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エピローグ前編・これまでの話をしよう

見直してところどころ説明不足かもと思ったので、エピローグという名のまとめです。

まとまってないけどね!


「入れ」

「失礼します」


 入室の許可の後、騎士団長室の重厚な扉を開ける。

 途端、目に飛び込んできた意外な人の姿に目を瞬いた。


「レティシア!」

「マリールル様」


 上座のソファから立ち上がり駆け寄ろうとして、側に立っていた美女に制されたのは、王家の色をした豪奢なドレスを着た少女。

 俺の後から入室したレティが口角を上げる貴族らしい微笑を浮かべて、流れる様に美しい淑女の礼をした。


「王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」

「ごきげんよう、レティシア。……エルメイラがレティシアの婚約者とお話しするというのでついてきたのです」


 王族に対する礼をとりながら、口を挟まず様子を窺う。

 王女殿下とも交流があるとは、さすが高位貴族令嬢だ。しかもわざわざ会いに来るなんて、だいぶ気に入られているんじゃないか?レティは俺のものだからいくら王女殿下でもやんないけど。ああ、ちなみにレティの姉上は王妃ではなく、王弟殿下の細君だった。驚きはしないが動揺はした。

 淑女の振る舞いに切り替えた殿下はなぜか俺をじろりと睨んでくる。……おっと?なかなかの敵意。とはいえ、ここは大人の俺が引くべきところだ。


「……アルフレドと申します。お目見えできて光栄です、王女殿下」

「ねぇ、レティシア。こんな細っこいので大丈夫なの?アスくんみたいに大きくて強い人の方が安全じゃないの?」

「アスくん」

「私だ」


 ほぼ俺をスルーしてレティに言い募るクソガ……殿下はともかくとして、アスとは横入りしようとする何某かと眉をピクリとすると、騎士団長に向かい合って座っていた義兄アスカローダ様が手を挙げてくれたので悲しいけれど納得した。

 確かに大柄な義兄上に比べれば見劣りはするだろう。いや、俺もけして細っこくはないはずだけど。


「アルフレドはゴリってなくても強いですよ」


 珍しく含みのある顔でにこりと微笑むレティ。ああこれは、俺を貶されてちょっとイラッとしてるやつ。つまり愛だ。


 にやにやしている俺に注がれる殿下のもの言いたげな視線を無視して、本来の用件に戻そうと口元を引き締める。

 王女殿下がいるのは予想外。今日は騎士団長へ辞職と結婚の挨拶に来たのだから。


「お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます、フェザーレ騎士団長」

「なに。こちらが辞職前に顔を出してくれと頼んだのだ。座って楽にしたまえ」


 向かいにいる義兄上が二回りは分厚いせいで迫力は持っていかれているが、むしろその洗練された凛々しさが際立つ騎士団長は、白髪混じりの金髪と口髭が上品なナイスミドルぶりと、その洗練された剣捌きで『理想の騎士』と称されている御仁。クズ騎士をボコった俺に問答無用で鉄拳制裁してくるような面もあるが。


 空いたソファに座るようにと手で示されたのに従い、レティと並んで二人掛けのソファに座ると、不機嫌そうな王女殿下がテーブルを挟んで正面に来たので、しれっと視界から締め出し、スゥッと息を吸って報告する。


「畏れ入ります。改めましてーーこの度、騎士団を辞し、レティシア・マルテ・ヒースガルド侯爵令嬢殿と結婚を前提としてお付き合いさせていただくことになりました!」


 隣でレティが照れているのが気配でわかる。もちろんそれは内心だけで、見た目はいつものキリッとしたレティなのだろうが。


「えっ」

「えっ?」


 ヒューヒューおめでとうおめでとう、この野郎幸せになれよ的な反応を期待していた俺は、驚き目を丸くする騎士団長の反応に逆に驚く。

 え、なに?なんか間違えたか俺?

 レティと顔を見合わせ、二人して首を傾げると、騎士団長が居住まいを正して慌てて口を開いた。


「いや、すまん。確認するが……お付き合い?婚約しましたじゃなくて?」

「辺境領に申し込みの書簡は送りましたが、まだマルテ卿の返事を得ていませんので」

「おい、アス。コレちゃんと許可は得られるんだよな?」


 なるほど、引っかかったのはそこか。騎士団長が渋面を作ってちらりと義兄上に尋ねるのを聞いて理解するが、しかしその義兄上はといえば、お茶を淹れてくれている王女殿下の侍女にじっと視線を送っている。

 え、顔怖っ。なにその人刺客かなんかなの?特に匂わないけどお茶に毒とか……ああ、自分で毒見してるし違うよな?


義兄アレは放っておいて大丈夫です」

「わかった」


 レティが気にするなと言うので気にしない。

 義兄上の意見を諦めたらしい騎士団長に意識を向けると、腕組みをして小さく唸る姿があった。


「まだ未定の内に辞職するのか?叙爵予定は騎士男爵なのだから、辞職と叙爵辞退は同義だぞ。もし認められなかったら」

「大丈夫です」


 心配無用とにっこり笑って言い切ったが、心配性なのか騎士団長は尚も言い募る。


「いや、貴族の結婚というのは色々と家の思惑が」

「認めていただくまで戦うので大丈夫です!」

「えっ、あ、そう……?」

「レティシア?これって十分脳筋ゴリじゃ」

「違います。これは戦士の本能です」


 言葉の途中でぶった斬ると、王女殿下の呆れた声にレティがまたイラッとしたのがわかった。おお、さっきより本気ガチの抗議だな。つまり愛だ。


「心配無用ですわよ、騎士団長閣下」


 美しい所作でお茶を出し終えた侍女殿が、口元を隠してころころと笑いながら王女殿下の隣に座り直す。そういえば、なぜ侍女が王女と同じ席に着くんだ?

 あとやっぱり彼女に向けられた義兄上の顔が怖いが、まったく気にする素振りもなく、自分の淹れたお茶を一口飲んで優しく微笑む。それは感情を隠す貴族の笑みとかいうやつじゃなくて、自然なやつだったので驚いた。


「レティシアさんは既に後継指名を受けていらっしゃるのだもの。ご自身で伴侶を選ぶ資格をお父上から勝ち取ったということですわ」


 レティを見ると、そうですねと頷きが返ってくる。

 だが確かレティは、自分が継ぐか辺境伯に認められた伴侶のどちらかだと。

 首を傾げる俺に、侍女殿は頰に手を当ててため息をつく。


「マルテの血を引く方は、皆様愛が重いのです。ですから、愛する方と添い遂げられなければ、レティシアさんの生きる意志に関わることもあるのですわ。そうなれば次代に相応しい技量の方と娶らせて継嗣を」

「その必要はない。俺はレティと一生涯を添い遂げる!」


 レティが他の男と添う話など聞いていられず、その言葉を遮って否定してしまうが、俺の不作法を気にした素振りもなくおっとりと頷く侍女殿から、ふわりと良い香りがした。


「そのようですね。……レティシアさんのおめでたい話をしているだけでしょう?なぜそんな顔をするの、アス」


 表情を崩して義兄上を見やる侍女殿。

 ああ、ではやはり、この香りは。


 侍女殿が纏うものと同じーーいや、香りの元はむしろこちらかーー爽やかな芳香を漂わせる義兄上が立ち上がり、人を殺せそうな眼光をして侍女殿の側に跪く。


「エルメイラ。愛しい君の星よりも美しく輝くその瞳が、俺以外の男に向けられるのが……例え瞬きの間であったとしても、この胸をどうしようもなく切なくさせるのだ。わかってくれ俺の女神」


 すらすらと滑らかに紡がれる甘い言葉に固まる俺をよそに、騎士団長と王女殿下は慣れた様子で目線を逸らしてしょっぱい系のお茶菓子を楽しんでいる様子。


「まぁ、旦那様。私が逆毛立てた猫のような可愛らしい方に惑わされたとでも?好ましく思ったのは、義妹への愛情を素直に口になさったところよ」

「疑いなどしてはいない、我が最愛。君の視線も関心も、全てを独り占めしたいという狭量な俺の我儘だ」

「ふふ。私、怒ってはおりませんのよ」


 なるほど。侍女がこの場に同席しているのは、王女殿下のお付きだからではなく、義兄上の伴侶として。つまりランベルド侯爵夫人だからこそ、殿下の隣に座っておられるのか。

 マルテの血は愛が深いと言うのも体験談なのだろう。


「さすが義姉様。鋭い」

「俺、逆毛立ててた?」

「レートなら、尻尾がブワってなっていたのでしょうね」


 声をひそめての会話にくすくすと笑うレティが可愛い。


「……バカップルが増えた……あのクールビューティーなレティシアちゃんまで……」

「マルテの血は恐ろしいな」


 自ら紅茶のお代わりを注ぎ、砂糖を入れずに飲み干す騎士団長と王女殿下をスルーし、レティは夫人のほうに向き直って頭を下げたので、理由はわからないまま俺もそれに倣う。


「エルメイラ義姉様には正式な場でお伝えすべきところを、この場をお借りしてのご報告になってしまったこと、お詫び申し上げます」

「ふふ。謝罪は不要ですわ。旦那様からはすぐに伺ったし、なんせほんの数日前に結ばれたばかりなのでしょう?なにを差し置いても二人きりの時間を優先するのも無理はないもの」

「結」


 結ばれたというのは間違いではない。だが気のせいか、義姉上の笑顔の圧は、婚約もまだなのに貴族令嬢に手を出した駄目男に向けるそれのようで、ざっと血の気が引く。


「結婚するまではちゃんと節度を保ってお付き合いする覚悟です!」

「なんだ、まだなのか。てっきり噂通り」


 慌てて決意表明をする俺に、首を傾げる義兄上。

 確かに俺がレティを抱いて連れ去る姿も、その際にレティが叫んだ子作り発言も、すっかり広まっている。

 だから義姉上に婚前交渉済みだと誤解されても致し方ないわけだが、相手は貴族令嬢、それも次代の辺境伯。いい加減に奪って良いものではないことぐらいは理解しているのだ。


「危ないところでしたが、なんとか耐え」

「コホン。……噂といえば」


 話を遮った騎士団長が、気遣うような視線でレティを見るので俺も遠慮なく視線を向ける。少し顔が赤いレティが可愛いなと口元を緩めると、じとりと睨まれた。可愛いしかない。


「……例の件について、被害者と当事者である君たちに話しておこうと思ってな。既に聞いていることもあるだろうが」


 どうやら騎士団長が俺とレティを呼び出した理由はそれらしい。いや、お付き合い報告の前も王女殿下と二人、なかなかニヤニヤと楽しそうだったから、どちらがメインかはわからない。



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