日本海に消える黒い船――越後の情花・本間菜帆、直江津沖封鎖作戦
仙台市内。
駅前の高層ビル群から少し離れた、大手スポーツ用品メーカー仙台支社。
一見すれば、社員が営業資料を作り、スポーツウェアや競技用品の商談をしている普通のオフィスである。
しかし、その一角。
社員証だけでは入れない二重扉の向こうに、戦隊ヒロインプロジェクトの情報拠点があった。
ノースフロント仙台分室。
もともと仙台在住の戦隊ヒロイン・高沢雪乃の出向元である大手スポーツ用品メーカーが提供したスペースを改装した施設で、規模は決して大きくない。
だが。
設備だけなら新橋のヒロ室本部に負けない。
壁一面の大型モニター。
衛星画像解析端末。
物流データ検索システム。
通信傍受データ解析機。
複数の情報をリアルタイムで重ね合わせる統合分析システム。
地方分室とは思えないほど最新鋭の機材が並んでいる。
その真ん中。
三枚のモニターを同時に見ながら、猛烈な速度でキーボードを叩いている女性がいた。
菅野真結。
通称、
まゆちゃん。
ヒロ室では情報解析に強い優秀なフロントスタッフ。
しかし、彼女の籍はいまも出向元である北洋製紙石巻工場総務部にある。
ノースフロントへ出向して以降も、工場側からの信頼は変わっていない。
むしろ、
「困ったらまゆちゃんに聞け」
が総務部内で半ば慣用句になっている。
若手社員からも、
「菅野さん」
ではない。
「まゆちゃん先輩」
ですらない者もいる。
普通に、
「まゆちゃん!」
と呼ばれる。
それでも本人は全く気にしていない。
その日。
真結の前に表示されていたのは、日本海側の地図だった。
新潟県上越地方。
直江津。
複数の道路。
倉庫。
貨物移動。
船舶。
断片的には何の変哲もない情報。
だが。
真結は違和感を見つけていた。
「……やっぱり変だな」
マウスを動かす。
ある荷が内陸部から上越地方へ。
別の荷が、まったく別会社の名義で同じ方面へ。
さらに。
夜間。
沿岸部から出港する小型船。
AISなど正規の船舶情報と一致しない動き。
真結は複数データを重ねた。
画面上に。
一本の流れが浮かび上がる。
日本海。
その先。
日本と正式な国交を持たない、北東アジアの閉鎖的な第三国。
「……出してる」
真結の顔から、いつもの柔らかさが消えた。
新橋。
ヒロ室本部。
緊急テレビ会議。
大画面。
波田顧問。
芹沢遥室長。
隼人補佐官。
小宮山琴音。
安岡真帆。
そして仙台から真結。
真結が説明する。
「ジェネラス・リンク関連とみられる複数のダミー企業が、ここ二週間で上越地方へ不自然な貨物移動を繰り返しています」
地図。
「搬入先は分散しています。でも」
表示を切り替える。
「時間帯と車両移動を重ねると、最終的に直江津周辺へ集約される傾向があります」
波田。
「国外搬出か」
「可能性は高いです」
隼人。
「行き先は?」
真結。
「断定はできません。ただ、航路と過去の通信記録から、日本と国交のない第三国へ向けて運び出している可能性があります」
遥。
「中身は分かるのら?」
「まだです。ただし正規の輸出手続きを経ていない物資なのはほぼ確実です」
琴音。
「ジェネラス・リンクらしいですね」
真帆。
「上越を中継地点として利用している、と」
真結が頷く。
「次の搬出が――」
そこで。
スマートフォン。
♪♪♪
真結。
「……すみません」
隼人。
「追加情報?」
真結。
画面を見る。
「北洋製紙石巻工場です」
全員。
少し身構える。
真結。
「はい、菅野です」
電話の向こう。
『まゆちゃーん!』
若い男性の声。
『工場内対抗ボウリング大会なんですけど、参加人数が部署ごとに合わなくて、どう組めばいいか分かんないです!』
会議室。
沈黙。
遥。
「……ボウリングなのら?」
真結は真顔のまま。
「製造一課何人?」
『十一です』
「製造二課は?」
『八です』
「だったら総務の三人を二課に入れて調整して。あと一人だけ余るなら個人参加枠作ればいいから」
『景品どうしましょう?』
「優勝だけ豪華にすると途中からやる気なくす人が出るよ。飛び賞とブービー賞入れた方が盛り上がる」
『さすがまゆちゃん!』
「あと受付で混乱するからレーン割りは前日に確定ね。靴のサイズまで事前集計した方がいいよ」
『分かりました! 助かります!』
「じゃあ頑張ってね」
電話終了。
真結。
「失礼しました」
何事もなかったように資料へ戻る。
「ではジェネラス・リンクの話ですが――」
琴音。
「普通に戻るんですね」
真帆。
「切り替えがすごい……」
隼人。
少し考える。
「ヒロ室でもボウリング大会やるか」
波田。
「なぜそうなる」
「真結ちゃんに仕切ってもらえば完璧じゃないですか」
遥。
即答。
「それ良いのら!」
隼人。
「室長、乗るんですか」
遥。
「新橋、仙台、九州で対抗戦なのら」
琴音。
「室長、意外とやる気ですね」
遥。
「優勝賞品欲しいのら」
波田。
「その話は後にしろ」
真結が困ったように笑った。
「ボウリング大会の幹事は、任務が終わってからお願いします」
そして。
画面。
直江津沖。
「次の搬出は、四十八時間以内と予測します」
笑いが消えた。
ヒロ室は即座に精鋭チームを編成した。
全体指揮。
柏木理世。
冷静沈着。
感情に流されない。
人数が多かろうが、予想外の事態が起ころうが、一度全体を見渡してから判断する。
参謀兼作戦立案。
一条知佳。
クイズ女王として知られる頭脳派。
地図、潮流、船舶航路、沿岸部の道路網を短時間で頭へ叩き込む。
知佳。
「沿岸で荷を押さえるより、受け渡し相手まで出てきたところで押さえた方が証拠は強いわね」
理世。
「同意する」
そして。
新潟県代表。
本間菜帆。
越後の情花。
普段は人情派。
農ガール。
菜帆は作戦表を見て首を傾げた。
「私の担当、“現地連絡・土地勘”って書いてありますけど〜」
知佳。
「重要よ」
「そう?」
「新潟県内で知らない人のところへ普通に入っていって、十五分後にはお茶飲んで話聞いてる人、あなたくらいでしょう」
菜帆。
「そんな特殊能力みたいに言わなくても〜」
操船。
河合美音。
船舶免許所持。
しかも。
穏やかな見た目に反して、とんでもなく船の扱いがうまい。
過去には現役ボートレーサーとのエキシビションで勝ってしまった。
本人は、
「ちょっと運が良かっただけです」
と言っている。
誰も信じていない。
攻撃担当。
まず。
高城彩芽。
戦隊ヒロイン最年少。
札幌出身。
北の元気娘。
身体能力抜群。
怖いもの知らず。
ただし。
前へ出すぎる。
彩芽。
「相手が何人おっても関係ないっしょ! ウチがバーッと行ってドーンってやれば――」
理世。
「行かない」
「まだ何もしてないしょ!」
「今からする顔をしている」
そして。
彩芽と並ぶアタッカー。
館山みのり。
千葉の叡智。
普段は穏やか。
理知的。
しかし。
実は少林寺拳法の達人でもある。
みのり。
「彩芽、作戦通りに動こうね」
「分かってるって〜」
「“分かってる”って言う時の彩芽は大抵分かってないから」
「みのりまでひどいっしょ!」
「あなたを無事に帰すのも私の仕事です」
彩芽。
少し照れる。
「……分かったって」
守備。
水無瀬澪。
知佳が聞く。
「澪は何担当?」
理世。
「位置取り」
「位置取り?」
澪。
「?」
本人が一番分かっていない。
戦闘になると。
澪は。
なぜか。
ぼーっと立っている。
しかし。
妙にいい場所にいる。
敵が右へ行こうとする。
澪がいる。
左へ。
やっぱりいる。
澪。
「こっち通れないよ〜」
敵が方向転換。
「向こうも無理〜」
本人は何をしているのかよく分かっていないようだが。
結果。
敵の進路が消える。
最後に。
蛯沢紗耶。
バスケットボールで鍛えたフットワークと身体の入れ方。
相手と味方の間へ素早く入る。
守る。
また動く。
まさにガード。
こうして。
攻撃。
守備。
操船。
頭脳。
現地情報。
バランスの取れた特殊チームが完成した。
直江津。
夕暮れ。
菜帆は一人。
港周辺を歩いていた。
漁業関係者。
倉庫の人。
港で働く人。
地元の商店。
菜帆は身分をひけらかさない。
「最近この辺、変わったことありません?」
世間話。
天気。
魚。
海。
農業。
そして。
一人の年配漁師が言った。
「そういや最近な」
「はい?」
「夜中、変な船が出る」
菜帆。
「変な船?」
「灯り落としてな。漁船でもねえ。遊漁船でもねえ」
「何時くらい?」
「日によって違う。でも、海見てりゃ分かる。地元の船じゃねえ」
菜帆。
「ありがとうございます」
その情報を知佳へ。
知佳。
「真結さんのデータと一致する」
理世。
「今夜動く可能性が高い」
菜帆。
「やっぱり毎日海見てる人の目って凄いですね〜」
知佳。
「最新鋭の解析機器と地元のおじいちゃんが同じ答え出したわね」
菜帆。
「両方大事ですよ〜」
深夜。
直江津近くの日本海。
黒い海。
遠く。
不審な灯。
理世。
「対象確認」
知佳。
「船影一致」
美音。
操縦席。
静かに言う。
「追います」
エンジン。
高速艇。
暗い海へ。
不審船が気づく。
加速。
彩芽。
「逃げたっしょ!」
みのり。
「彩芽、座って」
「え?」
「まだ乗り移らないから」
「分かってるって!」
美音。
ハンドル。
不審船。
右へ。
美音も追う。
波。
船体。
菜帆。
「結構揺れますね〜」
知佳。
「菜帆、酔わない?」
「農機より速いですね〜」
「比較対象がおかしい」
敵船。
突然。
急旋回。
彩芽。
「うわっ!」
美音。
冷静。
「逃げ方が雑ですね」
彩芽。
「そのセリフ、めっちゃカッコいいっしょ!」
みのり。
「彩芽、実況しない」
美音が。
一気に艇を切る。
鋭い旋回。
波を切る。
船体が大きく傾く。
東郷ターン。
菜帆。
「おお〜!」
知佳。
「遊園地じゃないのよ!」
距離。
縮む。
敵船側。
「何だあいつら!」
「振り切れ!」
だが。
振り切れない。
現役ボートレーサーすら驚かせる操船技術。
美音。
「追いつきます」
彩芽。
「美音、普段とのギャップすごすぎっしょ!」
みのり。
「彩芽、準備」
「今度こそ分かってる!」
接舷。
理世。
「行く」
ヒロインたち。
不審船へ。
最初は順調だった。
船上。
敵工作員。
数名。
彩芽。
「行くっしょ!」
みのり。
「右を見て」
彩芽。
「了解!」
二人。
一気に前。
彩芽。
高い身体能力。
跳ぶ。
かわす。
突破。
ただし。
勢い余る。
みのり。
「彩芽、そこまで!」
「もう一人行けるしょ!」
「戻って!」
彩芽。
「はーい!」
攻撃力は本物。
制御役みのりがいるから。
さらに強い。
澪。
少し後ろ。
ぼーっ。
敵が走る。
澪。
「あ」
敵。
別方向へ。
澪が一歩。
「こっち通れないよ」
敵。
逆へ。
紗耶がいる。
澪。
「向こうも無理〜」
敵。
「何なんだこいつら!」
知佳。
「澪、本当にどうやってるの?」
澪。
「何が?」
紗耶。
「今は聞かなくていいです!」
だが。
次の瞬間。
船室奥から。
さらに工作員。
数が多い。
手には危険な飛び道具。
空気。
一変。
理世。
「全員、遮蔽物へ!」
彩芽。
「えっ、ちょっ!」
みのり。
彩芽の腕を掴む。
「出ない!」
「でも――」
「今は駄目!」
敵の威圧。
前へ出られない。
澪と紗耶が味方の前面を守る。
理世。
「無理に攻めるな」
知佳。
「想定以上の人数ね」
菜帆。
「これは厳しいですね〜」
彩芽。
「ウチなら――」
みのり。
「駄目」
「まだ何も言ってないっしょ!」
「突っ込むつもりでしょう」
「……ちょっとだけ」
「駄目」
敵は徐々に包囲。
理世。
目を細める。
撤退か。
救援要請か。
その時。
日本海の夜空。
遠く。
低い音。
バババババババ――。
菜帆。
「何?」
知佳。
「ヘリ?」
音。
近づく。
強い風。
海面。
波。
不審船の上空へ。
一機のヘリコプター。
操縦席。
ヘッドセット。
冷静な表情。
若林あおい。
計器。
風。
船の動き。
すべてを読みながら。
機体を一定位置へ。
あおい。
「高度安定」
後部。
一人の女。
長い髪が風に舞う。
黒を基調とした装い。
美雪。
あおい。
「美雪さん、位置つけます」
「お願い」
ヘリが。
不審船と並ぶ。
ローター音。
風。
工作員も。
ヒロインたちも。
見上げる。
扉。
開く。
照明すらない。
舞台もない。
それでも。
その女が立った瞬間。
そこが舞台になる。
高田美雪。
妖艶に笑う。
「お待たせ」
菜帆。
「……美雪さん?」
彩芽。
「うそっ!?」
美雪。
鮮やかに船上へ。
一瞬。
敵も。
味方も。
動きを止めた。
そして。
美雪が動く。
工作員が狙う。
そこに。
美雪はいない。
次の瞬間。
背後。
敵。
崩れる。
別方向。
閃光。
煙。
視線が奪われる。
一人。
また一人。
何が起きているのか。
分からない。
彩芽。
口を開けたまま。
「……何これ」
みのり。
「見失った……」
知佳。
「実戦でイリュージョン使う人、初めて見たわ」
菜帆。
「すごいね〜」
美雪。
また一人を制して。
ふと。
彩芽を見る。
「彩芽」
「は、はい!」
美雪。
「ぼーっとしてないで手伝って。ぼーっとしているのは澪だけで十分」
澪。
「え?」
彩芽。
数秒。
そして。
「そうだった!」
目。
変わる。
「ウチも戦いに来てたんだっしょ!」
みのり。
「彩芽、右!」
「了解!」
彩芽。
本領。
身体能力全開。
敵の注意を引く。
動く。
かわす。
踏み込む。
一人。
二人。
美雪が崩した陣形へ。
彩芽が入る。
火力。
爆発。
みのりは。
その一歩後ろ。
冷静。
相手の動き。
重心。
腕。
少林寺拳法で的確に封じる。
彩芽が暴走しそうになる。
「彩芽、戻る!」
「もうちょい!」
「戻る!」
「はい!」
絶妙。
澪。
相変わらず。
ぼーっ。
しかし。
敵。
逃げようとする。
澪。
「あ、そっちはだめ〜」
別方向。
「こっちも無理だよ〜」
敵。
「なんで全部いるんだ!」
澪。
「知らない〜」
紗耶。
素早く動く。
仲間の前へ。
守る。
相手を止める。
すぐ次。
バスケットボールで鍛えたガード。
ここで生きる。
知佳。
「右側、崩れた!」
理世。
即判断。
「菜帆!」
「はい!」
最後。
船尾。
一人の工作員が逃げる。
物資を投棄しようとする。
菜帆。
前へ。
いつもの。
柔らかな顔。
「それ、駄目ですよ〜」
工作員。
「どけ!」
菜帆。
「どきません」
声。
静か。
相手。
突進。
菜帆。
一歩。
かわす。
腕。
身体。
勢い。
全部利用。
一瞬。
工作員。
床。
制圧。
彩芽。
「うわっ!」
菜帆。
「何?」
「最後めっちゃカッコよかったっしょ!」
菜帆。
「そう?」
みのり。
「本人だけ自覚ないんですね」
知佳。
「いつものことよ」
理世。
周囲を見る。
「全対象制圧」
少し間。
「任務完了」
ジェネラス・リンクによる。
上越地方からの違法物資搬出。
阻止。
不審船。
確保。
違法物資。
回収。
日本海の向こうへ消えるはずだった荷は。
その夜。
直江津沖で止まった。
夜明け。
東の空。
明るくなる。
日本海。
薄い金色。
ヘリコプター。
あおいがローターを回す。
美雪。
乗り込もうとする。
菜帆。
「美雪さん!」
美雪。
振り返る。
菜帆。
知佳。
理世。
三人。
菜帆。
「ありがとうございました」
知佳。
「本当に助かったわ」
理世。
「救援に感謝する」
美雪。
三人を見る。
そして。
遠く。
上越地方。
山並み。
海岸。
自分の故郷。
妙高。
旧新井。
少しだけ。
目が柔らかくなる。
「私の地元の上越で、奴らに好き勝手させないんだから」
風。
美雪の髪。
菜帆。
少し笑う。
「美雪さんも、やっぱり新潟の人なんですね〜」
美雪。
「当たり前でしょう」
若林あおい。
操縦席。
「美雪さん、そろそろ行きます!」
「分かったわ」
美雪。
ヘリへ。
乗る直前。
菜帆を見る。
「菜帆ちゃん」
「はい?」
「新潟、頼んだわよ」
菜帆。
一瞬。
背筋を伸ばす。
そして。
いつもの柔らかな笑顔。
「はい〜」
美雪。
満足そうに笑う。
搭乗。
扉。
閉じる。
あおい。
「離陸します」
ヘリ。
上昇。
船。
海。
風。
一気に遠ざかる。
菜帆。
知佳。
理世。
三人。
並んで。
見上げる。
上空。
美雪を乗せたヘリが。
朝焼けの空へ。
真っすぐ。
飛んでいく。
知佳。
しばらくして。
「……何だったの、今の」
理世。
「救援だ」
「それは分かってるの」
菜帆。
空を見る。
少し首を傾げる。
「なんか……」
「ものすごいイリュージョンを一つ見せてもらった気分ですね〜」
知佳。
「分かる」
理世。
珍しく。
少しだけ笑う。
「私もだ」
三人。
狐につままれたように。
空。
その時。
背後。
彩芽。
「菜帆ー!」
菜帆。
「はーい?」
「こっち手伝ってー!」
「今行くよ〜」
知佳。
「余韻、短かったわね」
理世。
「任務は片付けまでが任務だ」
菜帆。
「ですね〜」
歩き出す。
朝。
直江津。
日本海。
派手に戦う人がいる。
冷静に作戦を立てる人がいる。
船を操る人。
仲間を守る人。
ぼーっと立っているのに、なぜか敵を通さない人。
空から突然降りてきて、全部ひっくり返して帰っていく人。
そして。
最後の最後。
地元で。
静かに決める人。
本間菜帆。
越後の情花。
戦隊ヒロインきっての人情派。
普段は。
困った人の隣へ座る。
話を聞く。
畑を手伝う。
皿を洗う。
けれど。
自分の故郷を利用して。
誰かが悪事を働くなら。
話は別だった。
優しいことと。
弱いことは。
同じではない。
菜帆は。
朝の日本海を一度だけ振り返る。
「新潟で悪いことするなら」
少し笑う。
「ほどほどにしてもらわないとね〜」
知佳。
「ほどほどならいいの?」
菜帆。
「あ」
「駄目ですね〜」
理世。
「締まらないな」
三人。
笑う。
その頃。
仙台。
ノースフロント。
真結のスマートフォン。
また鳴る。
『まゆちゃーん! ボウリング大会の始球式って誰に頼めばいいですかー!?』
真結。
額に手。
「ボウリングに始球式はいらないよ!」
新橋。
オンラインで聞いていた遥。
「じゃあヒロ室大会では室長が第一投するのら!」
隼人。
「まだ開催決まってないですよ」
遥。
「今決まったのら!」
波田。
「……事件より面倒なことになりそうだな」
こうして。
直江津沖封鎖作戦は成功。
ジェネラス・リンクの日本海ルートは。
一つ。
確実に断たれた。
ただし。
ヒロ室ボウリング大会という。
新たな火種だけを残して。




