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城の前には、城の主が一人いた。白髪の魔術師は、湖を舟で渡ってやって来た客を見て、手を上げ「やぁ、お師匠」と明るく挨拶した。リアはいつも通りのリンを見て、やはり自分はよく分からない現象に巻き込まれたのか、と先程まであった事実を疑った。リンはリアが舟から下りると、後ろからハグをした。リアはリンの熱を感じ紅潮した。リンはリアの耳元でささやいた。
「お帰りなさい、リア」
城主の言葉は甘く、陽気だった。リアは戸惑いながら尋ねた。
「僕がこの城の管理者になる話は本当ですか、リン?」
リンは肯った。
「明日、リアルが聖杯の使い方を教えてくれるでしょう。リアはこの城の魔力の流れを知って、管理者と同じことができるようになります。旅人のままで良いのですが、私と連れ添っていただけますか?」
リアは思わぬ求婚の言葉にとっさに理解できなかったが、時間を置いてこくりと頷いた。
「はい、喜んで……」
風が流れ、湖を揺らした。リンはそっとリアの口に唇を重ねて、お礼の挨拶をした。リアは古き友であり新しき伴侶の口付けで頬を染めた。新しく約束を交わした二人は、唇を外すと、優しく見つめ合った。リンは言った。
「リアが聖杯城に来た時、やりたかったことがあったのです。城の中へ入りましょう」
リンはリアの手を繋いで、城へと案内した。
城の居間には、大きな黒いグランドピアノがあった。リアはヴァイオリンの演奏を所望されていることを察し、鞄から楽器を取り出して、リンを見た。リンはピアノの椅子に座った。ピアノは奏者の指に触れることなく、音楽を流し始めた。それは西大陸で有名な舞踏曲で、リアも何度も酒場で演奏したことのある曲だった。哀愁漂う導入の後、リアはヴァイオリンにゆっくりと音を乗せた。ピアノの伴奏はヴァイオリンの音色を支え、一緒に歌った。
曲は切なさを歌った後、一気に切り替わって、速いパッセージになった。リアが得意とした部分だった。ピアノはヴァイオリンを煽るように速いテンポで走り、ヴァイオリンの奏者は煽りに乗り、ピタリと合わせるように弓を動かした。ヴァイオリンは愛情を歌い、ピアノは寄り添った。終盤は転調で明るく激しく歌い、曲が終わった。リアはヴァイオリンの最後の一音をピタリと終えると、軽く高揚した。リンは微笑んだ。
「私は二千年間、夢でリアを見て、この曲を聴いていました」
リアもにこりとした。リンの伴奏はまるでマッサージをしてもらった時のように、長く旅を共にした知己の安心感があった。リンは言葉を続けた。
「またこの城に帰った時は、ヴァイオリンを聞かせて下さい」
「はい。僕は西大陸に帰る家ができたのですね」
リアはこそばゆそうに呟いた。




