって恋は気まぐれだもの。
明希:うへぇ……私そういうの無理。吐き気がする……
マテリア:ウブなのね。
明希:なっ……!(赤面)うるせえメイド女!!ほらハルぅ!いつまでも浸ってないでそろそろいくぞ!——————
【暫】
【佐伯、電話越しに誰かと話している】
佐伯:あぁ。そうそう。ここ数日は姿を見せてないってさ。……もちろん!それについては心配ない。こちらも動向は把握している。キミも心配性だねぇ~。……そうさ。彼女だけじゃない。……うん。こちらとしても色々つかんでる情報もある。今度会って照らし合わせようか。……うん……うん……それを言うなよぉ。確かにミソラ博士の奔放ぶりは僕としても思うところはある。けど僕らだって似たようなものさ。そうだろう?何よりも自分の興味を抑えられない者たちの草の根同盟。キミだって悪い気はしてないだろう。……うん……うん……そうかい。ありがとう。じゃあ僕からの報告はこんなところかな。うん。また学会で会おう。ああそうさ。世界の平和なんてどうでもいい。すべては新たな探求のために。じゃあね。
~DOLL Case 1. Fin~




