走る女、仕切る女、そして紙を切る女 ― 富士川研修、能力バラバラすぎ問題 ―
静岡県富士市。
富士川沿いにあるやたら名前の長い施設――
国家特務戦隊ヒロイン中央研修複合学習センター富士川分室。
「……長かですね」
古賀菜々子は看板を見上げて呟いた。
「覚えなくていいよ」
隼人補佐官が軽く言う。
「覚える気もなかです」
ここで始まったのは、ヒロ室九州の本格始動に向けた特別研修。
参加者は二人。
支配人兼ヒロインという無茶な役職を背負う
古賀菜々子(佐賀・元キャリア官僚)
そして――
鹿児島県鹿屋市出身、元駅伝選手
有村ひなた(体力おばけ)
この二人が並んだ時点で、すでに不安しかなかった。
■第一種目:体力測定
「それでは、シャトルランを開始します」
ピッ。
ひなた、スタート。
速い。
異様に速い。
「まだいけます!」
誰も止めていないのに自ら延長戦。
「もう一周行きます!」
教官が止める。
「もういい」
「えっ、まだ余裕です!」
周囲ドン引き。
研修生A「何あの人」
研修生B「人間?」
→評価:即戦力・戦闘要員確定
一方、菜々子。
「……はい、終了です」
普通。
極めて普通。
平均点ど真ん中。
教官が微妙な顔で言う。
「……管理職としては問題ない」
「それ褒めてます?」
ひなたがフォロー。
「支配人は頭脳担当です!」
「ありがとう。でも言い方」
■第二種目:戦闘訓練
簡易戦術訓練。
ひなた――
・突っ込む
・速い
・止まらない
完全に前線型。
教官も思わず頷く。
「これは使える」
菜々子――
・指示は的確
・判断は冷静
・自分は動かない
「前に出てください」
「役割分担です!!」
完全に
ひなた=現場
菜々子=本部
という構図が完成。
■第三種目:イベントステージ研修
「では、ステージトークを」
ひなた、登場。
「どうもー!!有村ひなたです!!」
声がデカい。
元気が暴力。
・リアクション大
・トーク軽快
・とにかく明るい
観客役の研修生も笑う。
→評価:合格
次、菜々子。
「本日はお集まりいただき――」
堅い。
完全に官僚会見。
教官、即ストップ。
「長い」
「はい」
やり直し。
「本日は――」
「まだ長い」
「短くします!!」
だが。
MCに回ると一変。
・進行完璧
・時間管理正確
・トラブル対応も冷静
教官が頷く。
「……これはいける」
しかし問題。
ヒロ九には――
絶対的MC・西里香澄がいる。
「……出番なかですね」
「サブ司会かな」
「副官みたいな扱いです」
■特技開発(迷走編)
教官が言う。
「何か“売り”を作れ」
ひなた、即答。
「走れます!」
「それはもう知ってる」
沈黙。
数秒。
菜々子、小さく手を挙げる。
「……紙切りなら」
全員「は?」
実演。
チョキチョキ。
静かな作業。
数分後。
「……完成です」
出てきたのは――
富士山(精巧)
妙にうまい。
教官、無言。
そして一言。
「……使える」
「使えるんですか!?」
「ステージの間を持たせる」
ひなた、腹抱えて笑う。
「地味!!」
「分かってます!!」
→評価
・地味
・だが便利
・なぜか採用
■研修終了後
富士川の河川敷。
風が気持ちいい。
ひなたが聞く。
「ヒロ九、大丈夫ですかね?」
菜々子は少し考える。
「……大丈夫です」
「ほんとですか?」
「あなたが前に出て」
一拍。
「私が後ろで回します」
ひなた、ニカッと笑う。
「任せてください!」
その笑顔を見て、菜々子は思う。
(……なんとかなるかもしれん)
走る女。
仕切る女。
そして紙を切る女。
ヒロ室九州。
その中核は――
想像以上にバラバラだった。
だがそれでも。
なぜか、前に進みそうな気がした。
そして最大の問題は――
この紙切りが、本当にウケるのかどうかだった。




