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第二話 面接

面談の日。俺は新宿駅にいた。


「……人、多いな」


 平日の昼間だというのに、駅は人で溢れかえっている。電車から降りてくる人、これから電車に乗る人、待ち合わせをしている人。様々な人間が行き交うその光景を横目に、俺はスマホを取り出して目的地を確認する。


「えーっと……新宿駅から徒歩十分くらいか」


 今日の目的地は白峰プロダクションの本社。新宿にあるオフィスビルの一角に本社を構えている大企業というほどではないが、所属している探索者はかなり多い。探索者のマネジメントだけでなく、配信活動のサポートやイベントの企画、ダンジョン攻略に関する仕事まで幅広く行っているらしい。


 そんな会社に、俺は今日、面談を受けに来ている。


「……まあ、受かればいいな」


 正直に言えば、かなり受かりたい。だって推しのマネージャーになれるのだ。しかも給料まで貰える。こんな素晴らしい仕事が他にあるだろうか。


 ……まあ、実際の仕事内容については、まだ詳しく知らないのだけど。


 俺はスマホをポケットにしまい、新宿駅の改札を抜ける。案内板を確認して地上へ出ると、一気に街の喧騒が押し寄せてきた。車の走る音。人の話し声。店から流れる音楽。巨大なビルを見上げれば、そこら中に広告が張り付いている。何度来ても新宿は騒がしい街だと思う。


「こっち……だよな」


 スマホの地図を見ながら歩く。大通りを進み、交差点を渡る。そのまましばらく歩いていると、目的のビルが見えてきた。


「……あれか」


 そこそこ高いオフィスビル。入口の案内板には、いくつもの企業名が並んでいる。その中に『白峰プロダクション』の名前を見つけた。


「よし」


 俺は一度だけ深呼吸をして、ビルの中へ入った。


 受付で名前を告げると、女性が丁寧に対応してくれる。


「本日、面接予定の黒崎蓮です」


「確認いたしますので、少々お待ちください」


 受付の女性がパソコンを操作する。


「はい、確認できました。担当者が参りますので、そちらでお待ちください」


「ありがとうございます」


 案内された椅子に座り、俺は周囲を見渡す。受付の奥には会社のロゴが飾られていて、その近くには所属している探索者たちの写真が並んでいる。様々な探索者の写真を眺めていると、その中に見慣れた三人の姿を見つけた。


「……白雪」


 思わず小さく呟く。


 危ない。面談に来たことを忘れそうになった。


 今日の俺はファンじゃない。応募者だ。


 それに、俺にはマネージャーとしてアピールできることがある。探索者として培ってきた状況判断能力や危機察知能力、そして何より、どんな状況でも冷静に行動できること。


 ……まあ、そのまま話すわけにはいかないのだけど。


 俺の正体は隠している。世界最強の探索者だと知られれば、今の生活が終わる。だから面談では、あくまで普通の探索者として話すつもりだ。


「まあ、普通にやればいいか」


 そんなことを考えていると、受付の方から声が聞こえた。


「黒崎さん、お待たせしました」


「はい」


 振り返ると、三十代くらいの男性が立っていた。


「本日面接を担当します、探索者事業部の白石です」


「黒崎蓮です。本日はよろしくお願いします」


「こちらこそ。では、面接室へどうぞ」


「失礼します」


 案内された部屋へ入り、椅子に座る。向かい側には白石さん。その隣には人事担当らしい女性が座っていた。


「それでは、始めましょうか」


「はい」


「まず、簡単に自己紹介をお願いできますか?」


 俺は一度姿勢を正してから口を開いた。


「黒崎蓮、二十四歳です。これまでアルバイトをしながら探索者として活動してきました。探索者として活動する中で、周囲の状況を見ながら行動することや、問題が起きた際に冷静に判断することを意識してきました。今回、その経験を別の形でも活かしたいと思い、応募しました。本日はよろしくお願いします」


「ありがとうございます」


 白石さんが履歴書に何かを書き込む。


「では、今回弊社を志望した理由を教えてください」


「はい」


 ここはかなり重要だ。まさか「推しがいるからです」なんて言えるわけがない。


「探索者に関わる仕事をしたいと思ったからです。これまで自分自身が探索者として活動してきたので、探索者がどういうことを考えているのか、どういう場面で困るのかという部分については、ある程度理解できると思っています」


「なるほど」


「また、御社では探索者の配信活動やイベントにも力を入れていると知りました。探索だけではなく、そういった活動を支える仕事にも興味があります」


 嘘ではない。むしろ本音だ。ただし、本当の理由を一つだけ隠している。


「ありがとうございます。それでは、黒崎さん自身の長所を教えてください」


「長所……ですか」


「はい」


 俺は少し考える。


「判断が早いところだと思います」


「判断が早い?」


「はい。何か問題が起きた時に、状況を整理して、どう動くべきかを決めることは得意だと思っています」


「具体的な経験はありますか?」


「探索者として活動していた時に、予定していたルートが使えなくなったことが何度かありました。その時に周囲の状況を確認して別のルートを選択したり、危険がある場合には撤退を判断したりしていました」


 本当はもっと危険な場面を何度も経験しているのだが、当然そこまでは話さない。


「マネージャーの仕事でも予定変更などは多いと思うので、その判断力は活かせると思っています」


「確かに」


 白石さんが頷く。


「では、逆に短所はありますか?」


「……興味のあることに集中しすぎるところです」


「集中しすぎる?」


「はい。一度集中すると、それ以外が見えなくなることがあります」


 これも本当だ。昔から興味を持ったことにはとことんのめり込む性格だった。


「その点については、仕事では優先順位を意識するようにしています」


「なるほど」


 面接官がメモを取る。


「では、もし担当する探索者と意見が食い違った場合、黒崎さんならどうしますか?」


「まず相手の意見を聞きます」


「それでも自分の考えの方が正しいと思ったら?」


「理由を説明します」


「それでも納得してもらえなかったら?」


「最終的には、会社として決められた方針に従います」


「分かりました」


 白石さんは頷く。


「では、仕事をする上で大切にしていることは何ですか?」


「信頼関係だと思います」


「理由を聞かせてもらえますか?」


「マネージャーは担当する人と一緒に仕事をする時間が長いと思うので、信頼されなければ仕事が成り立たないと思っています」


 これは本当にそう思っている。マネージャーに限らず、人と仕事をするなら信頼関係は重要だ。


「なので、任された仕事をきちんとやること。約束を守ること。問題があれば早めに報告すること。この三つは特に意識したいです」


「ありがとうございます」


 白石さんは満足そうに頷いた。


 その後もいくつか質問が続いた。仕事で失敗した時にどうするか。複数の仕事を同時に任された場合はどうするか。苦手な人間と仕事をする場合はどうするか。どれも一般的な会社の面接で聞かれるような内容だった。


 俺も一つ一つ、できるだけ普通に答えていく。


 そして最後。


「では、こちらからの質問は以上になります。黒崎さんから何か質問はありますか?」


「はい」


 いわゆる逆質問というやつだ。


「マネージャーとして採用された場合、最初はどのような仕事から担当することになりますか?」


「最初は先輩マネージャーについてもらいながら、担当する探索者のスケジュール管理や配信準備などを覚えてもらいます」


「なるほど」


「慣れてくれば、イベントの調整やダンジョン探索への同行などもお願いすることになります」


「あとは探索者の護衛やダンジョンの下見も行ってもらいます」


「分かりました」


 これは重要だ。


「担当する探索者とは、普段どのくらい一緒に行動することになるのでしょうか?」


「担当によりますが、かなり近い距離で仕事をすることになると思います」


「そうですか。ありがとうございます」


 俺は内心で小さくガッツポーズをした。


 かなり近い距離。


 つまり。


 推しと。


 仕事として。


 近くで。


 ……最高じゃないか。


 表情には出さない。絶対に出さない。ここでニヤけたら終わりだ。


「他にはありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「分かりました。それでは、本日の面談は終了となります」


「本日はありがとうございました」


 俺は立ち上がり、二人に頭を下げる。


「結果については、数日以内にご連絡します」


「よろしくお願いします」


 そうして俺は面接室を出た。


 そのまま受付まで戻り、ビルの外へ出る。


「……終わった」


 新宿の街を歩きながら、俺は大きく息を吐いた。


 面談自体は普通だった。


 特に変なことも聞かれなかったし、こちらも普通に答えられたと思う。


「受かってるといいな」


 スマホを取り出し、何となく白雪の公式アカウントを開く。


 今日の夜にも配信があるらしい。


「……楽しみだな」


 そんなことを考えながら歩く。


 





新宿駅方面のに歩くと店に来ないかという勧誘が凄かった。


…新宿は嫌いだ



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