資金繰り
魔術師は、五大属性に加えて闇と光の7つの属性からなる。
闇の魔術師は破壊と構築の力を宿し、それは主に空間移動や呪術、秘薬の調合に使われてきた。
リュシカの生家であるスペンシア家は、闇の魔術師の家系で、先々代の当主が王宮勤めの中で功績を立てたことにより、子爵位を賜った。
ところが貴族社会に慣れない先代の当主が、詐欺まがいの事業に手を出して多額の借金を抱えることとなり、家族の生活は困窮した。
家督と共に借金を継いだ父は、貴族としての体裁を保ちながらも、王宮に勤めて地道に返済をしていた。
リュシカの母は、幼い頃に事故で亡くなり、父と兄と最低限の使用人で、禁欲と節約を掲げながら、慎ましく暮らしていた。
リュシカが10歳になると、兄と共に魔法術学校へ通うことになった。
6年間の授業料は莫大で、家計が逼迫されることは分かっていたが、父には子供達を学校に通わせないという選択肢はなかった
なぜなら国際機関や魔法術協会、宮廷魔術師などの名誉ある高給取りの職種は、魔法術学校を卒業していることが必須であり、6年間の教育課程を終えて、はじめて魔術師として世に認められるからだ。
そして、学校には我が家のような貧乏人にも希望の光があった。
在学時に魔法術協会が主催する論文大会で、優秀と評された者は、6年間の授業料が免除される。
リュシカは勉強が得意ではなかったので、得意分野だけを伸ばして研究に勤しんだ。
「コーデリア様、このブレスレットを売ってもいいですか!?」
最高学年となったリュシカは、学生服のままバルモント侯爵家に突撃した。
「突然聞かれても分からないわ。何があったのか、何故売るのか、事情を話してちょうだい」
侯爵家の令嬢でリュシカの2つ歳上のコーデリア。
彼女はブレスレットを握りしめながら突然訪問した友人にも気を悪くせず、部屋へと招き入れてくれた。
「論文大会で優秀者に選ばれる必要があるんです」
「前に聞いたわ。親御さんのために努力して偉いわね」
「ところがその研究費用がかさむんですぅぅ……」
授業料の支払い方法は選択でき、一括前払いもあれば年払いもあり、免除を狙って6年分を一括後払いする生徒もいた。
リュシカの兄は、見事論文で功績を立て、授業料免除となり支払いを避けられた。
リュシカはというと、これまでに優秀者として選ばれることはなかったので、このままでは6年分の授業料を負債として抱えることになりそうだった。
今年は最後の勝負の年であった。
「それで私があげたブレスレットを研究費に工面したいのね」
「はい……」
「あなたの性格上そういったことをするのは嫌だろうに……」
コーデリアの言う通り、頂いたものをお金に変えるのは嫌だった。
申し訳なさでいっぱいのリュシカは、悔しさでブレスレットを強く握っていた。
「あなたの気持ちは受け取ったわ。私からのプレゼントをそんなに大事に想ってくれて嬉しい」
「コーデリア様……ごめんなさい」
「謝る必要なんてないのよ。リュシカにあげたのだから好きにすればいいの。だけどあなたが罪悪感で押し潰されそうな姿は私も見ていて辛いわ。資金を用意しても受け取ってくれそうもないし」
コーデリアは何か方法はないかと、頬に手を添えて首を傾げた。
「そうだわ。以前私のためにしたことを仕事にしてみてはどう?」
「お使いですか?」
「そちらではなくて」
「ハッ! 呪術ですか?」
以前、コーデリアの婚約者が彼女との約束を忘れてすっぽかしたことがあった。
傷付いたコーデリアの気持ちを癒したいと、リュシカは婚約者に小さな仕返しをしたのである。
このブレスレットも、お礼として渡されたお金を突っぱねた代わりに貰ったものであった。
「呪術で研究資金を稼ぐのよ」
コーデリアの話では、貴族の中にはライバルや上司に鬱憤が溜まっている人が多いのだとか。
「依頼人は私が厳選した人を集めてくるから安心なさい。私達で困っている人達を救ってしまいましょう」
「救う……?」
それは厄介者で何物も生まないとされる闇魔術師にとって、魅力的な言葉だった。
コーデリアは魅惑的に微笑んで頷いた。
リュシカも生唾を飲み込んだあと、ゆっくりと首を上下に動かして同意した。
その瞳は、黒く怪し気に光輝いていた。




