↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【痛みの帝王】 〜65歳で全ての激痛を経験した男、異世界で“痛みを操る”チートを得て成り上がる〜  作者: ボルトコボルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/39

第33話 迷宮の奥──鎖に繋がれた影

 隠し通路から戻ったドロルは、しばらくその場に立ち止まった。

 胸の奥に、冷たいざわつきが残っている。

 恐怖ではない。

 長年の経験からくる“嫌な予感”だ。


 窮奇が横で静かに気配を探っていた。


「……窮奇。さっきの影、ただの魔獣じゃないな」


 ドロルの声は落ち着いていた。

 驚きや怯えではなく、状況を冷静に分析する者の声だ。


 窮奇は低く唸った。


「主殿の察しの通りだ。

 あれは自然に生まれた魔獣ではない。

 魔力の濁り方が異常だ」


「濁り方……か」


 ドロルは目を細めた。

 魔獣の魔力は、これまで何度も見てきた。

 だが、あの影は違った。

 迷宮の魔力とは別の、人工的な匂いが混じっていた。


「魔道具の匂いがしたな。

 魔獣に魔道具の匂いが混じるなんて、普通はあり得ない」


 窮奇は頷いた。


「儂も同じ感想だ。

 あれは“育てられた魔獣”だろう。

 迷宮の魔力を吸わせて成長させている」


 ドロルは静かに息を吐いた。


「……ろくでもない連中がいるらしい」


 その言い方は淡々としていたが、

 その奥には確かな怒りがあった。


 ***


 迷宮の低層は、異様なほど静かだった。

 魔獣の気配がほとんどない。


「静かすぎるな」

 ドロルは周囲を見渡した。


「低層はもっと雑音が多いはずだ。

 魔獣の足音、冒険者の声……

 それがまるで消えている」


 窮奇は鼻を鳴らした。


「魔獣が逃げているのだ。

 あの影の気配を恐れている」


「魔獣が恐れるほどの存在……か」


 ドロルは足元に落ちている金属片に気づいた。

 拾い上げると、それは隣領の兵士の装備の一部だった。


「……隣領の兵士の装備だな」


 窮奇は匂いを嗅ぎ、眉をひそめた。


「間違いない。

 野営地で儂が倒した兵士と同じ匂いだ」


 ドロルは装備を見つめながら、淡々と言った。


「兵士が迷宮に入った理由は……

 考えたくはないが、ろくでもない目的だろう」


 窮奇は静かに言った。


「主殿、兵士たちは“餌”だったのかもしれぬ」


 ドロルは表情を変えずに答えた。


「だろうな。

 装備だけが残っているのが、その証拠だ」


 淡々とした口調だが、

 その奥には冷たい怒りが滲んでいた。


 ***


 その時──

 隠し通路の奥から、重い音が響いた。


 ガラガラ……ガンッ。


 鎖が擦れる音。

 壁を叩くような鈍い衝撃。


 ドロルは反射的に振り返ったが、

 その表情は驚きではなく、警戒と分析だった。


「……鎖だな」


 窮奇は翼を広げ、ドロルを庇うように前へ出た。


「主殿の察しの通りだ。

 影の魔獣は、鎖で拘束されている」


「誰かが飼っている……ということか」


「隣領の領主か、その配下だろう。

 兵士の装備があったのは、魔獣の“餌”として使われたからだ」


 ドロルは静かに息を吐いた。


「……人間は、禁忌を前にすると平気で踏み越える。

 迷宮を私物化する連中がいるのは確かだ」


 その言葉は淡々としていたが、

 その奥には深い軽蔑があった。


 ***


 通路の奥から、魔力の波動が揺れた。

 ドロルの体が微かに熱を帯びる。


 窮奇が気づいた。


「主殿の魔力が反応している。

 影の魔獣が主殿を認識したのだ」


「……面倒だな」


 ドロルは冷静に言った。


「深入りすれば、あれが目を覚ます。

 今の状況で戦うのは愚策だ」


 窮奇は頷いた。


「賢明だ、主殿」


 ドロルは通路の奥を一度だけ見つめた。

 薄暗い闇の中で、巨大な影がゆっくりと揺れた。


 その影は、こちらを見ているようだった。


「引くぞ、窮奇。

 今はまだ、奥へ行くべきじゃない」


 二人は迷宮の入口へ向かった。


 ***


 入口に戻ると、ギルド職員が怯えた顔で話しかけてきた。


「……最近、迷宮で行方不明者が増えてるんです」


 ドロルは落ち着いた声で返した。


「低層でか?」


 職員は震える声で頷いた。


「はい……低層なのに、帰ってこない人が……

 魔獣の仕業とは思えなくて……」


 窮奇は静かに言った。


「主殿、あの影が原因だろう」


 ドロルは迷宮の奥を振り返った。


 その時──

 迷宮の奥から、低く、重く、獣とも人ともつかない声が響いた。


「……アァ……」


 ドロルは目を細めた。


「……生まれてはいけないものの声だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。