第9話:森に帰還した“窮奇”、痛みの王に跪く
森の入口をくぐると、湿った土の匂いと、濃い緑の影がドロルを包んだ。
いつもの森。
いつもの仕事。
だが――今日は、森の空気がどこか重かった。
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◆ ギルド酒場に流れる噂
ドロルがギルドの酒場で一人飯を食っていた時のことだ。
肉とパンを噛みしめながら、周囲の冒険者たちの会話が耳に入ってきた。
「おい聞いたか? 森に翼のある虎が出たらしいぞ」
「森の王者キラーベアを食ってたって話だ」
ドロルは心の中でツッコんだ。
(アイツはもう何も喰えないよ)
「怖くて逃げたって奴もいるらしい」
「名前は窮奇って言うらしいぜ」
(窮奇って言うのか。翼虎じゃないんだな)
「聖獣の一種らしいぞ」
ドロルはパンを噛みながら眉をひそめた。
(聖獣? 脳溢血と歯髄炎、歯槽膿漏、更に倍は……なんかヤバいかな?)
「なんでこの森に出たんだ?」
「ギルドでも初めての事らしい」
ドロルはエールを飲みながら、心の中で呟いた。
(ふ〜ん。まぁ、いいか。何も喰えずそのうち死ぬだろう。
素材を回収できないのが心残りだな)
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◆ 数日後、森にて
いつものように森で活動するドロル。
薬草を探し、ゴブリンを倒し、魔石を取り出す。
Eランクになっても、やることは変わらない。
その時――
ガサガサッ。
木の上から音がした。
ドロルはゆっくりと見上げた。
そこにいたのは――
白い翼を広げた虎。
窮奇。
「み、見つけたぞ……!」
窮奇が震える声で言った。
ドロルは目を細めた。
「喋れるのか」
「こ、この痛みを……何とかしろ……!
何も……喰えない……!」
窮奇は木の上で身体を震わせ、
口を押さえながら涙目でドロルを睨んでいた。
ドロルは肩をすくめた。
「しろ? ずいぶん上から目線だな」
「き、貴様……!
喰えないだけだ……!
殺すことは……できるぞ……!」
ドロルは、不敵に笑った。
「へえ、まだそんなことが言える余裕があるんだ?
やってみろよ」
窮奇は怒りに震え、翼を広げて飛び降りた。
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◆ 窮奇の襲撃
「グルァァァァッ!!」
窮奇はドロルに向かって突進した。
鋭い爪で、ドロルを切り裂こうとしてくる。
ドロルは静かに呟いた。
「群発頭痛十倍」
「アガッ!! 目、目が……!!」
窮奇は地面に転がり、
頭を押さえてのたうち回った。
ドロルはショートソードを抜きながら、
淡々と説明を始めた。
「群発頭痛ってのはな。
目の奥を針で刺されるような痛みが続くんだ。
十倍なら……まあ、死ぬほどだろうな」
窮奇は涙を流しながら地面を叩いた。
「ガアアアアアッ!!」
ドロルは剣を構えた。
「死ね。
これで素材を手に入れられるぞ」
剣を振り下ろす――
しかし。
ガキィンッ!!
剣が弾かれた。
窮奇の皮膚は硬く、
ドロルの力では傷ひとつつけられない。
「……腐っても聖獣ってやつか」
窮奇は震えながら、
恨めしそうにドロルを睨んだ。
「き、貴様……!」
ドロルは剣を下ろし、
ゆっくりと窮奇に近づいた。
「だったら……心筋梗塞十倍」
「がああああああああああ!!」
窮奇は胸を押さえ、
呼吸が乱れ、
地面に倒れ込んだ。
ドロルは淡々と説明する。
「心筋梗塞はな。
心臓の血管が詰まって、
胸が締め付けられるように痛むんだ。
十倍なら……まあ、死ぬ寸前だろうな」
窮奇は震えながら涙を流した。
「ガ……ガ……」
ドロルは首を傾げた。
「あれー、まだ死なないの?
それじゃ――更に倍にしようかな?」
窮奇は慌てて叫んだ。
「や、止めろ!!」
ドロルはわざと聞き返した。
「止めろ?」
「止めてくれ……!」
「くれ?」
「止めてください……!」
ドロルは笑った。
「対価は?」
窮奇は震えながら言った。
「……対価……?」
「そうだな。
⋯⋯⋯俺に――従属しろ」
窮奇は、痛みに震えながら、
ゆっくりと頭を下げた。
「……従属する……
だから……この痛みを……止めてくれ……」
ドロルは満足げに頷いた。
「よし。
じゃあ――従属の証だ」
指を鳴らすと、
窮奇の痛みが消えた。
「俺の名はドロルだ。覚えておけ」
窮奇を見ながら剣を収めるドロル。
窮奇は地面に崩れ落ち、
荒い息を吐きながらドロルを見上げた。
「……ドロル……様……」
ドロルは森の奥へ歩き出した。
「行くぞ、窮奇。
お前は今日から――俺の従魔だ」
窮奇は震えながら立ち上がり、
ドロルの後を追った。




