マシンと、私と、先生と、初戦闘……です!
某ロボット小説について言及したエッセイに触発されました。元は練習作だったのですが、手直しして投稿してみました。お目汚しかもしれませんが、読んでいただければ幸いです。
「大丈夫、大丈夫、私は大丈夫……かなあ?」
ずらりと居並ぶ受験生の輪の中で、アマネの心は緊張と不安と狼狽の三重苦を奏でていた。操縦式ロボット「マシンフレーム」のパイロット試験場の中に今、アマネは居る。居る、と言っても、実際の肉体がここにある訳では無い。ここはVRゲームの中、仮想現実の世界の一部なのである。
「これより、試験を開始する。最初は三択の回答問題だ。諸君らの健闘を祈る」
ゲームのキャラクターの試験官の合図で、背景が教室風の部屋に切り替わった。ゲームの中なのだから、こういった演出もよくある。
「先生のアドバイス通りにやれば、うまくいくはず」
アマネのつぶやきは正しかった。彼女の師の教えは的確だったようで、アマネは順調に三択を選んでいった。もっとも、出題される中身はゲームの常識やマナーに関するものなので、よほどの事が無ければ失敗することもないし、失敗してもペナルティは無く、「リトライしますか?」と表示されるゲームのシステムメッセージに「はい」と答えるだけで即座に再試験を受けられるのだ。そして無事「リトライ」することなく、アマネは試験に合格したのだった。
VR技術の発展によって、人々がその恩恵を享受できるようになった時代。それは、ゲームの業界でも例外では無かった。とあるVRゲームのプレイヤーのひとり「アマネ」は、とある事情からベテランプレイヤーに弟子入りし、今に至る。
「やったなアマネちゃん、これでマシンフレームを動かせるぞ」
ガッツポーズをとりながら教え子の合格に顔を綻ばせる青年、彼のキャラネームはユウキと言い、アマネからは「先生」と呼ばれている。
「せ、先生のアドバイスのおかげです……」
「いや、俺は大したことはしてないよ。マシンの召喚はこれから?」
「はい、先生にも見て貰いたくて」
アマネは目の前の空間にアイテムリストのウィンドウを表示させ、「召喚札」の項目を選ぶ。すると、彼女の手のひらに小さなカードが現れた。
「こ、この世界の理に則り、大いなる力の機を私に! 契約者の名はアマネ……」
ふしぎな力に導かれるように、アマネの手から自然と召喚札が離れてゆき、まばゆい光を放つと、光は人の形を作って拡大し、そばにいた2人の視界を急速に覆っていった。
「これほど強い光の召喚演出は珍しいな。期待できるかもしれない」
ユウキのつぶやきを肯定するかのように、機械仕掛けの巨人が立っていた。洗練されたフォルムの中に静かさと力強さをたたえるその姿は、非常に高い性能を秘めている感覚を匂わせた。
「これは……アルマトリスか!」
「アルマトリス、この機体の名前ですか?」
「そう、扱いやすさと機体スペックのバランスが高次元で両立されている新型機。少し前のアップデートで追加された機体のひとつさ。アマネちゃんはマシンの女神に愛されてるかもしれない」
「アルマトリス、これが私の……マシンフレーム!」
こうしてアマネはマシンフレームの操縦者「フレームドライバー」となった。
フレームドライバーとなったアマネはアルマトリスの操作を練習しつつ、ゲーム内のメインコンテンツのひとつ「シナリオミッション」に臨もうとしていた。
「どう?気分は悪くない?」
音声用の通話回線からユウキの声が聞こえてくる。シナリオミッションはその仕様上、1人で挑まねばならないことも多い。今回のミッション「偵察部隊強襲」も、そのひとつである。
「大丈夫です、VR酔いはありません」
「OK、じゃあ武装の最終確認をしよう」
コクピット内のアマネはコンソールのキーを叩いて武装の一覧表を表示した。ここでアルマトリスの使用可能兵装が確認できる。主要なものは次の通り。
魔導電流式レールガン、ミスリルカッター、ナパームグレネード、ワイヤークロー、硬メタルシールドなど、射撃・白兵どちらにも対応できる武器が搭載されている。
「ミッションが開始されれば通信も一時的に出来なくなる。まあ、アマネちゃんとアルマトリスのコンビなら余裕さ。失敗したって誰かに叱られる訳じゃない、ゲームなんだから、気楽に楽しもう」
ユウキの言葉を聞いてもまだ緊張の微粒子を纏わせているアマネであったが、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせてミッションに出撃する、そんな初陣のスタートであった。
お読みいただき、ありがとうございます。