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時間を戻して、リアルがリアに聖杯の使い方を教えた日の翌日のことである。リアルはつつじ女子大学図書館の館長として、大学の理事長室にいた。理事長の秋藤和は、リアルが学生たちに貸し出している西大陸を夢見ることができる道具“クロス”について詳細を知り、リアルが異界の人であることを了解していた。つつじ女子大学は秋藤家が歴代の理事長を務めており、初代理事長からリアルとずっと懇意にしていた。
リアルは報告が終わり、ほうーと溜息を吐いた。
「どうしたの〜? リアルさん。いつもきりっとしたあなたらしくないわねぇ」
和は子どもの頃から顔を合わせているリアルに、親身になって尋ねた。リアルは部下でありながら、よく居酒屋に飲みに行き、女性同士の友情もあった。リアルはピンク色の前髪をかき分けた。
「はぁ、ちょっとね。帽子屋とまた面倒臭くてね……」
「ダンナと何かあったの? 話を聞くわよ。いつもの居酒屋に予約入れとくから、私の仕事が終わったら一緒に飲みましょう」
「そうするわ、和。私でもコレは重たかったから」
つつじ駅から運河へ行く途中にあるチェーン店の居酒屋の個室の一室に、リアルと和は陣取っていた。和は芋焼酎を飲みながら、長年の友達にあったことを聞いた。
「え、それ、有り得なくない? 二千年間も連れ添った相手が、新しく二人目の配偶者を迎えたって? 西大陸では普通なの?」
「普通じゃないわよ。でも、帽子屋は元々普通じゃないのよね」
リアルは友達の付き合いでビールを飲んだ。異界の者は異界の酒は酔わないが、リアルはこの世界では付き合いで酒を飲む時はビールを頼んでいた。
「元々、リアは元カノだったわけよ。西大陸にいた時は、私は元カノと帽子屋が続いていることを知っていたけど付き合っていたのよ。リアも同じ。一緒に暮らしていたわけじゃないから、結婚はしていなかったの。
二千年の間、聖杯城は私と帽子屋だけだったわ。それはまぁ、お互い伴侶として暮らしていたの。私は聖杯城で毎日過ごすのではなくて、いつも異界で仕事をしたり、息抜きしていたりしていたわ。今だったら、週末に城に帰る感じね。
帽子屋は好きな人はずっと好きなのよ。一番なんて求められないし、帽子屋の一番は、アーサよ。でも、長く連れ添った私に遠慮してリアと再会しても友人でいるつもりだったみたいだけど、熱い心は通わせている感じだったのよ。私は帽子屋を変えるつもりはないわ。だから、私は見えづらい恋の嫉妬にイライラしないで、リアを認めたの」
「大変ねぇ。どこの世界も結婚って苦労するわね。リアルさん、元カノとダンナが一緒にいるのって、落ち着かないでしょ?」
「帽子屋は『帽子屋』よ。変わることはないわ。三人で仲良くって訳にはいかないけど、新しい関係は意外と慣れるのに時間がかかりそうね」
和はリアルの肩を抱いて、ぽんぽんと叩いた。
「よしよし。あなたも結構気が強いから、大変よね。きっと、ダンナもあなた一人を選ばなくても、ちゃんとあなたを大切にするわよ」
「ありがとう。今日は面倒な話をしたわね」
「いいのよ〜。私も同じくらい気の強い女友達のリアルさんは、背中を預けられる仲間だと思っているから、守る時はきちんと守るわよ〜」
和の言うことは本当だった。魔法を使ったクロスを本として貸し出しても目立たないのは、理事長である秋藤家の和が異論を抑えているからだった。リアルは居酒屋で和と別れると、大学図書館の付近の海の見える高層マンションの一人の家に帰った。




