採用理由:なんとなく75点 ~静かすぎる女がヒロヒロに来た日~
東京・新橋。
戦隊ヒロインプロジェクト本部、通称ヒロ室。
ここは日本中から選りすぐり――いや、だいたいノリで集められたヒロインたちの巣窟である。
その日、会議室に妙な緊張感が漂っていた。
理由は一つ。
「静かすぎる候補者が来る」
ドアが静かに開く。
すっ……と入ってきたのは、白いブラウスに落ち着いた雰囲気の女性。
背筋はまっすぐ、動きに無駄がない。まるで神社の境内からそのまま歩いてきたような佇まい。
神門結衣。
出雲市出身。実家は出雲大社近くの土産物屋。
現在は広島で大学に通う、江波のどかの“拾い物”である。
「……よろしくお願いいたします」
小さく、だがはっきりとした声。
その瞬間――
(ヒロヒロに絶対いないタイプだ)
と、その場の全員が同時に思った。
面談を仕切るのは遥室長。
横には採用担当の安岡真帆、そして何でも屋の小宮山琴音。
遥が書類を見ながら一言。
「……のどかの推薦、ねぇ」
真帆が横で頷く。
「広島支部長が“絶対いるけぇ”言うとるけぇ、まぁ来てもろうたけど……」
ちらっと結衣を見る。
静か。
とにかく静か。
ヒロヒロの面談といえば、普通はこうだ。
「え!?特技?あるで!!なんでもできるで!!」
「いやいやウチのがすごいし!」
「ちょっと待てや彩香!!」
――みたいな、動物園である。
だが今日は違う。
水族館の深海コーナーみたいな空気だ。
沈黙を破ったのは真帆だった。
「……まあええっちゃない?なんとかなるやろ」
早い。
結論が早すぎる。
遥が思わず顔を上げる。
「ちょっと真帆、まだ何も見てないんだけど」
「いや、こういうタイプは放り込んだ方が分かるけぇ」
雑。
あまりにも雑な採用理論。
ここで琴音が口を開く。
書類をパタンと閉じて、結衣をじっと見る。
「……10点満点はあげられないけど、75はあげてもいいずら」
評価が独特すぎる。
遥がツッコむ。
「満点じゃないのは分かるけど、その75点どこから来たの?」
「なんとなくの安定感ずら。崩れなさそう」
「基準がフワッとしてる!」
結衣はそのやり取りを、ただ静かに見ていた。
(……この人たち、大丈夫でしょうか)
心の中で初めてのツッコミを入れる。
だが顔には出ない。
これが彼女の強さでもあった。
結局。
「じゃあ、採用で」
遥の一言で、あっさり決定。
こうして神門結衣は、ヒロヒロに加入した。
その瞬間、真帆がぽつりと呟く。
「……これで本州、全部揃ったんやねぇ」
誰も反応しない。
「いやちょっと!感動ポイントやけぇ!?山口の隣の島根が最後やったんよ!?」
「へぇ〜」と琴音。
遥は書類整理。
結衣は軽く会釈。
扱いが軽い。
数日後。
結衣は富士川分室での研修に送られた。
そこには鬼教官すみれが待っている。
「次!神門!」
「はい」
テスト開始。
走る。普通。
戦う。普通。
体力。普通。
とにかく全部普通。
すみれが腕を組む。
「……特徴がねぇな」
「はい」
認めるのも早い。
だがその後。
ほんのわずかに、空気が揺れた。
「……少しだけ、できるかもしれません」
結衣の周囲に、微かな光。
極めて弱い。
だが確かに“何か”だ。
すみれの眉が動く。
「……魔法、か?」
「はい……たぶん」
曖昧すぎる。
結局の評価。
「地味。だが消えない。……まあ使い道はある」
最大級の褒め言葉である。
一方その頃、広島。
のどかは満足そうに頷いていた。
「言うたやろ?あの子、ええ働きするけぇ」
梨乃が首をかしげる。
「でも地味じゃない?」
「ヒロヒロに一番足りんのは“地味”なんよ」
深いのか雑なのか分からない理論だった。
こうして。
騒がしさの塊みたいなヒロヒロに、
静かな異物が一人、紛れ込んだ。
それは爆発でも革命でもない。
ただ――
じわじわと効いてくるタイプの変化だった。
そして与えられたキャッチコピー。
「出雲の静謐」
騒乱の中で、唯一ブレない存在。
それが神門結衣だった。




