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ー番外編 しょたれいぱにっく後日談Ⅰ―

このエピソードには若干の性的な表現がございます。ご注意くださいw


 エリシアが俺のベッドから抜け出し、そっと部屋を出て数分が経っただろうか。


彼女の甘く優しい残り香と、彼女の温もりの名残が、俺の脳を痺れさせ、彼女が未だに隣にいるような錯覚を与え続け、ベッドに釘付けにしていた。


 だが、何時までもこんな事をしてる訳にはいかない。そもそも、何故こうなったのか、振り返ってみよう。



―昨日 悦楽の館―


 俺は階段を上ったフリをして、神隠しの法を発動し、すぐさまエリシアの元へと戻った。

そして困惑し続ける彼女の腕を二回ほどつっつき、中に入ることを促す。


 開けられた扉の隙間から滑り込み、部屋の隅に潜んだが、それは悪手であったと、即座に理解した。この部屋には幾何学模様の派手な壁紙が張られているが、それは実はフェイクだったのだ。部屋一面に、奴はすでに魔方陣を書き込んでいて、魔力さえ流し、発動してしまえばすぐに、俺の体は子供の体に戻されてしまうだろう。


 だがまぁ、例え子供に戻されたとしても、この程度の相手なら子供の俺でも何とかなるだろう。しかし、どの程度の子供に戻されるかは全くの未知数だ。もしかしたら乳幼児まで戻されるかもしれない。そうなったらもうエリシアに抱えてもらって逃げるしかないんだろうな。


 今までの被害者たちのパターンからしてみても、下が8才から始まり、上は18歳くらいだろうか。……広いんだか狭いんだか判らない守備範囲をお持ちで。ま、一般的にも法律的にも、間違いなくアウトコースだろう。


 とりあえず、俺の今の記憶が、子供の姿の俺に反映されるとは限らない。手の平にメモでも残しておくか。一応、子供の俺が見てもわかるように、狼人族の文字で書いておこう。


『エリシアをまもる』


 これでよしっと。もしもの時は頼むぜ、ちっさい俺。







「それがどうして添い寝してんだよ!!!!?????」


 俺は思わず小さい俺に対し、全力でびしっとジェスチャーつきでツッコミを入れてしまう。


 どうやら俺の読みは当たったようだった。何故なら、グレンはああ見えて近接戦闘においては俺以上のポテンシャルを持った奴だ。アイツが自身の記憶と経験を維持できていたのなら、どんな姿にされても、あの程度の相手なら対応できたはずだ。それでもやられてしまったという事は、その経験をリセットし、経験を積む前の状態まで巻き戻した事になる。


 幸い、俺は黒の森で生活するために、さらに幼少の頃から、狩りなどの知識をスキラから学んでいたため、自分より格段に大きく、強い相手に遭遇してしまった際、どう隠れ、どう対処するかを、スキラはしっかりと叩き込んでくれた。その経験が生きたのだろう。


 だが、何処をどう間違って、俺はエリシアと添い寝なんてしたんだ!?


 いやいや、落ち着けレイ。グレンは小さくされ、そして元の体に戻った際、自分の身に何が起こったかをしっかりと思い出していた。つまり、この記憶の混濁はやがて解消するという事だ。


「思い出すのかよ!? 知らないままで居たほうがいい事をわざわざ思い出すのかよ!? 最悪じゃないか!!!」


 そうだ、ベストな対応は、寝たふりをしてしまった以上、この事を深く考えず、記憶を取り戻す事はなかったという事で、洗いざらい全部忘れちまって、エリシアがそれとなく記憶の有無を確認してきても、しらばっくれちまえばいい話なんだ。


「ああイヤ、だがやはり、どうしてそうなったかが気になってしまう! 一体何をやらかしたんだ俺は!」


 今まで散々エリシアに対し、理性的ではない衝動的な対応をいくつもしてきた。だが、こればっかりはマズイ。


「うーん、アイツに子供に戻されて確か……」


 ふと、俺はハンガーに吊るされているシルフィードマントに目が行った。すると、ある光景が頭に浮かび、一部の記憶が鮮明に蘇っていく。


 まず、思い出したのが……。


―回想中―


「うーん、着ていた服はブカブカだし、仕方ない。レイ、ごめんね? とりあえずこのマントで体を包むしかないの。ほら、おいでレイ。おなかのところで縛っておくね。大丈夫? 寒くない?」

「う、うん」


 エリシアが、小さくなった俺の体を包んでいたシルフィードマントを、腹の辺りで縛り、とりあえず固定してくれた。エリシアの顔が、驚くほど近くにある。


「はい、これでよしっと。じゃあ、とりあえずこの悪い女の人を拘束しちゃうから待っててね。勝手にウロウロしちゃダメよ? あと、この悪い女の人をじろじろ見るのもダメだからね?」

「べ、別にそんなの見たく無いもん!」

「はいはい。……よしっと。これでOKね。それにしても、女性とはいえ、大人を一発KOしちゃうだなんてね……」


 エリシアが、やや呆れて、俺をため息混じりに見下ろした。その姿が何故か、悪戯や失敗をしてしまった俺を、優しく叱ってくれていたスキラと重なって見えてしまった。


「……ご、ごめん……なさい」


 何が悪かったのかは、理解は出来なくとも、彼女を困らせたり、呆れさせてしまったと、幼いながらも感じ取った俺は、目線を合わせず、俯き加減に謝罪の言葉を述べた。


「あ、ごめんね? 違うの。レイは悪くないのよ? ……うん、頑張ったね、レイ。イイ子イイ子♪」


 エリシアの細くしなやかな指先が、俺の髪を優しく撫でる。


「ふへへぇ……はっ!」

「……………ぷっ」


 あまりの心地よさに、幼き俺はにへらっと表情を緩ませ、その失態にすぐ気が付き、ハッとするが、エリシアはもちろん、それをバッチリと目撃してしまった。彼女は顔を真っ赤にして堪えたが、我慢できずに思わず噴出してしまったようだ。


「ねぇねぇ、レイ! もっかい! お願い、もう一回だけニコってして? ねぇねぇ♡」

「やだ! やだよぉ! 恥ずかしいもん!」


 俺はフードを深く被り、下を向いて表情を隠すが、それは返って逆効果だったようで……。


「もぅ、かわいいなぁ」


 ど天然プリンセスエリシアは、相手が俺と理解して無いのか、後ろからぎゅっと抱きしめ、頬を寄せてくるのだった。








「ふへへぇ……じゃねぇよ!!!! 何、にへらっとしてんだよ!!!??? そんな顔スキラくらいにしか見せた事無いだろ俺!!!!!!!」


 何たる失態! 何たる屈辱! なんて恥辱! こんな羞恥プレイはあんまりだ! いっそ死にたい!


 もういい、忘れよう。 これ以上思い出すと、本当にグレンみたいに壊れちまう気がする。さて、とりあえず後処理どうなったかだけを確認して、新しい依頼を受けて、仕事に没頭しよう。そうすればこんな悪夢はきっとすぐに忘れるさ……。





―エアリアルウィング―


「レイちゃんおっはよ♪」


 ギルドの扉をくぐった時、唐突に後方からマスターの声が聞こえてくる。どうやら、俺の後からギルドに戻ってきたらしい。どうやら、朝一番に出かけていたのではなく、昨日から外出し、一泊して今帰って来た所なのだろう。


「おはようございますマスター。なんか肌つやつやで、すげー上機嫌ですね」


 この人……。俺はとても酷い目に遇ったはずなのに、夕べはお楽しみでしたねって奴だな? 俺はこんなにも気分が沈んでいく一方だと言うのに、なんて忌々しい幸せオーラをかもし出してやがるんだ。


「……むぅ、やっぱり戻ってる。レイちゃん、エアリアルウィングマスター、セイラの名において命じます。今後、私をマスターと呼ぶ事を禁じます。私の事は『セイラ姉ちゃん』って呼んで♡」

「……マスター、辞表を書かせてください。こんなパワハラはあんまりだ」

「ぶぅ~~~。かわいくなーい。もう、どうしてこんなに捻くれちゃったのかしら。昨日のレイちゃんすっごく可愛かったなぁ」


 戦慄する。つまり、俺はエリシアだけでなく、この人の前でも醜態を晒してしまったというのか!?


「ベソかいて、『セイラ姉ちゃん助けてぇぇぇ!』って来られた時なんてもう、キュン死するかと思ったわよぅ♡」

「なん……だと!?」


 瞬間、再び、俺の脳内を映像が駆け抜ける。見えたのは、息を荒くして、恍惚とした表情を浮かべながら、胸元を開き、迫ってくるカトレアの姿。そして逃げ出す俺。行き着く先は、マスターの背後だった。


変態馬鹿女カトレアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






 ふと気がつけば、抜け殻のようになってしまった俺は、同じく心に深い傷を負ったグレンと共に、ジョッキで酒をあおりながら(俺の中身はコーラ)、カウンターテーブルに突っ伏していた。


「くっそぅ、屈辱だ。エリシアどころかマスターにまであんな痴態を晒すだなんて! 一生の不覚!」

「……お前なんていいじゃないか。俺、もうSMとか無理……。むしろ、女コワイ。だからって男なんて絶対無理……」

 

 グレンが隣でグレンらしからぬセリフを抜かしやがってる。余程酷い目に遇わされたのだろう。まぁ、普段が普段なだけに、今回ばかりはグレンにとってはいい薬になったのではなかろうか。どうせそのうちまた、女の尻を再び追い掛け回すのだろうから。それがグレンと言う奴なのである。

 

「……あ」


 やや頭上から、エリシアの声がした。どうやら、エリシアが2階の自室から降りてきて、俺の姿を視認したらしい。俺がエリシアの姿を視認すると、エリシアは顔を真っ赤にして、俺と視線を交さないよう、俯いてしまった。


「お、おはようレイ……。昨日はその、大変だったね……。もう体はなんとも無いの?」

「あ、ああ。なんともない。でもその、ちょっと記憶が混濁してるみたいだ。昨日の記憶の大部分が抜け落ちてる。とくに子供に戻されて以降の記憶が殆ど残って無いんだ。断片的に少しずつ戻ってはいるけど……その、エリシア、あの……さ」


 エリシアが目を丸くして、顔を真っ赤に染めながら、体を強張らせて、俺の次に出てくる言葉に対し、警戒心を露にしている。


 聞けねぇ!!!! 何でお前、俺のベッドで俺と添い寝してたんだ? だなんて口が裂けても聞けねぇ!!!!


「お、お前怪我とかしてないか? 子供に戻されてから、サーティ=ロードがどうなったのか、俺、まだ思い出せないんだ」

「あ、う……うん。そこは大丈夫。子供に戻っても、レイが頑張ってくれたから、私は何ともなかったわ。後処理はジークさんが請け負ってくれたから、あとでお礼言おうね」

「そっかそっか。ジークには面倒掛けちまったな。参っちまうよなぁほんと。お前にも迷惑かけちまったな、すまん」

「え!? あ、いいのいいの! 子供に戻っても、レイはちゃんと私を守ってくれたし、全部私の我侭のせいなんだから、むしろ私が感謝しないといけないもの。ありがとうね、レイ」


 その時、再び俺の脳内で、本当に部分的で、脈絡のない記憶が、再びフラッシュバックする。


 思い出したのは、俺を優しく抱き上げ、ギュッと抱きしめるエリシアの腕。そして俺の頬にぴったりと密着する彼女の頬。俺の胸板に押し付けられる、彼女のふっくらとした柔らかい胸の感触と、俺を包み込むエリシアの温もり。そして、俺の鼓膜をくすぐるような、優しく、どこか官能的なエリシアの声が、頭の中で蘇った。


『ありがとね♡ 頼りにしてるわ、小さな勇者様』


 ホォォォォォォリィィィィィシィィィィィィィィィッ!!!???


 ひどい。これは酷すぎる……。だからどうしてそんな状況になっちまうんだよ。俺以上にエリシアとべったりしてんじゃねぇよ小さい俺……。イヤそこじゃなくて……。


「だから……なんでそうなったんだよぉ!!! 前後だよ前後! その前後一体何があったらそんな事になるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

「え? 前後? ちょっとレイ、頭抱えて暴れてるけど、一体どうしたの!?」

「あぁん? なんだよレイ。落ち込んでる俺の隣で性懲りもなく二人だけの空間しやが……って、なんだお前その顔。顔真っ赤にして白目なんて向いて、気絶寸前じゃねーか。そんな表情初めて見るわ」


 なんで? どうして? 何がどうして何故そうなった!? あまりにも断片的過ぎて、そしてあまりにも、状況がぶっ飛びすぎて眩暈がする。


「あの、レイ? もしかして、何か思い出したの?」

「およ? どうしたのレイちゃん。……あー、さては少しずつ思い出してきちゃったのね♡ エリシアちゃんに、『エリシアお姉ちゃーん♡』ってべったりだった事♡」

「……………は?」


 全身の毛穴と言う毛穴から、俺の血液が汗となり吹き出ていくような気がした。眼前がぐらぐらと揺れ、目の前が暗くなっていく。


 いや、待て待て。マスターの戯言だ。わかってるだろ? またマスターがからかってるんだ。エリシアだってすぐに否定してくれるはずだ。


「……………えっとぉ。あはは……」


 俺の最後の希望、エリシアは、頬を赤く染め、人差し指でぽりぽりと掻きながら、明後日の方向を向き、右の口角を釣り上げ、苦笑いを浮かべてる。それはまさに、俺の最後の希望が崩れ去ったことを意味していた。


「ま……まじか?」

「その……少し大袈裟だけど、確かにそのぉ……『エリシアお姉ちゃん』はほんと、かな? ほ、ほら、仕方ないよ。小さくなったレイは、私の事覚えて居なかったし?」

「いーえ♡ 全然脚色なんてしてないわよ♡ 間違いなく、誰の目から見ても、小さいレイちゃんはエリシアお姉ちゃん大好きでした♪ 自分には不釣合いなダガーを腰から下げて、『エリシアお姉ちゃんは俺がまもる!』って張り切っちゃってたわよん♡」


 俺はあまりの衝撃に、言葉も出ない。殴りたい。むしろ殺したい。昨日の俺を殺したい。


「ちょ、マスターやめてくださいよぅ!」

「ぶっ!!! 何それマジなの!? ちょ、マスター! あんまりじゃないっすか! なんで俺を呼んでくれなかったんですか! そんな面白い物見逃したとか、ビンタされたレイを見逃した時以上の衝撃ですよ! うわーーーーーー俺、もう後悔で明日を生きる自信がないぜぇぇぇ! ぎゃはははははは! おいレイ、もう一回子供に戻ってみろよ! 今度は俺がちゃーんと動画で残してやるぜ? ぎゃははははははは!!!」


 グレンが自分の事を棚に上げて俺をディスって来やがるが、今はもう、それ所じゃない。俺はカウンター席を離れ、ふらふらと、高熱を出した病人のような足取りで、ギルドの外へと向かう。


「え、レイ? どこへ……?」

「ふふ、放っておいてあげましょ。大丈夫、レイちゃんの行き先なら、簡単に想像がつくわ」





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