推し、出場決定──けどチケット無理ゲー問題
東大阪のとあるカフェテラス。
戦隊ヒロインでありながら、チアサークルと授業とマリーンズ推しに忙しい赤嶺美月は、スマホを握りしめたまま声を上げた。
「やったあああああぁっっ!!!」
紅茶を飲んでいた相棒、西園寺綾乃がむせた。
「……な、なんどすの急に。敵の陰謀でも暴いたんかと思いましたえ」
「ちゃうちゃう、もっと重大や!」
美月は身を乗り出すようにして、スマホの画面を突きつけた。
「見てこれ!2025年のオールスターゲーム、ついに、ついにぃぃぃ……うちの推し、藤原恭大くんが出場決定やねん!!うおぉぉお!!」
「……ええことやけど、声のボリュームが悪の幹部級どす」
「そんなこと気にしてる場合ちゃうねん!これは京セラドーム行かなアカンやつや!ナマで恭大拝まなアカンやつやああ!」
鼻息荒く吠える美月。しかし、次の瞬間、カフェの椅子にもたれかかり、天を仰いだ。
「……でもな、綾乃……気づいてもうた……」
「なんどす?」
「今からチケット、無理やん……完売確定やん……どこ探しても転売しか残ってへん……この世は非情や……」
「ほな、抽選のときに申し込んどきゃええやんか」
「してへんっ!その頃うち、特訓で四つん這いの姿勢で壁に向かって気合い入れとったわ!」
「それは戦隊ヒロインの宿命やけど……藤原くん関係ないんどすな」
「なんか、せつない……変身しても、チケットは手に入らん……この世は弱肉強席……」
美月はうなだれながら、ストローで残り少ないメロンソーダをすすった。
横で綾乃は肩をすくめ、そっと呟いた。
「ほな今からでも、誰かに頼んでみはったら?意外と職権乱用できたり……」
「うちの戦隊、そんなコネ使ったら即コンプラ違反で査問会やねん!くぅぅ……民間人と同じ手段でしか戦えへんのや……ッ!」
その姿は、どこか儚く、それでいて滑稽でもあり。
戦隊ヒロインでありながら、チケット戦争には敗北寸前の美月だった。




