最後の風は南から ― 後楽園の聖地に現れた“完成されすぎた新人” ―
新橋ヒロ室が、またしてもよく分からないイベントを開催した。
その名も――
「戦隊ヒロイン大感謝祭」
戦隊ヒロインサミットとは別物らしい。
ただし、どう違うのかを明確に説明できる者はヒロ室内部にもいない。
だが会場だけは妙に本格的だった。
都内でも“あの会場”として知られる、プロレスの名勝負が生まれ、長寿バラエティがたまに公開収録しそうな、丸くて独特の圧を持つ聖地級ホール。
そのリングではなくステージの上に、今日は戦隊ヒロインたちが立つ。
MCはもちろん、熊本弁バスガイドの西里香澄。
安定感が違う。
「みなさーん、今日はよう来てくれました〜!」
一声で場がまとまる。
さすがである。
出演者も豪華だった。
東日本在住のヒロインたちを中心に、
グレースフォースのみのり・ひかり
江戸っ子ギャルの小春
気品と現場力の麗奈
存在感の強い美里
歌姫の詩織
白いリボンの妖精こと陽菜
ベイサイドトリニティの沙羅・澪・理世
上京ヒロインのなつめ・乙美・紗耶
が次々登場し、会場を温めていく。
その中でも、一度会場をきれいに支配したのは歌姫・詩織だった。
やわらかな照明の中、詩織がマイクを持つ。
そして一曲、歌う。
もう、声がいい。
優しい。
まるで会場全体を毛布で包んだみたいな、癒やしボイスである。
観客はうっとり。
会場の空気まで少し丸くなる。
「やっぱ詩織ちゃんの歌は反則だよねぇ」と客席から漏れるほど、完璧な流れだった。
――のだが。
曲後のフリートークで香澄が「詩織さん、今日は緊張しとるですか?」と振ると、
「はい、でも大丈夫です。昨日から喉のために加湿器を三台つけて、部屋がもはや熱帯雨林でした」
ズコーッ。
会場が盛大にずっこける。
「多すぎるでしょ!」
「そこまでやるの!?」
詩織本人は真面目である。
だがこのギャップがたまらない。
歌えば天使、しゃべれば天然。
だからこそ詩織は相変わらず人気者なのだった。
そんなふうに、イベントはすでに十分盛り上がっていた。
いや、むしろここまでもう大成功と言ってよかった。
だが、ここで香澄がマイクを持ち直す。
「ここで、新しい風をご紹介します」
空気が少し変わる。
沙羅が、どこか得意げに一歩前へ出る。
「私の大学の同級生よ」
そして呼び込まれたのが――
金城伊織だった。
沖縄県那覇市出身。
横浜市鶴見区在住。
最後の空白を埋めた沖縄代表。
姿を見せた瞬間、客席の空気がはっきり変わる。
「……え?」
「新人?」
「強っ……」
そういうざわめきが、ちゃんと起こる。
南国ムード全開の華やかな美女。
彫りの深い、整った顔立ち。
ロングヘアも華やかなのに上品で、立ち姿がとにかく堂々としている。
“新人だから初々しい”という感じが一切ない。
最初から完成している。
「金城伊織です。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます」
挨拶も完璧。
視線も、間の取り方も、姿勢も、全部きれい。
「……ほぼ全部持ってったね」
小春が袖でぼそっと言う。
「持っていったわね」
沙羅も苦笑いだが、どこか誇らしい。
陽菜は素直に目を丸くする。
「すごい……ちゃんとしてる……」
「比較対象がお前なのが一番失礼だよ」
小春が即ツッコむ。
伊織は質疑応答でも一切崩れない。
将来は教師として沖縄に戻ること。
戦隊ヒロイン活動は大学までにしたいこと。
それでも沖縄代表として、今は全力で取り組みたいこと。
その答え方の全部に筋が通っている。
会場はすっかり伊織のものになっていた。
そして数日後。
当然のようにこの衝撃は文字になる。
ベイサイドトリニティの澪の後援会会報誌、
「MIO REPORT」。
本来なら澪の近況や活動報告が一面トップのはずだった。
だが紙面を開いた瞬間、澪本人が固まる。
大見出し。
「20年に一度の大型新人現る・琉球の風(鶴見区在住)金城伊織さん」
しかも、澪本人の記事よりデカい。
「なんで私の会報で伊織さんの方が大きいの!?・・・まぁいいけど」
澪が抗議すると、後援会側は真顔で答える。
「いや、これは大ニュースでしょう」
さらに困ったことに、相変わらずその会報誌は川崎市民に密着しすぎている。
保護猫譲渡会のお知らせ
市バスのダイヤ改定
歩きながらスマホの禁止
スーパー銭湯の26日フロの日入館料500円
パチンコ店の新装開店情報
などが相変わらず充実しており、伊織の大型新人記事の横に平然と並んでいる。
「情報の並べ方おかしいでしょ!」
澪が叫ぶ。
「でも実用性は高いですね」
理世が真顔で言う。
「どこを目指してる会報なんだよ」
小春が笑う。
だが、それすら全部含めて戦隊ヒロインプロジェクトだった。
最後のピース。
沖縄代表。
金城伊織。
そのデビューは、後楽園の聖地の空気ごと持っていくほど鮮烈だった。
そしてその日、誰もが思った。
ああ、最後に来たのは、本物だ。




