第八十一話 左利きになる呪い
自衛隊稚内分屯基地。
自衛隊の基地とはいえここには港もなければ空港もない。
空自のヘリポートがあるのみだ。
ここは即応部隊の為の基地ではなく、その役目は宗谷海峡の監視。つまりは北方のロシア及び中国の動向の監視任務であるからだ。
二月の稚内半島は晴れることは稀で空を覆い続ける雲は薄い雪を散らせ続け、西からの冷たい風が止むことは無く気温は常に氷点下だ。だがマイナス10度まで下がることも無い。
自衛隊の日本最北端の基地が、樺太に最も近い宗谷岬ではなく稚内半島にある理由は、ここが宗谷岬に比べ僅かではあるが半島の東側の海岸沿いに平地が広がり、西風が防がれ比較的穏やかな気候条件であるからなのだろう。
そんな分屯基地の奥の奥にコンクリート製の小さな小屋が一つある。
第二次世界大戦終結後、アメリカ陸軍がこの地に駐屯した際に作られた物らしい。大正の頃からある基地そのものではなくそれらを再整備する為に、応急的に電力確保や備品格納のために作られた小屋だったのだろう。
その小屋の現在の所属は、陸上自衛隊北部方面隊第7師団第11普通科連隊第2整備大隊普通科直接支援中隊付稚内分屯基地整備分隊。
だがここ、自衛隊稚内分屯基地は情報本部が主体で陸海空を含め実行部隊はおらず、陸上自衛隊普通科部隊も配備されてはいない。
そして、この長ったらしい小屋の名称は自衛隊の全ての書類に目を通しても見つける事は難しいだろう。
通称、幽霊箱。
この箱に収められ、この肩書を持つ者は自衛隊隊員は一人だけ。
鉄仮面、花藤廉也。
ここは、人を生かさず殺さずに留め置いておくには最適な場所なのだろう。
あの未曽有の大災害。あの地獄に派遣された多くの自衛隊員達は必死に人々を助けながらも人目につかないように隠れて冷たい糧食を食べていた。
人々を救助するために来た隊員たちが、助けられる者達より良い境遇にあるのはけしからんと言われるのを避けるためだった。
多くの者はそれは誹謗中傷であると言うだろう。ほとんどの人は自衛隊員には温かい食事をしっかりと取り人々を助けるため尽力してほしいと思うだろう。
だが応援する声は響かず称える声は届かず、非難する声は良く響く。
被災地に派遣された自衛官達は助け出した者達に自らが持参した当座の食糧を分け与えた。
いや、分け与えたわけではない。自衛隊員は手にしてきた物を全てを差し出した。今日、自らが食べるはずだった物の全てを差し出した。
それは明日、誰かを助けるための力になる物だ。
だがそれにすら非難の声が上がった。
自衛隊員が持参し助け出された被災者に配った糧食の中に缶詰赤飯が混じっていたというのだ。
そんな中で犠牲者を抱き笑みを浮かべる写真を撮られるなど到底見過ごすことは出来ない。
花藤廉也は降格に次ぐ降格で全国をたらい回しにされた。叩き上げのエリート二尉は今や士長だ。
だが花藤は決して逃げなかった。
あの老人の遺体を抱き浮かべた笑みにほんの少しの負い目も後悔の欠片も感じることは無いからだ。
逃げる事のない男は自衛隊内には存在しない肩書を付けられた幽霊となり自衛隊最北の冷たい小さな箱に収められたというわけだ。
花藤は稚内分屯基地陸上自衛隊司令である伊木二佐の前に立っていた。
男が何かしゃべっている。
「平山三尉とその部下に16式と軽装甲機動車の一両ずつを朝霞駐屯地まで運んでもらう・・・」
花藤は直立不動で立ち目の前の男の右手の小指を見ていた。
男は机の上に両肘を突き左手を包み込む様に右手を重ねている。
だが右手の小指だけが立っている。
「陸路で苫小牧まで行き、そこから海路で東京湾の若洲まで・・・」
なぜ小指を立てているんだ?女みたいだ。と聞いてみたい。
その一言で花藤は晴れて自衛隊から放り出されるだろう。
だから、聞かない。
「予定は四日・・・」
なぜこの男は俺を懲戒処分にしなかったのだろうか。
呪いを恐れているのか?そんなバカな・・・。
それとも僅かでも憐憫の情を持っているのか?それも違うだろう。
この男にとって俺をあの冷たく小さい小屋に押し込めておくことが役目であり些細な復讐なのだろう。
「士長、キミはそれについてだな、これを朝霞の平田陸将補に・・・・」
この男を呪い殺せば俺は解放されるのだろうか。
俺はなぜここにしがみ付いているのか・・・。
それは・・・俺があの老人を助けたからだ。
そうだ、だから俺は自衛隊にしがみ付いているんだ。自ら自衛隊を去ることはあの老人に背を向ける事になってしまうからだ。ここから逃げ出すという事は、俺が助けたあの老人の死が意味の無いものになってしまうからだ。
だから、俺は逃げない・・・。
男がデスクの引き出しから書類を取り出し差し出した。
「あとは平山三尉に従ってくれ」
「はっ!」
花藤は書類を受け取り敬礼をし背を向けようとしたが伊木二佐はまだ喋る。
「士長、平田陸将補にそれを渡した後は三日取ってある、ゆっくりしてこい」
「はっ!」
「東京は久しぶりだろう?何年ぶりだ?」
花藤はすぐには答えられない。
「はい17、いや18年ですか」
今度はそれを聞いた伊木二佐が答えに詰まる。
「・・・そ、そうか・・・。まあ、ゆっくり家族に会ってこい。お袋さんは元気なのか?」
「さあ?会っていませんので分かりません。まあ便りの無いのは良い知らせと思っております」
「ん・・。まあ、うん、そうだな。あとは平山三尉とやってくれ。下がって良し」
「はっ!」
花藤は敬礼をし部屋を後にした。
花藤は稚内分屯基地の南に位置する鬼志別演習場に赴き平山三尉とその三人の部下を前に今回の任務についてブリーフィングを受けている。
「・・・日程は以上だ。16式機動戦闘車には私と木田二曹、石川二曹。操縦は木田二曹。士長は軽装甲機動車に乗ってくれ、そちらの操縦は川本二曹が担当する。何か質問は?」
「私は乗っているだけでいいんですか?」
花藤が聞く。
「ああ、士長の任務は別にあるからな、ゆっくりしていていくれ」
「はっ!」
「アンタはお客さんってことだ」川本二曹が口を挟んだ。
「川本!」平山三尉が咎めように呼ぶと川本二曹は不満げながらも返事をする。
「はい・・・」
「では出発は明日1200時だ」
花藤は敬礼をし背を向けて出て行った。
「車長、なんですかあいつは?書類封筒一つを持って朝霞まで付いてくるって言うんですか?それで島田の奴が外されたんですか?島田の奴、東京は初めてだって楽しみにしていたのに・・・」
花藤の姿が見えなくなると直ぐに川本二曹が不満をぶちまけ始めた。
「遊びじゃないんだぞ!」
平山三尉は再び咎めるように言うが他の三人も不満を隠そうともしない。
「だいたい何なんですかあいつは?分屯基地の幽霊箱ってあいつの事でしょう?」
石川二曹が続き木田二曹も続く。
「アイツが分屯基地で噂のタダ飯食らいか、花藤陸士・・・」
木田二曹が花藤の名前を口にすると再び平山三尉が、今度は強めに咎めた。
「アイツの名前は口にするな」
平山三尉はそう言いながら右手を握り開き、そしてまた握った。握りしめた右手の小指がわずかに立っていた。
稚内分屯基地の幽霊箱。
そこの収められた一人の男。花藤廉也。
いや、幽霊か。
皆その存在は知ってはいるが幽霊に目を向ける者はいないし、声をかける者もいない。
あの幽霊箱が何なのか、あの幽霊が何なのか知る者も、知ろうとする者もいない。
ただそれでも皆分かっていることがある。それは幽霊に関わってはいけないという事だ。
窓際どころか奥の奥の幽霊箱。
そんなところに閉じ込められている男に手を差し伸べたところで引き上げることなどできるわけがないし最悪、自分もそこに引きずり込まれるだろう。
そしてまことしやかに流れている噂。
幽霊の名を呼ぶものは呪われる。
自衛隊は軍隊ではない。
だがそんな言葉遊びに意味はない。
軍人であろうが自衛官であろうが、いざとなれば銃を手に戦わねばならぬのだ。
ベトナム戦争に駆り出された米兵たちはラッキーストライクを避けたと言う。
殺し殺される使命を持つ者達はジンクスにはそれなりに敏感になるものだ。
花藤に近寄ろうとする者はいない。
話しかけるどころか、視線を交わす者さえいない。幽霊は目に見えないとでも言うように。
花藤は朝になると小屋に入り、日が落ちると小屋から出る。ただそれだけの日々をもう五年以上は続けている。
普通の人間ならば精神に異常をきたしてしまう事だろう。
花藤は初めての挑戦でレンジャー徽章を胸に付け、その後もその胸には多くの徽章が増えていきレンジャー教官になれば鉄仮面と恐れられ、今は士長にまで落ちぶれたとはいえ高卒ながら一時は二尉まで上り詰めた叩き上げのエリート自衛官だ。
平山三尉の咎めの言葉に三人は口を閉じたがその思いは同じだった。
呪い?バカらしい。
幽霊なら幽霊らしく箱に閉じこもっていればいいものを何を今更出てくるんだ・・・。
平山三尉とその部下の三人、そして花藤は稚内から苫小牧までの陸路を走り終え、貨物船に乗り込み当座の安堵を得た。あとは東京湾の若洲港まで三日、それまでは暇を持て余していればいい。
花藤はいつものように一人で食事をとっていた。
この船は自衛隊の戦闘車両を運搬するとはいえ平時でもあるし民間船舶だ。
だが戦闘車両を運んでいるわけで一般乗客はいない。防衛省から直接依頼されている特別な民間船舶だ。
16式機動戦闘車と軽装甲機動車以外の積み荷は無く乗客も平山三尉以下三人の部下と花藤のみだ。
一人、食事をとる花藤の横に立つ者がいた。川本二曹だった。
「コーヒー飲むか?」
手にしたカップの一つを花藤の前に置いた。
花藤は落ち着かない。
ここ数年、誰かと食事を共にしたことなかったのだ。
花藤の稚内分屯基地での生活は自衛隊宿舎の半地下の倉庫のような部屋から始まる。
自衛隊の宿舎はどこも酷いものだ。
築造当初ならば文化住宅などと呼ばれ羨ましがられただろうがエレベーターすらない築50年に近い五階建てのコンクリート造で、分かりやすく言えば昭和の団地だ。そんな物を令和となった今でさえ建て替えることも無く大規模なリフォーム工事を施し使い続けている。
50年前の建築様式で作られた遺物を令和の今に改造しようとしても実に無駄なコストがかかることになるだろうが、自衛隊にはそれを解体し時代に即した物に建て替える予算が与えられることは無い。
自衛隊員はエレベーターすらない50年前の建物に住んでいろと言うのが日本国民の総意なのだ。
花藤の部屋は、元は非常用電源などが置かれたボイラー室だった。
時代と共に個室用空調機や温水器が進化し時代遅れのセントラルヒーティングは不要となり物置となっていたところが花藤の巣だ。
花藤は朝5時50分きっかりに目を覚まし、ベッドから出ると直ぐに顔を洗い歯を磨き髭を剃り上げる。
顎を撫で剃り残しがないことを確認しタオルで拭きあげながら、置時計のアラームが6時きっかりに作動したその瞬間に止める。
テレビを点けるとアナウンサーが天気予報を伝え始めるところだ。
「本日は稚内は曇り。西の風が吹き、時間より降雪が見られます」
アナウンサーが二月ならば20回は口にするであろうセリフを終えたら花藤はチャンネルを変える。
ニュースを聞きながら着替えを済ませ6時30分に部屋を出てゆっくりと10分間歩き6時40分に食堂に着く。
朝食は6時から7時までだがこの時間にはもう誰もいない。花藤は一人朝食をとる。
朝食を終えたら一度自室へと戻り歯を磨き、鏡を見てまだ自分が存在していることを確かめると幽霊小屋へと向かう。7時45分に小屋へと到着し17時45分に小屋を出る。18時に食堂に入り一人で夕食をとり18時20分に自室へと戻る。
そして明朝5時50分に目覚める。
「いえ、けっこうです」
花藤は答える。
川本二曹が花藤の前に置いたカップには麦茶のような薄い液体が入っているだけだったから・・・。
というわけではないが、花藤が横を見るとドリンクバーがある。そこにはちゃんとコーヒーもある。
インスタントコーヒーの粉の入れる量を間違えたわけではない。ノンカフェインコーヒーだとしてももう少しまともな色をしているだろう。
わざわざお湯を足したのか・・。
花藤は離れたテーブルにいる平山三尉に顔を向けたが、三尉は視線を反らした。
「けっこうです?お前の為に入れてやったんだぞ」
花藤はもう答えたとばかりに下を向いた。
川本二曹は手にした自分のコーヒーを啜り見せつけるように花藤の為に用意したというカップの横に置いた。明らかに色が違うのが見て取れた。
「それ、随分と濃そうですね」
「ああ、俺のはな。でもお前は幽霊だろう?薄い方が良いと思ってな。なあお前、歳は幾つだ?」
「46です」
「46ぅ?46にもなって陸士長かよ!いつまでここにしがみ付いていいるつもりだぁ?」
花藤廉也は46歳。川本二曹は30をいくつか超えたところだろうか。石川と木田の両名も似たようなものだろう。平本三尉は39歳。この五名の中で年齢だけで言えば花藤が一番上だが自衛隊内では年齢はあまり関係ない。
いや、軍隊ではと言った方が良いだろうか。
年齢が一切考慮されないのかと言えばそうでもない、単に階級がものを言う世界だという事だ。
「川本二曹、私の事は気にせず放っておいてください。幽霊だと思うのなら」
川本二曹は、平山三尉に助けを求めるような視線を送りそれが叶わないと知るとうつむいた花藤を侮っている。
川本二曹は花藤の事を何も知らない。幽霊箱の住人という以外には。
まさか北の果ての分屯基地の奥の奥に押し込められている幽霊のような男が自衛隊の最終兵器というわけでもないだろう。
「そりゃあ俺はお前の事なんか見たくもねえよ。でもお前がしゃしゃり出てきたんだろうが!なにしに東京まで行く?」
「それは、朝霞まで書類を・・・」
「んなことは分かってる!お前は書類を運ぶくらいしか能の無い野郎なんだろうよ。でもそのせいでな、島田の奴が今回の任務から外されたんだよ!」
面倒だ・・。
花藤は呆れたがため息をつくような真似はしない。
「私はしゃしゃり出たわけではなく伊木二佐から直接に・・・」
「だからよ、断ったらよかっただろ?そうすりゃあ島田の奴が外されることも無かったんだ。あいつ、初めての東京だって喜んでいたんだぜ」
「基地司令の命令を断るなんて無理ですよ。あなたが伊木二佐に進言すればよかったのでは?」
「ああ!?なめてんじゃねーぞ!分屯基地のタダ飯食らいが!」
花藤は再び平山三尉に顔を向けたがやはり視線を反らされ諦めて下を向いた。
川本二曹の威勢の良さに釣られたのか石川二曹に木田二曹まで花藤を囲んでいた。
花藤は諦めて川本二曹の置いたカップを手にし麦茶のような色をしたコーヒーを飲みほした。
「ごちそうさまでした」
トレーを手に立ち上がった。そして、もういいとばかりに背を向けた。
「花藤陸士長!」
川本二曹が幽霊の名を呼ぶ。
花藤はトレーを手にしたまま止まる。
「お前を呼ぶと呪われるんだってなぁ、呪ってみろよ!タダ飯食らいの花藤さんよ!」
花藤は、自衛隊とは何か?と考える。
そして自衛官とは何かと考える。
花藤は20年を超える自衛隊生活の中で常に考えてきた。すでに答えはある。
花藤はトレーから手を離した。
トレーが床に落ち、食器が散乱する前に振り向いた花藤の右の拳が川本の腹に突き刺さった。
トレーが床に落ちる音と川本の呻き声が同時に響く。
木田二曹が叫んだ。
「花藤!!」
花藤は崩れ落ちる川本の右腕を掴み木田に目を向けた。
花藤と目を合わせた木田が殴りかかってくるが、実に遅い。
花藤は木田の拳を難なく交わしがら空きの腹に拳をめり込ませると木田も川本と同じく床に倒れた。
それを見た石川二曹は驚愕し一歩下がる。
「お前・・・何をしている・・・」
花藤は左手に川本の右腕を、右手に木田の右腕を掴み立つ。
平山三尉が異変を察知し駆け寄ってきた。そして花藤が両手に掴む物を見る。
「士長・・何をしている!?」
助けが来たと思ったのか、川本が苦しみと共に呻く。
「花藤・・・てめえ・・」
花藤はゆっくりと川本を見下ろしその肩を右足で踏み抑えた。
花藤が何をするのか察した平山三尉は叫んだ。
「士長!止めろ!!その手を離せ!!!」
だが花藤は川本の肩に体重をかけつつ川本の右腕を捻り上げる。
川本は苦痛を吐くが花藤は一顧だにせず川本の右腕を捻った。
バグンッ!と言う鈍い音と共に川本が絶叫した。
「士長!!!止めろ!!なにをしている!!!」
平山三尉が叫び、激痛に悶絶している川本を隣に見る木田も言った。
「花藤!どういうつもりだ!?」
「どういうつもりだと言われてもな・・・」
花藤は木田の肩を踏んだ。
それが何を意味するのか皆分かっている。すでに激痛に苦しんでいる川本以外の三人が叫ぶが花藤は右腕に掴んだ木田の腕を捻り上げると、また似たような音が響いた。
川本と木田の両名は肩の関節が外され激痛に身悶えうめき声を上げている。
「士長!なにをしている!その手を離せ!!!」
「格闘技の試合の前にフェイスオフってありますよね」
「その手を離せ!!!ここは民間船舶だぞ!!」
花藤は叫ぶ平山三尉に目を向けることなくその足元で苦痛にあえぐ二人を見下ろし、その手は離さない。
「アレって、キスでもするのかってくらいに顔を近づけて挑発するじゃないですか。俺、アレを見ていると笑っちゃうんですよ」
「何を言っている?いいからその手を・・・」
「試合が始まったらあんなことは絶対にやらないじゃないですか。つまりあれは手を出されないって分かっているからあんなことをやっているわけですよね?仮に少し手を出されてもすぐに周りのスタッフが止めに入るだろうし安全だって分かっているからやっているんですよ。それってダサいですよね」
「士長、何が言いたい?」
「こいつらは私にケンカを売ってきた、だから買ってやったまでです。でもこいつらはケンカを売ってきたのに買われるなんて思っても見なかった」
「花藤・・・てめえ・・」川本が恨みを込めた言葉を吐こうとするが花藤はそれをさせなかった。
「ここに記者会見の場じゃないし俺は格闘家でもないぜ」
掴んだままの川本の腕をレバーのように回してやると川本は再び苦痛を叫んだ。
「何のつもりだ士長!タダじゃ済まんぞ!!」平山三尉は脅すように言うが実力、つまりは腕力で花藤を制しようと近寄ることも無い。
「平山三尉、幽霊だの呪いだの噂を広めたのはあなたでしょう?こいつらにその呪いってやつが何なのか教えてやらなかったようですね」
「花藤!手を離・・・」川本が言い終わる前に花藤は再びその腕を回し激痛を思い出させると、川本はまた激痛に苦しむ。
「そうやって痛がっているうちは俺を呼べないだろう」
「花藤士長、もういいだろう?その手を、離すんだ」幽霊の名を口にした平山に花藤は答える。
「平山、お前に去れと告げた俺の判断は間違いじゃなかったな。まあお前がレンジャーを諦めた判断も間違いではなかったという事だ」
花藤は手を離した。
「だがお前には何度も言ったはずだ。自衛隊は専守防衛。専守防衛ってのは相手に一発ハンデを与えた上で叩きのめす覚悟だってな。こいつらを鍛え直しておけ!!」
「い、石川!二人を医務室へ!!」
「止めておけ、自衛隊の恥を晒すつもりか?外れた肩をはめるだけだ。平山、レンジャーを諦めたお前でもそれくらいできるだろう?二、三日左手で飯を食わせておけ」
花藤は床に落としたトレーを拾い、散らばった食器を集めると四人に背を向け去って行った。




