29枚目
これは俺が幼い頃、まだ両親と暮らしていた時のことだ。
その日は珍しく母さんが、ちゃんとした飯を作ってくれた。親父は相変わらず酒と他の女と遊んでいたけど、そんなことはどうでもよかった。
「うわぁ……!」
リビングからいい匂いがしてきて、幼かった俺は思わずテーブルに身を乗り出す。その日の料理は床に置いたりせずに、机の上にホタテや刺身の色鮮やかなちらし寿司が俺の目を輝かせた。
「アイちゃん、そんなのはみっともないわ。ちゃんと座って食べなさい」
「わ、わかった」
母さんが少し怒っているのを察した俺は、急いで椅子に座ってきちんとする。
白米の上にはマグロやサーモンの刺身に丸いホタテ。細長く切った卵焼きにイクラ、刻み海苔と目白押しだ。
「今日はたんと食べてね」
「い、いただきます……」
今日の母さんは変だ。いつも以上に優しくて怖くなる。幼い俺は慣れない手つきでスプーンを使ってちらし寿司を食べた。
「美味しい!」
俺の口から出た言葉はこれだった。あの時食べたちらし寿司は、本当に美味しかったのだ。
母さんが笑みをほころばせて、優しい言葉で口を開く。
「そう、それはよかった。今日は特別な日だからね」
「……なんで特別なの? ご飯もいつものと、違う」
「母さんが結婚する前、こことは違う国に住んでいてね。そこには子供の成長を願うお祝いの日があるの。だから母さん頑張っちゃった」
恐る恐る聞くと、母さんは怒る素振りもせずに暖かい微笑みで答えた。俺は母さんが気でもおかしくなったのかと内心怯えていた。
「そうなんだ……」
俺が気づいたときにはもう後の祭りで、俺の頭の上には母さんの手があった。褒めることができなくて殴られると思ったが、なんと母さんは俺の頭を撫でてくれた。
「いい子に育ってね、アイちゃん」
*
暖かな日差しが差し込む部屋で、心地いい夢を見る。目が覚めると、気づけば俺は泣いていた。
結局、手記はいまだに白紙のままで未だに何も書かれてはいない。手記のそばには、俺の大好きなヒヨコのぬいぐるみがあった。
俺はようやく幸せになれた。幸せになってトラウマから解放された。
「……母さん。俺、いい子になれたかな?」
幸せになれたから、母さんの愛情を知ることができたのだった。
くる俺、夏の日からようやく完結することができました!読んでくださって本当にありがとうございます…!
一時期はもう続きを書けないと悩んでいたのですが、とある小説や読者の皆さんのおかげで書ききることができました!感謝しかないです…。
来年の夏はまたホラーっぽいものを投稿するかわかりませんが、他に連載している小説も含めて楽しんで頂けたら幸いです
ありがとうございました! 2019.10.12




