20枚目
「あ、あの、ヴィネット」
「話は後よ。ここはもうダメみたい」
バイクに乗り泣きそうな声で、俺はヴィネットにすがる。気がつくとバーに着いていたが、そこはもう警察に嗅ぎ付けられていた。ヴィネットは舌打ちをし、ため息をつく。
「こうなったら、アタシの家に行くしかないわね」
「ヴィネットの、家……」
「そうよ。あんまりいいところじゃないけどね」
ヴィネットの家はどんなところなのだろう。奴のことだから、きっと趣味の悪いド派手な家だろうか。それとも、意外と小綺麗なところだろうか。そう考えていると、歯切れを切らしたようにヴィネットが口を開く。
「行くわよ」
ヴィネットは警察に気づかれないように裏を周り、静かにエンジンをかけて自宅へと急ぐ。そして、俺は彼の自宅に居候することになった。
「ここがアタシの家よ」
「お、お邪魔します」
ヴィネットの家はおんぼろなアパートだった。外面は訳あり物件のようで、部屋のなかは十分に掃除がされている綺麗な部屋だ。
だが、目を見張るものがそこにはいた。
「やっほーおかえりぃ。なんか今日外騒がしかったけど、だいじょぶだった?」
「ひいっ!」
なぜかヴィネットの部屋には女がいた。思わず身がこわばり、ヴィネットの後ろに隠れる。
女は髪も目も黒くて、巻き毛で無駄に胸がでかい。ゆったりとした服を着ていて、メガネをかけている。
「あ、ごめん。もしかして女の人苦手? ウブだなぁ」
「おい。あんまり怖がらせんなよ、アクター」
「だってぇ、可愛いんだもん! 可愛いは正義! はいこれテストに出るから」
「アイちゃんごめんね。こいつがいるから、あなたを家に連れたくなかったの」
俺はただうなずくことしかできなかった。体は恐怖ですっかり固まり、二人の話を黙って聞く。
「ひっど! ひっどいよヴィネ!」
「騒ぐ暇があるなら、誤解を解くためにちょっとは気を遣えよ」
女は「はいはい」と適当に返事をし、俺に自己紹介をする。
「私の名前はアクター。芥川龍之介の芥でーす。あと、ヴィネちゃんとはズッ友! よろしくね、少年」