魔人8
二人の警官が立ち去るのをみて花藤は再び煙草を取り出し咥え、ライターを取り出そうと上体を捻ると幼稚園児たちが見えたことでライターを取り出すことなく咥えていたタバコを空き缶へと入れた。
公園でタバコも吸えないとはな・・・。
いやでもここ公園だよな。
花藤はもう一本の煙草を取り出し火を点けた。
煙草を吹かしながらぼんやりと川面を見つめているうちに幼稚園児たちはいなくなり、陽が陰り始める頃に外人たちがやってきた。
男二人に女が二人の四人組。
それぞれがレジ袋に一人は何やらスーツケースを持ち歩いていた。
四人組は公園内の階段に目を付けそこにスーツケースを置き電源を入れると、大音量で音楽が流れ始めた。
途端に周囲にいた日本人は眉を顰め離れて行く。
なるほど、これが迷惑外人ってやつか。
田中。お前はこんなのを毎日相手していたのか、大変だったな。
少し前ならラジカセだったよな、今はアレか。あのスーツケースみたいなやつがラジカセの代わりなのか。
お前ン家でよく聞いたよなぁ、団地じゃCDラジカセなんてお前しか持っていなかったからな。シーディアンだっけか、あの真っ黒ででっけえの。
必死にチャリンコを漕いでレンタルCDショップに行ったよな。お前が「テープはメタルだ!」とかわけわかんねぇこと言うから高ぇテープ買ったよな。まあダビングしてくれるのはお前だったしな。
二人で少ねえ小遣いを出し合ってさ、中古のCDを買うのに何時間も悩んでとっておきの一枚を選んだよな。
CDラジカセなんてお前しか持っていないのにさ田中ぁ、CDはお前が持っていろって言ってくれたよな。
分かってたよ、俺がCDを持ってお前ン家に聞きに行くって口実を作ってくれてたんだよな。
お前ン家に行くとオバサン、いつもお菓子を出してくれたよな。
レディーボーデンのアイスクリームが一番に美味かったなあ、リッツのクラッカーを添えて出してくれてさ。
俺は皿まで舐めたかったけどよ、我慢してた。そう、その通りだよ。オバサンに意地汚い子供だって思われたくなかったんだよ。俺は必死にカッコつけてた。
それにコーラ。美味かったなあ。うちじゃ歯が溶けるなんて言ってコーラなんか飲ませてくれなかった。オバサンにそれを言ったらウィンクしながら内緒にしてねって。
やっぱりコーラは缶だよな。
なあ田中・・・。
田中?
そうか、そうだよな・・。
花藤は立ち上がり外人たちに近寄って行く。
花藤が騒がしいスピーカーに手を伸ばしたところでそれは静かになり、次の曲を流し始めた。
スパイスガールズのワナビーだった。
花藤がボリュームを捻ると更に騒がしくなった。
よく聞いたよなこれ
俺はベイビーが好きだった。お前はポッシュだったよな。
花藤がスパイスガールズの歌声に乗りながらトイレへと足を向けると一人の男がその後を追うように歩き始めた。
ハハハッ!
花藤は笑った。
来いよ。
俺が欲しい物。マジで欲しい物を教えてやるから。
だからお前が欲しい物をな、マジで欲しい物を教えてくれよ。
俺はマジで本気で徹底的にぐちゃぐちゃにしてやりてえんだ。
俺をどうにかしたいのなら、俺が何者だったかは考えない方が良いぜ。
俺と遊びたいのなら付いてこい。
時間がもったいねえからな。
来いよ、楽しもうぜ。
花藤がトイレへと入り一番左端の小便器の前に立ちジッパーを降ろす。
そこへ一人の男が入ってきて花藤の右隣に立ち同じくジッパーを降ろそうとしていたが右手をジャケットへと突っ込み何かを取り出して花藤へと向けた。
花藤は咄嗟に右腕を掲げたが男はお構いなしに花藤の右腕に何かを押し当てボタンを押した。
バチバチバチ!!!という派手な音が鳴り男はどうだとばかりに花藤を見るがそこには笑みを浮かべてゆっくりと首を振る顔があった。
男が更に押し当て再びボタンを押すと再びバチバチ!!という音が響くがやはり花藤が動じる様子は一切ない。
「スタンガンか」
花藤が勢いよく腕を振るうと男はスタンガンを落とした。
男は咄嗟にスタンガンを拾おうとするが花藤の手がその顔面を襲いその勢いのままコンクリートの壁に後頭部を叩きつけられた。
狭いトイレの中で鈍い音が響き男も呻き声を上げ一瞬、意識が朦朧とし花藤に髪の毛を掴まれたが何も反応できなかった。
花藤は男の髪の毛を掴んだままその顔面を小便器に振り下ろすと鈍い音がし、そして思いきり背後にブン投げた。
男の右目が小便器の洗浄ボタンとぶつかった衝撃で潰れていた。
花藤はスタンガンを拾うと男を個室便所へと突き飛ばし後頭部と顔面の痛みに混乱する男が叫び声を上げる間もなくその髪の毛を掴むと洋式便器の水の中に突っ込み後頭部にスタンガンを押し当てボタンを押した。
バチバチバチ!!!と言う音と共に男の身体が激しく痙攣する。
「スタンガンじゃ殺せねえよ」
花藤はスタンガンのボタンから手を離さない。男は便器の水の中に顔面を浸したまま痙攣し続ける。
「ナイフとかも用意しておけ」
そうやって講釈を垂れながらも花藤はスタンガンのボタンを押し続ける。
男の肺の中から便器の水の中に吐ける空気が失われブクブクという音がしなくなり男は痙攣するだけになったが花藤はボタンから手を離さない。
五分も経たずにスタンガンのバッテリーは切れたようでバチバチと言う派手な音はしなくなり男も痙攣をすることが無くなったが、それ以上動くことも無かった。
「お前くらい便器で十分だ」
花藤は男の髪を掴み便器から引きずり出し個室ドアのストッパーになるようにするとトイレを出た。
そこではまだ外人たちが騒いでいた。




