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掌⑨

そこからは話題を変えた。周りに聞こえるとあんまり良くないからだ。それに一哉の視線も気になる。

他愛もない話をした。同じ年なのもあって学生のとき流行った歌とかドラマとか、あとは俺が好きだった都市伝説の話とかをした。夕夏ちゃんは笑っていた。その笑顔を見る度にもっと知りたいと言う気持ちが膨らんだ。

カラー材を流し髪を乾かしていると夕夏ちゃんは目を閉じた。暫くは無口なままで、俺はできるだけそっと髪をほぐしながらドライヤーの風を当てた。

仕上げのカットを済ませて落ちた髪を払うと夕夏ちゃんはやっと目を開けた。

「ワックスつける?」

「ううん、ワックスは苦手かな」

「わかった。オイルならどう?」

「うん、お願いします」

最近入ってきた人気のヘアオイルを取り出しキャップを開けた。オイルを手に出して伸ばし毛先を中心に馴染ませていった。

「いい匂い」

「人気らしいよ。このオイル、キンモクセイの香りなんだ」

最後に髪全体を指で整えた。綺麗なボブに仕上がってよかった、そう思いながらケープを外しバックミラーを広げた。

「こんな感じに…」

言いかけて俺は息を止めた。夕夏ちゃんは涙を浮かべている。目が合うと戸惑った顔になった。

「あっごめん。さっき髪、目に入った?」

「…うん、ちょっとだけ」

夕夏ちゃんは微笑んだ。

「こんな感じに仕上がってます」

「ありがとう、綺麗にしてくれて」

俺は笑顔を返した。

レジでロッカーから鞄を取り出して振り向くと、夕夏ちゃんの目から涙はもう消えていた。

「雨降ってるかな」

会計が終わって一緒に外へ出た。雨粒は見当たらないけど空はかなり暗い。

「気をつけて帰って」

「ありがとう。また連絡するね」

「うん、待ってる」

夕夏ちゃんは笑顔で小さく手を振り帰っていった。後ろ姿を見ながらあの涙は何だったのかと気になった。

店内に戻りレジに置いてある予約リストの確認をした。次の指名まで30分空いてる。

「おい、顔に感情出まくり野郎」

先にお客さんを見送った一哉が横に来た。

「お前あんま変な顔で見んなよ。おかしいと思われるだろ」

「いやいや、お前の顔の方が変だったぞ」

「え、まじで?」

動揺してると一哉は笑った。

「理久は弄りがいがあるな」

「早く仕事戻れよ」

「はいはい。まぁ頑張って成就させろよな」

一哉は俺の肩をひとつ叩いた。

「あっ!お前、手にオイルついたままで触るなよ」

「いい匂いなんだからいいじゃ~ん」

ふざけた声で去っていく一哉に呆れた視線を向けた。本当に変な顔してたかもしれない、そう思ったらなんか恥ずかしくなってきた。俺はかっこいい奴になりたいのに。


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