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掌⑪

顔がそっくりーーーーー

この間道で見かけたのはそいつなのか?

散らかった疑問を整理するのは後でいい。今日はやらないといけないことがある。

蓮の病室に着いた。さっき配膳車が通っていった。昼食が回収されてるっぽい。

個室のドアをノックして開けた。

「よっ。休みだからちょっと顔出した」

「理久」

「暇だろうから本適当に持ってきた」

「いいのか」

「本読むの好きだろ」

「うん。何冊かあったんだけどちょうど読み終わって暇してたんだ」

「なら良かった。どれがいいかわかんなかったからミステリーで面白そうなの選んできた」

「ありがとう」

「分厚いから読むの相当時間かかるぞ」

「そのほうがいい。ミステリーは読み返すの好きだし」

床頭台の上に食べ終わった膳が置いてある。

「もうトイレ行ったのか?」

「まだだけど、どうして?」

「いや、自分で動くの大変そうだから車椅子押そうと思って」

「トイレなら昼食前に行ってきた。それに少しの移動なら自走できるんだ」

「そうか。あ、検査とかあるんじゃ?」

「検査はまだ何時間も後だから気にしなくていいよ」

「なるほど」

「どうかしたのか?」

気まずい。何か言い訳を考えとけばよかった。

「そんなに心配してくれなくても大丈夫だよ。順調に回復していってるから」

「それは良かった、な」

胸がチクチクする。それでぎこちなくなってしまった。

「理久こそ大丈夫か?」

「えっ」

「何か相談したいことがあるなら言ってくれよな。病人だけど、話聞くくらいならできるから」

「あー…ありがとな。何でもない。そう言えば最近どうなんだ?その、なんか、なんかを思い出したとか…」

蓮は少し考えてから顔色を変えた。

「夕夏ちゃんのこと?」

心臓が飛び出しそうなほど驚いた。

「夕夏ちゃんのこと、思い出したのか?」

蓮は深刻そうに黙った。ああ、もうだめだ。

「思い出せない。だから困ってるんだ」

安堵して鼓動はちがう形で鳴り始めた。

「困ってるってなんだよ」

「あれから何度か来てくれてるんだ」

「え…」

「特に会話することもなくて、ひとこと言って差し入れを置いたらすぐ帰るんだ」

「でも見舞いに来てくれてるんだろ?困るとか言うなよ」

「相手に困ってるんじゃない、僕が何も思い出せないから困ってる。その… 悲しそうだから」

「忘れられたら悲しいに決まってるだろ」

自分で言っといてハッとした。

「でも、そんな無理に思い出そうとしなくていいんじゃないか?大変な手術したんだし、あんま無理は良くないと思うぞ」

「それはそうだけど、悪いような気がして」

「なるようにしかならないだろ。あ、気分転換とかどうだ?外天気いいし、散歩行こうぜ」

「…そうだな」

蓮は笑った。

車椅子をベッドに付けると蓮は柵に掴まり立ち上がった。確かに体力は大分回復していそうだ。

部屋を出てナースステーションに向かう途中で蓮に言った。

「あ、鞄置いてきた。携帯だけ取ってくる」

「わかった。外出ること先に言いに行っとく」

「悪い」

俺は出来るだけ平然を装いながら蓮の部屋へと歩いた。


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