DOLL Case 1.~夜明けに鳴くカラス~ 前編
【登場人物】
小春♀16:Case 1.の主人公。引っ込み思案。重度の猫被り。メンヘラ。
千夏♀18:小春の思い人。変人。苗字は美空
明希♀18:小春の部活の先輩(部長)。男口調の番長気質。苗字は染丘
幸織♂17:小春の部活の先輩。生真面目で世話焼き。苗字は凩
佐伯♂28:高校教師。謎の多い人物。話が長い。
マテリア♀16~18?:佐伯の相棒らしき人物。メイド服の少女。行儀がいい。
日和♀16:小春の友人。天真爛漫。平たく言えばアホの子。
クラスの男子生徒たち:役者2~3人のアドリブでお願いします
※ナレ(役名)のように表記されているところはその役の人がナレーションを担当してください。なお()内の役に設定上の意味合いはありませんので読みやすい形で変更してもらっても構いません。
※ADを要求する箇所も多く出てきます。各々の声劇の楽しみ方に合わせて頑張ってください。
※SE等々ないとよくわからなくなるシーンもあります。細かくキチンとやりたい方は一度ざっと読んで確認することをお勧めします。なお示し合わせたアドリブでそれっぽく辻褄を合わせてもらっても構いません。
【暫】←しばらくの間を表す
ナレ(佐伯):Q、あなたにはたいせつなものがありますか?
小春:はい。あります。
ナレ(明希):Q、それはかけがえのないもの?
小春:はい。かけがえのない人です。
ナレ:Q、その人のこと、今でも好き?
小春:はい。好きです。この気持ちは変わらない
ナレ(マテリア):Q、じゃあ……彼女が帰ってこなかったら、どうするの?
小春:……どうしてそんなことをいうの(少し苛立ちを込めて)
ナレ(幸織):Q、あなたは
小春:質問に答えて!
ナレ(佐伯):(小春を無視して)彼女の代わりが欲しいですか?
小春:っ………!(言葉を失う)
ナレ:Q
小春:……
ナレ:Q
小春:……
【ナレ達(小春以外の役者たち全員)は口々にひたすらにQを繰り返す。小春はその間ずっと黙り込み考えているが、やがてナレを遮るように話し出す。小春が話し出すのに応じてナレ達はQと言うのを止める】
小春:わからないよ!でも……
【一呼吸おいて】
小春:千夏の代わりなんて、いるはずがないんだから。
【暫】
佐伯:閑話休題。物語はとある部室から始まる。
マテリア:DOLL Case 1. “夜明けに鳴くカラス“の話
【暫】
【舞台は高校の部室。パソコン画面とにらめっこしながらキーボードを叩き続ける男子が一人。その後ろで反対にした椅子の背もたれに寄りかかり缶コーヒーを飲みながらニヤニヤする女子が一人。その傍らで椅子に行儀よく座り、二人を怪訝そうに眺める女子が一人】
明希:幸織ォ……まだリスト上がんねぇのか
幸織:やってますよ……。まったく、うちの高校、どれだけ部活があるんですか……。加えて部活にもならない同好会、ついでにわけのわからない倶楽部まで……。いいですか?量の多いデータを整理するには少なからず時間というものが
明希:減らず口叩いてねぇで手ぇ動かせ
幸織:座って缶コーヒー飲んでる人に言われたくない!
明希:私は担当分終わらせただろうが!お前がサボってないかこうやって見守るのが今の私の仕事だ。
幸織:(小声で)要領だけはバカみたいにいいんだから……
明希:お前は要領だけは悪いな。無駄にずるがしこいくせに
幸織:“ずるがしこい”じゃなくて“聡明”だと言ってください!量より質のタイプなんですよボクは。……小さなことから虎視眈々と!
明希:なんだそれ。座右の銘か?
幸織:ボクのモットーです!……よし!終わった!
明希:オー、ヨクヤッター(棒読み)
小春:やりましたね! 先輩!
幸織:え?
小春:え?
【暫】
幸織:小春ちゃん……まだ居たの!?
小春:え、いや、あの、ずっと見てました——————
幸織:終わったら帰っていいって言ったでしょ!部長もなに傍観してんすか!
明希:ハルが帰らねぇってんだからいいだろー。
幸織:部長のアンタが何も言わなきゃ帰りづらいでしょ!
明希:そうか?
幸織:そうだ!!
明希:ハル、帰っていいぞー
幸織:遅いッ!!!
小春(M):ここは私たち県立 卯ノ川高校地域科学研究部、通称地研の部室である。どこぞの会社のオフィスとかでは決してない。言うまでもないが、“部長”というのも部活の長という意味であって、会社の部長という意味ではない。
幸織:大体これ!文化祭の出し物リストってうちの仕事じゃないでしょ!!
明希:おう。生徒会長のご依頼だ。
幸織:ですよね!!
小春(M):生徒会の資料作りなどの雑務をこなすのも地研の仕事だ。……というか、もはや地域研究部というより生徒会第二支部だ。私が入学する前から、うちの学校の風潮らしい
明希:しかたねぇだろ、事前申請なく使えるノーパソがウチにしかねぇんだから。ウチがやってやったほうが早いだろ。
幸織:パソコンごと貸し出しゃいいでしょうが!
明希:ごたごた言うな!これも地域奉仕部の活動の一環だ!
小春:地域奉仕部じゃなくて地域研究部ですが……。
小春(M):とにかくうちは他の部に比べて一風変わっているのは確かである。こうやって言い争ってる二人も決して仲が悪いわけじゃない。部長と凩先輩の言い合いはうちの部の風物詩みたいなものだ。
【幸織と明希、にらみ合っている】
幸織:ぎいいい……!
明希:う゛うぅぅ……!(獣の唸り声)
小春(M):……多分。
幸織:とにかく、小春ちゃんも無理に残らなくていいよ。早く帰りな?
小春:いえ、お構いなく……
幸織:構いまくるよ。ったく……もう暗いし……家まで送ろうか?
小春:そんな!大丈夫ですよ!ここらへん治安良いですし!多分!
明希:そうだぞー。心配しすぎだぞー。
幸織:部長は黙って!
明希:ぶー……(不満げ)
小春(M):強い……
明希:そうだな……うし!私が途中まで送ってくよ
小春:いやそんな……
明希:アタシも帰る方向としてはハルと同じなんだ。ちょっと遠回りになるが……まぁいいだろう。
幸織:……染丘部長に喧嘩ふっかけるような馬鹿はいないでしょう。殺し屋みたいなオーラ出てますから
明希:おう。安心しろ。変態が出たら、イチモツ引きちぎって二度とガキのつくれねぇ身体にしてやる。
幸織:怖っ!まかり間違っても自分から襲いにいかないでくださいよー
小春:ははは……
【暫】
(小春(M):こうして私と部長は一緒に夜道を行くことになった。 )
【美晴と明希、並んで夜道を歩いている】
明希:今日は休み中に悪いな。
小春:いえ、どうせ暇なので!
明希:そうか。そいつは良かった。
小春:えへへ。
【暫】
明希:……最近どうだ?うまくやってるか?
小春:え?
明希:その……なんだ。……ナツのこともある。ハルは仲良かったろ。
小春:あー……。
明希:私だってショックだった。
小春:部長も?
明希:ああ、長い付き合いだからな。でも多分ハルのほうがよっぽどこたえてると私は思ってさ。
小春:どうでしょうか。
明希:アイツいなくなってから見るからにしぼんでるよ。アンタ。
小春:……
小春(M):するどい。この人の目は欺けない。
明希:……すまん。答えづらいよな、悪い。込み入ったこと聞いちまった。
小春:いえ、うれしいです。先輩がそこまで気にかけてくれて。でも大丈夫です!私こう見えて切り替え早いので!
明希:そうか……ならいいが。おっと私はこっち(の道)だな。
小春:ここでお別れですね。
明希:今生の別れみたいなセリフだな。
小春:縁起でもありません。
明希:……だな。じゃあ、気をつけてな。
小春:はい!おやすみなさい!
明希:おやすみ。
【暫】
小春(M):……優しい。本当に心配してくれてるんだ。なんだかんだ、情の深い人なんだ……だけど。
【小春、明希を見送りながらボソリとつぶやく】
小春:……何も知らないくせに。
【場面が変わって、幸織。廊下で佐伯とすれ違う】
佐伯:幸織君、遅くまでお疲れ様。
幸織:佐伯先生!先生も遅くまでお疲れ様です。
佐伯:教師ってのはいつもこんなものだよ。平常運転。
幸織:その木の箱は何ですか?
佐伯:ああ、これ?気になる? (食い気味に)
幸織:……生物部の新しい標本ですか?
佐伯:ご名答!
幸織:また新しいの持ってきて……怒られないんですか?
佐伯:生徒たちの熱心な学習意欲を教師が削ぐなんてありえないだろ?これは彼らの未来のための投資だよ。少なくとも教頭はそうやって論破した。
幸織:怒られてるじゃないですか。
佐伯:ちょっと注意されただけさ。それより見てみろこのトカゲ!綺麗に標本化されてるだろ?本物そのものさ!
幸織:爬虫類の保存状態なんて興味ないです。大体僕が————
佐伯:“僕が興味があるのは人間だけだ”……たしか医学部志望なんだって?うわさは聞いてるよ。頑なだって。まぁキミの頭の良さなら夢のまた夢だとは思わないけど。やめといたほうがいいよ。グロテスクだし。それより生物系にしなよ。
幸織:何が違うんですか。
佐伯:治すのと科学するのとじゃ領域が違う。キミの興味はもっと深いところにあるんじゃない?
幸織:だから僕は……
佐伯:(遮るように)人間も爬虫類も同じさ。遍くみな同じ一つより分かたれたものだ。
幸織:何が言いたいんです。
佐伯:同じように科学できるということさ。トカゲを知ることは人を知ることと見つけたり。……人を検めることはトカゲを検めることと見つけたり。
幸織:……哲学の話は嫌いです。具体性に欠けている。
佐伯:キミもいずれ気づくさ。内なるキミ自身の探究欲求に。さぁ!もう時刻も遅い!生徒は帰った帰った!はっはっは。
【佐伯、標本の入った箱をガチャガチャ言わせながら去る】
幸織:何なんだいったい……。
【視界は佐伯にシフトする】
【SE 携帯電話の着信音】
【佐伯、わざとらしくハイテンションで】
佐伯:おっと。(箱を置いて電話を取る)もしもし?ああ!マイケルじゃないか!久しぶり!……うんうん、去年の学会以来かな?元気にしてるかい?今ニューヨークはどうだい?……うんうんそっか!ゴメンちょっと部屋に入るから待ってて、(箱を持ち上げて)よいしょっと。
【佐伯、誰もいない生物準備室に入ると、先程とは表情が変わり電話を持ち直す】
佐伯:(声色を変えて小声で)それで?こんな時間に突然連絡なんてどうしたんだいマテリア?
マテリア:(電話越しに)周りは?
佐伯:ああ、誰もいないさ。でも手短に頼むよ。
マテリア:わかった。報告は手短に。
佐伯:その通りさ。
【暫】
マテリア:“カラス”が観測された。
佐伯:なっ……!
【暫】
佐伯:オーケー。状況は大体わかった。
マテリア:どうするの?
佐伯:どうもしないさ。
マテリア:どうして?
佐伯:僕の仕事じゃない。それにDOLLの所在は元より観測者に委ねられている。部外者が口を出すものじゃない。まぁ最も……
【暫】
佐伯:観測者が僕らに近しい人間であれば話は別だけど、ね?
【視界は移り変わり美晴の元へ。小春の家の玄関扉前。見知らぬ異様な姿をした人型が立っている】
【SE 残像】
小春(M):それは息を吞むような出会い。夜の空気がねじ曲がり、柔らかくほどけていくよう。目の前のそれは世界にぽっかり空いた穴のようで、それでいて確かにそこに息づいていた。
小春:あなたは……だれ?
【SE 化け物の唸り声】
【暫】
【舞台は現実に戻り、卯ノ川高校昼休みの時間。小春は友人の日和と一緒にお弁当を食べながら話している】
日和:で、その人影は消えちゃったってワケ?
小春:消えたっていうか……うーん。目にこう……ばばばっと残像みたいなのが入って……気が付いたら誰もいなかったって言うか。
日和:えー!めっちゃホラーじゃん!
小春:なんでそんなに嬉しそうなの。
日和:だって面白いじゃん!映画みたいで!
小春:他人事だと思って……。好きなの?ホラー
日和:大の大好物だね!ホラー映画とかホラーゲームとか……あと、ホラー“サイト”とか!
小春:ホラーサイト?都市伝説掲示板みたいなの?
日和:それもあるけど、もっとこう、サイト自体がホラーのやつ!ツギノ碑とか株式会社“塚”とか、知らない?
小春:うわぁー……どれも嫌な感じ
日和:面白いんだって!そうだ、今度DVD貸してあげる!
小春:遠慮しとく。(小声で)相談相手間違えたかな……
【暫。日和は興奮してがつがつ弁当を食べている】
日和:(口をもごもごさせながら)でも、ホラーじゃなくてマジモンの不審者だったらヤバくない?
小春:うん。私もそれが怖くて。
日和:警察に相談したら?
小春:真面目に取り合ってくれるかなぁ。
日和:(今の話だとそれは)ないかもねー。
小春:だよねー……。
日和:あ、防犯ブザーとか持っとけば?
小春:ちょっと、私いくつだと思ってるの!
日和:ランドセルしょってりゃ小学生に見えなくもない。
小春:なっ……!?
日和:小春ちっちゃくてかわいいからなー。幼児体型ってやつ?合法ロリだよ、合法ロリ!
小春:日和!声が大きい……!
クラスの男子生徒たち:(AD ざわめく)
小春:男子も聞いてるんだから……!
日和:女子に聞かれるほうが致命的では?
小春:私をなんだと思ってるの!
日和:え?だからロリ……
小春:(遮るように)日和!!
【小春、立ち上がって日和の服をつかむ】
日和:ああ!ごめん!ごめんって!!謝るから怒んないで!!あー!!ちょっと襟をつかんで揺らさないで!!伸びる!!セーラーが伸びちゃうぅ!!勘弁して小春様ぁー!!!
クラスの男子生徒たち:(AD ざわめく)
【場面は変わり、舞台は小春の自室。学校から帰った小春はいそいそと宿題に取り組んでいる。窓の外はもう暗い】
小春(M):結局なんにも解決しなかった……。まぁ今日は明るいうちにこうして帰ってこられたから良かったんだけど。
小春:よし宿題の続きを……
【暫】
小春:教科書13ページ13ページ……これかな。うん。よし!つまりこれは……っあ、ボールペンのインクなくなっちゃった……。確かこのへんに……。あれ!?ない!
【小春、ないないと慌てながらゴソゴソ】
小春:今まで切らしたことなかったのにー!!!なんで!?
明希【回想】:—————最近どうだ?うまくやってるか?
—————アイツがいなくなってから見るからにしぼんでるよ。アンタ。
小春:……そっか。そうだよね。いつも通りじゃいられないんだ。私。
小春(M):私の思い人。美空千夏は二ヵ月ほど前、謎の失踪を遂げた。天涯孤独の彼女は誰に気づかれることもなくひっそりとどこかへいってしまった。
明希【回想】:アイツのことだ。きっとフラっと帰ってくるさ。
小春(M):先輩はそういっていた。……だけど私はなんとなく、千夏はもう帰ってこないような気がした。そして、二度と会えないんじゃないかって。そんな気がしたんだ。
【ここから回想】
【夕暮れの教室、机に向かい何かを書き付けている小春。そして小春の前の席に座りそれを眺めてくつろいでいる千夏】
千夏:ねぇ、ハル。私はね。アマテラスなんだ。
小春(M):夕暮れの教室。千夏はくしゃりと笑ってそういった。
小春:あまてらす?
千夏:そう。太陽の女神様。
小春:また大きく出たわね。
千夏:本当よ?私はそう信じてるの。
小春(M):窓から吹いた暖かな風で千夏の長くて綺麗な髪がふわりと揺れる。
小春:今日はなんで縛ってないの?
千夏:このほうが気が楽なの。でも(いつも)これだと首元が暑くてしょうがないでしょ?だから仕方なく縛ってるだけ。
小春:短くすればいいのに。
千夏:ハルは私の長い髪、キライ?
小春:……いじわる。
千夏:かわいい。
小春:うるさい。
千夏:ハルの驚いた顔見るためだけにショートにするのもイイかも。
小春:(話を切るように)それで、その女神様が何なの?
小春(M):からかうのも大概にしろ。そんなつもりで睨むと千夏はにこりと笑ってわざとらしく肩をすくめる。
千夏:そう。女神様。この身体は私のただ一部でしかない。本来の私はあの空の上にあって、人々を照らし続けているの。
小春:太陽みたいに。
千夏:私は太陽
小春:そう。素敵ね。(さらりと流すように)
小春(M):千夏はよく奇想天外な話をした。私を試しているのか、ただからかっているだけなのか。千夏の真意はわからない。でも、いずれにせよ私は千夏のやけに壮大な話を聞くのが好きだった。
小春:それで?千夏が太陽なら私は何?月とか?
千夏:うーん。でも月が好きなのは地球なのよねー。
小春:そうなの?
千夏:月は地球の周りを回っているじゃない!
小春:そこは科学的なのね。
千夏:そうよ?ほんとのことだもの。そうね……ハルは……。
小春(M):千夏はじっくりと考えるように目を伏せる。どうやら真剣に考えているようだ。烏羽色の睫毛が夕日を受けてつややかに光る。
千夏:ハルは……向日葵。
小春:ひまわり?
千夏:そう。かわいいでしょ?
小春:そうだけど、またずいぶんスケールが小さいわ。
千夏:そう。空に浮かぶ太陽に比べたらとてもちっぽけで可愛らしい花の一輪。でも一生懸命太陽を追いかけて……じっと、ずっと、かわらず私を見つめてる。月よりも金星よりも水星よりも、私にとってかけがえのない一輪の花。
小春:それが私。
千夏:そう。
小春:……変な口説き方。
千夏:ふふふ。
【暫】
【小春、ここからは独り言のように】
小春:そうだ。千夏はきっとアマテラスなんだろう。あの広い空にきらきらと輝く女神様なんだ。でも。
【暫】
小春:太陽のようにいつまでも輝いてはくれない。きっと、すぐにでも、消えるように燃え尽きていく。そのあまりの眩しさにふと私が目を閉じ、そしてもう一度開いたとき。貴女の姿は煙のように、もうそこにはいないのだ。
【舞台は小春の部屋に戻る。小春、窓の外の夜闇を眺める】
小春:コンビニだったら開いてるよね……。
日和【回想】:————ホラーじゃなくてマジモンの不審者だったらヤバくない?
小春(M):外はあの日の夜と同じ。もう日は落ちて真っ暗だ。
小春:……考えすぎよ。ちょっとすぐそこのコンビニに買いに出るだけなんだから。大丈夫。大丈夫。
小春(M):私はボールペンを買いに行くことにした。明日にはないと授業に支障が出る。外、肌寒いかも。コートを羽織っていこう。下は部屋着のままだけど……別にいいよね。
小春(M):コンビニまでは特に何事もなくついた。明かりのついた店内に入るとなんだか急に自分のラフな格好が恥ずかしくなった。というかこの季節のコートは流石にちょっと暑い。失敗失敗。私はボールペンだけをすばやくレジに持っていき、そそくさとコンビニを後にした。
小春:なぁんだ。何も起こらないや。
小春(M):余裕のできた私は帰り道の寒空の中、普段は全く気にも留めない夜空の星を数えてみたり、その流れで何となく感傷に浸ってみたりした。
千夏【回想】:————このほうが気が楽なの。私の長い髪、キライ?
小春(M):千夏もどこかでこの夜空を見てるのかな……
【小春がそう思うや否や、突然視界に残像が入る】
【※の台詞の間、小春はずっと苦しむアドリブ】
小春:(痛みに驚いて)うぁ!?……うっ……!!(苦しみだす)
※千夏【回想】:———かわいい。ふふふ
小春(M):何……!?頭が……痛い……!
※千夏【回想】:————ハルは向日葵。私は好きだけど。
小春(M):痛い……!もうやめて!
※千夏【回想】:————私にとって、かけがえのない一輪の花。
【小春の目の前にはいつのまにか、例の人影が立っている】
小春:!?
【SE 化け物の唸り声】
小春:あなたは……あの夜の……!いったい何だっていうの?
佐伯:教えてあげようお嬢さん。彼女の名前はDOLL。キミの常識を逸脱した存在だ。
小春:え……?
【佐伯とその傍らにメイド服の少女が立っている】
小春:あなたは……
佐伯:こんばんは。こんな夜遅くに外を出歩くなんていけない子だ。夜闇というのは生物にとって、古来より畏怖の対象だ。こわいものがたくさん潜んでいる。覚えておくといい、お嬢さん。……おっと。そうだ。キミはもうただのお嬢さんではなくなってしまったのだった。ならば一度はこう呼んでさしあげないと。
小春:いったい何を……!
佐伯:ようこそ、夜の領域へ。歓迎しよう。新たな観測者さん?
~後編に続く~




