こはっつあんは、そそっかしいったらありゃしない
関東近郊の廃採石場での戦闘は、奇跡的な幕引きを迎えた。
戦隊ヒロイン・月島小春が、敵幹部・鉄刃鬼に単身挑み、壮絶な一騎打ちの末、崖から転落。
だが、その崖の下には偶然、旧トンネル工事跡を改修した政府系の緊急待機施設があり、監視ドローンによって小春の落下を確認、即時にレスキューが出動。
そして今、小春はその施設の医療室で、掛け布団に包まりながら、シーツの端っこを指でくるくる回していた。
「えへへ……骨は無事っぽいし、ヒビもなし! ね、やっぱ私、不死身っぽくない?」
点滴スタンドがカタカタ鳴ったそのとき、ドアがスーッと開いた。
現れたのは、小春の上官、そして“江戸弁全開”の政府高官──
防衛局作戦統制部付指導官、波田 厳蔵。
黒スーツに深川紺の手ぬぐいを首に巻き、腕を組んで仁王立ち。
どこからどう見ても、“怒ってるけど笑いそうな顔”。
「……よぉ。生きてたか。おめぇさん、またやらかしたってな」
小春はバツが悪そうに笑いながら手を振った。
「ハハ……あの、作戦指示まだ出てなかったの、知ってたんですけど……その、現場見たらつい……体が勝手に」
「体が勝手に、ねぇ……。戦隊も、粋で動く時代じゃねぇんだ」
波田は小さくため息をつき、ベッド脇の椅子にドカッと座った。
「いいか小春、突撃ってのは“隊”の合図でやるから突撃なんだ。おめぇのそれは……ただの“飛び出し”だよ」
「う……ぐぅ……」
「成功しなかったら、ただの無茶だ。成功しても、次は無理させねぇって判断が下りる」
小春はシュンとしながらも、思わず口を尖らせる。
「でも、止まってたら、あの人たち……やられてたかもじゃん……」
「それはな、作戦ってもんの中に組み込むんだよ。江戸っ子でも、せっかちすぎると、粋じゃなくて“おっちょこちょい”になるの。」
そして、波田は肩を落としつつも、ぽつりと、例の一言を漏らした。
「……っつたく。こはっつあんは、そそっかしいったらありゃしない……」
それは、怒っているのか笑っているのかわからない、不思議とあったかい声だった。
小春はうつむきつつ、声をころして笑った。
「それ、町内のご隠居にも言われたばっかなんすけど……」
「おんなじこった。指揮系統も、下町の祭りも、最終的には“段取り命”なんだからよ」
ベッドの上、小春の頬にほんのり色が戻る。
「……わかりました、次からは“飛び出す前に”ひと声かけます」
「できれば2声。あと確認3回。んで、鼻歌は後にしろ」
そう言って波田は立ち上がる。部屋を出る前、ふと振り返って言った。
「次は“無茶”じゃなくて、“戦略的粋な動き”ってやつ、頼んだぜ」
「……はーい!こはっつあん、反省中〜♪」
そんな返事にまた肩をすくめて、波田は廊下の向こうへと消えていった。
その日の夕方、施設の自販機の前で、小春はオレンジジュースを片手に言った。
「……でも、作戦書、分厚すぎんだよなあ。読み終わる前に敵、動くし」
まったく、こはっつあんは、そそっかしいったらありゃしない──
でも、それがきっと、彼女の強さなのかもしれない。




