―番外編 しょたれいぱにっく後日談Ⅱ―
―レオニード城・王執務室―
「……で、そのゾンビみたいな成りで、俺の部屋に逃げてきたと」
「……もうマジでわけわかんねぇ。記憶が殆ど吹っ飛んでて、思い出す場面のどれもがトラウマクラスで、俺死にそうなんだけど」
俺はロキの部屋の高級ソファーに、沈むようにうつ伏せでぶっ倒れていた。ロキは書簡を書いたり、書類に判を押したりと、執務作業をこなしながら、俺に呆れていた。
「……で? なんだっけ。朝起きたら隣にエリシアさんが寝て居たって? しかもお前の頭を抱き締めながら。……ふむ。そりゃーお前、状況からしたらやっぱヤッちゃったんじゃね?」
ロキウスはゲス顔で親指を人差し指と中指の間に挟んで見せてくる。
「ヤッとらんわ! 子供の俺がそんな事をすると!?」
「いやほら、エリシアさんが、ショタの姿のレイの可愛さに、思わずそっちの方面に目覚めちゃったっていう……な? 俗に言う典型的なおねショタだな」
「ぇ……」
俺の弱りきった精神は、下らない妄想を掻き立ててしまった。
―妄想中―
真夜中、子供になった俺の目の前で、エリシアはゆっくりとパジャマを脱ぎ捨てた。
「え……? エリシアお姉ちゃん!? 一体何を!?」
下着姿のエリシアが、子供の俺には刺激が強すぎる姿でゆっくりと俺に近づいてくる。いや、エリシアの下着姿とか、大人の俺でも刺激が……。
「……レイがいけないんだよ? レイがあまりにも可愛いから、私、おかしくなっちゃったの。もう、エッチな女だって後ろ指指されたっていい……。もう我慢できないよ。ねぇ、レイ。」
「ちょ……エリシアお姉ちゃん!? ま、まって! 俺は今子供なんだよ!? 犯罪になっちゃうんじゃないの!?」
「うん、すっごくいけない事だよ。ねぇ、レイはいや? 私といけない事、したくない?」
エリシアはゆっくりと四つんばいでベッドの上に上がり、俺の頬を撫でながら、ゆっくりと顔を俺に近づけ、耳元でそんな事を囁いた。
「あ、あの……俺は、その……」
「もぅ、まどろっこしいなぁ♡」
エリシアは子供の俺をベッドに押し倒し、シャツの中へと、ゆっくりその細くしなやかな手を滑り込ませていく。
「くぁ……っ!」
冷たいエリシアの指先が、俺の胸板を撫で回しながら、シャツを捲り上げる。ひんやりとした感触と、絶妙な快楽のバランスに、俺は思わず情けない声を上げてしまう。
「ふふ、可愛い声だしちゃって。もうレイもいけない子だね。……えっち♡」
耳元で、エリシアが俺の耳をくすぐるように、妖艶に囁く。
「くぅ……!」
背筋をゾワゾワと這い回るような快楽に、身が竦む。俺は奥歯を食いしばり、快楽の波に抗っていた。呼吸を止め、全身を強張らせ、耐え忍んだ。
だが、そんな俺に追い討ちをかける様に、エリシアの腕や、足、そして胸が、俺の体を包み込むように、ゆっくりと締め上げる。どこをとってもマシュマロのように柔らかいエリシアの素肌が、ぴったりと密着するだけで、俺の理性は片っ端から瓦解していく。
「ふふ、レイってば、耳弱いの? ……ねぇ、舐めて欲しい? 私の舌で、お耳をくちゅくちゅってするの♡ 『お耳ぺろぺろして』っておねだりできたら、いっぱぁいしてあげるわよ♡」
くっそう。これがカトレアだったら余裕でふざけんなビッチと、全力でつっぱねて拒否できるのに、油断したら理性を投げ出しちまう! こんなエリシアは反則だろ! 俺は最後の理性を握り締め、エリシアの量肩を掴んで、ぐっと押し返す。
「エリシアお姉ちゃん、やめようよ! こんなのおかしいって!」
「ふふ、やめて欲しいなんて思って無いクセに♡ 大丈夫よ、怖がらないで? お姉ちゃんに任せて♡ ね? 私の可愛い勇者様♡」
エリシアの小さな舌が、俺の首筋をゆっくりと、艶かしく舐め上げ、そしてそのまま耳元まで迫る。
耳に吹きかかる、熱く、湿り気を帯びたエリシアの呼吸。
くすぐったさにも似た快感に、歯を食いしばって耐えるが、そんな俺にエリシアは更に追い討ちをかけてくる。彼女は、俺の耳たぶを、その唇で優しく挟んだのだ。
「うあっ……」
耳たぶを包み込み、ちゅっと音を鳴らす、彼女の柔らかい唇。そして、耳の形をなぞる様に、ゆっくりと舐る彼女の舌が、耳の穴へと侵入したその時、俺の理性はあっけなく限界を迎えた。
「や……やめっ! そんなとこ舐めちゃ……! うあぁぁぁ! もうだめ! エリシアおねえちゃぁぁぁん!」
「うわぁぁぁぁぁぁ無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い!!!!!!!!」
俺は思わず自分のありえない妄想に絶叫してしまう。
「ぶはっ!!! 今お前、神速みたいな速さでとんでもない妄想してたろ? うん、大丈夫。俺も無いと思う。自分で言って、『いや無いな。カトレアじゃあるまいし』って思った。
つかお前、顔真っ赤だぜ? まさか俺の見たことの無い顔を引き出すだなんて、流石エリシアさんだな。
しかしまぁ、添い寝してたのは事実なんだろうし、案外子供のお前がベッドに引きずり込んだんじゃないか? 最近のガキはわりとマセガキが多いって言うし?
元々お前にそういう素質的なものがあって、相手がエリシアさんだから、お前のほうが、子供でありながら性という物に目覚めちまったんじゃないか?」
さらりと、涼しい顔でえげつない事を、ロキは言う。
「あ、あのなぁ。生物学的に見たって、子供の俺がマジでそんな事出きると思ってるのか?」
「そりゃ普通なら有り得ないけど、大人が子供に戻るって事自体が、普通なら有り得ないんだぜ? そんでもって、お前は子供の体でありながら、身体能力は普通の大人を凌駕していたと聞く。一部身体能力と、何かの拍子で生殖能力だけが残されていたら? 何せ、お前に魔法をかけた女は、子供の体を弄び、性的興奮を覚えるアバズレ魔術師だったんだろ? 子供の姿のまま、アレだけ大人の機能を残してお楽しみ♡ なんて全然有り得るじゃないか。そう思うと、魔術ってホントにこえーよなぁ? ガチの天才が扱うと不可能なんて無いんじゃないかと思うよ」
絶句した。ロキの言い分はもっともだ。あのサーティ=ロードならやりかねない。イヤむしろ、実際そうだったのだろう。そうなると、子供の精神力や理性で、性欲という物をセーブできるものなのだろうか? ま……まさか……。まさか俺はエリシアに……!
―再度妄想中―
夜、シャワーを浴びた俺を、エリシアはベッドに寝かしつけようとした。
「……それじゃあ、イイ子にして寝るのよ? 私は自分の部屋に帰るから、もし何かあったら窓越しに声を掛けてね」
「……待ってくれ、エリシア」
「……え?」
俺は思わず、エリシアの袖を掴み、エリシアを引き止めていた。
「ど、どうしたのレイ? きゃっ!?」
俺の心の中に潜む、獣のような欲望が、理性と言う皮を突き破ってしまった瞬間だった。俺は子供とは思えない力で、エリシアをベッドに引きずり込んでいた。
「今夜はもう、お前を帰したくない。帰さない……」
エリシアは一瞬俺が何を言っているのか判らない様子だったが、理解した瞬間、顔を真っ赤にして混乱し始める。
「な、何言ってるのレイ! や、ちょっと待ってよ、あなたは今子供なのよ? こんな事、許されないよ……」
「そんなの関係ない。俺、もう我慢できないんだ。エリシア、お前が欲しい」
エリシアをギュッと抱きしめ、彼女を拘束する。
「やっ! レイ、お願い待って! 変だよこんなの! こんなのイヤ!」
エリシアは口では拒絶するが、体には殆ど力が入っていない。それをいい事に、俺の手は、彼女の胸へと伸びた。
「んっ! あ……やっ」
エリシアのふっくらとした胸に触れた途端、彼女は更に顔を羞恥で赤らめ、悩ましい声を漏らした。
「れ、レイ! いくらなんでも、私だって本気で……!」
エリシアは俺をキッと潤んだ目で睨みつけるが、俺は容赦なく、服の上から彼女の胸を撫で回す。
「んんっ! っ……!」
殆ど抵抗しない彼女の手を、彼女の頭の上で、片手で押さえつけながら、俺は彼女のパジャマのボタンを、首元から下まで、一つ一つ外していく。
「ひどいよレイ……。こんなのヤダ」
エリシアは目に涙を浮かべ、肩で息をしながら、口先だけの抵抗を続けていた。
「……じゃあ、なんで抵抗しないんだよ 俺、ほとんど力入れて無いぞ。ホントにイヤならビンタでもなんでもすればいいじゃんか……」
俺の問いにエリシアは、さらに顔を真っ赤にして、目線を逸らした。
「……だって、姿形は小さくとも、あなたはあなたでしょう? レイにこんな事されて、私が抵抗なんて出来るはずが無いじゃない。ずるいよ、レイ……。私だって、ずっと……あなたに抱かれたいって思ってた。……でも、こんな形じゃイヤ。イヤなの。お願いレイ。少しだけ、少しだけでいいの。少しだけ、私の話を聞いて?」
エリシアの悲しそうな顔を見て、俺の中の獣は、おずおずと理性の中へと引き下がった。
「あ、あの……、エリシア……。ごめん、乱暴だった」
「……うん、許してあげる。だから、三つお願い聞いて?」
エリシアは、俺と手の平を重ね、ゆっくりと指を絡めて握り、潤んだ目で俺を見つめた。
「一つ目、乱暴にしないで、優しくして? 二つ目 愛してるって、ちゃんと言って欲しい。 三つ目、……最初は、キスからがいい。……もぅ、恥ずかしくて死にそう! だめ! 顔見ちゃイヤ! もぉ~! レイのバカぁ!」
あまりの愛おしさに、しばしエリシアの顔に見惚れてしまっていた。エリシアは羞恥のあまり顔を両手で塞ぐが、そのしぐさもまた可愛らしくて、俺まで赤面してしまう。
「……ご、ごめん」
俺の心臓を、アーチャー並の狙撃をしてくるエリシアに、俺はあっけなく白旗を揚げた。
エリシアの額に、目を瞑りながら自分の額を重ね、彼女の頬を、優しく両手で包み、俺は覚悟を決めた。
「……やっぱ、お前には敵わない。……エリシア、この世界の誰よりも、お前を愛してる……」
「レイ……。嬉しい……。私も、あなたを愛してる」
俺とエリシアは、互いの唇を、長く、時間が経つのを忘れてしまうくらい、溶け合うかのように重ね続けた……。そして遂に俺達は……。
「~~~~~~~~~~っ!!!!」
「……おーい。れーい。もどってこーい。えっちな妄想と自家発電は自室でやれー」
ぺしんぺしんと、俺の頭を叩きつづけるロキ。おかげで俺は、辛うじて現実に呼び戻された。
―エアリアルウィング前―
『っていうか、もういっそ、勇気を出して聞いちゃえよ。『ベッドに君の物らしき髪の毛が残ってたんだけど~』なんて適当に理由つけてさー。頼むからこれ以上俺の執務室でエロ妄想するのやめてくれるぅ? あっはっはっはっは!』
俺はロキの言葉を思い出しながら、エリシアの部屋の窓を見つめながらため息をつく。
「できるはず無いだろ……そんな事」
そんな独り言をぽつりと呟き、自分の家の門をくぐろうとした時、再び記憶の一部が戻ってきた。
「ここがあなたの部屋ね。私の部屋は、あの窓から見える向かいの部屋なの。お隣さんだね♪」
「そっか。ふぅん? なんだ、こんな広い家に、俺は一人で住んでるんだ」
「そうね。あれ、もしかしてレイ、寂しいの?」
「いや、そうじゃないけど。一人で暮らすにはあまりにも広いから、本当に俺は、ギルドが近いって言う理由だけでここに住んでるんだなと思って」
「そうね。大人のレイも近いからって言ってたよ。んー、でも確かに、この家はレイだけが暮らすには広すぎるね。あ、そうだ! 私も此処に住んじゃおうかなぁ?♪」
「ふぇ!?」
エリシアのとんでもない天然コメントに、俺は思わず変な驚きの声を上げた。
「冗談よ冗談。ほら、そろそろレイも寝ないと、今日はいっぱい頑張って疲れちゃったでしょ?」
「……い、いいよ。エリシア姉ちゃんが、ここに住みたかったら、住んでいいよ。大人の俺も多分、反対……しない」
「するわボケェェェェェェェェェ!!!!!!」
近所に響き渡る俺のスクリーム。時刻は夜の9時。近所のおばさんとか、通りすがりの通行人などが、何事かとこちらを注目する。俺はヤバイと思い、フードをすっぽりと被った。
思わず叫んでしまった。くっそう、穴があったら入りたい……。
「レイ、何してるの?」
背後から、唐突に声をかけられた。よりにもよって、今一番顔を合わせたくない相手に。
「え、エリシア……?」
「おかえり、レイ。どう? ロキウス様とお話して、何か少し思い出せた?」
「……いや、全然」
……やっばい。思い出すどころか、妄想ばかりが暴走したせいで、妄想中のエリシアの表情が蘇ってエリシアの顔直視できねぇ。
「……ねぇレイ? あのぉ、言い難いんだけどね? そのぉ、やっぱり私たちね、多分最初の時点で、お互いに下手を打ってしまったんだと思うの」
え? 最初? いや待ってくれ。それ何処から何処の話の最初!?
「えと、その、あの、ね? うーん……。あ、と、とにかく立ち話もなんだし、えと、そう! レイのお家! レイのお家でお話しましょう! ほら、外寒いし、ね? ほらほら!」
「え、あ、ああ……」
俺は、エリシアに促されるまま、自分の家へと、彼女を招きいれ、キッチンで温かい紅茶を淹れて、彼女へ差し出した。
「……いただきます」
エリシアはふーふーと、息を吹きかけ、紅茶を少し冷まし、スススと、少しだけ啜り、ふぅとため息をついた。
俺も、互いの沈黙に耐え切れずに、紅茶をずずずと音を立て、少しだけ啜った。だが、エリシアはそんな俺に、唐突に言った。
「ごめんなさいレイ! 今朝、私が目を覚ましたとき、貴方も目を覚ましていた事に、私も気がついていました!」
「ぶっふ!!!???」
あっつあつの紅茶を、俺は思いっきり吹きこぼした。
「は、はぁ!? え? おまっ、えええええ!?」
「わ、私も自分のしてしまった事に気が動転しちゃって……。その、どうして良いかわからずに、その、つい、逃げ出しちゃって……」
自分のしてしまった事!? つまり俺、エリシアに……!?
「で、でもレイだって悪いんだからねっ!? ……レイが、全然離してくれないから……その……」
離さなかった!!!??? つまりそこから俺は仔犬から反転し狼となり、欲望のままにエリシアを!!!???
…………ハッ。俺って奴は、ホントに最低だ。エリシアにそんな事をしておきながら、これっぽっちも思い出せやしない。覚えてませんじゃ、済まされないだろう。……小さい俺は、ちゃんとコイツに『愛している』と伝えてやっただろうか。
今俺のすべき事はなんだ?
先ずは謝罪。全然覚えていなくて、本当に申し訳ない。いつか必ず思い出す。うん、まずこれは絶対に言わなきゃいけないセリフだな。
そして次に、俺の気持ちを真っ直ぐ伝える事。
順番が滅茶苦茶なのかもしれないけれど、俺、レイ=ブレイズは間違いなく、偽り無く、エリシア、お前を愛している。もし、気持ちが同じであれば、この先もずっと、お前を愛し続けたい。
よし、これでいい。これを全て土下座して言うんだ。
「すぅぅぅぅ。はぁぁぁぁぁぁ」
「え? レイ? 何? 急に深呼吸なんてして」
集中しろ。そして、覚悟を決めろ。今こそ、男としての責務を全うする時!
エアリアルウィング暗殺者、レイ=ブレイズ。いざ、参る!
「あ、大丈夫よ? レイ。私は全然引いたりしないし、誰かに言いふらしたりもしないよ? しょうがないよ。レイはあんな壮絶な過去を経験したんだもの。大人になっても忘れられないほどの強烈なトラウマを、小さな子供がたった一人で耐えるなんて、そもそも無理な話だよ。記憶ごと子供にもどされてしまったのだから、悪夢だってより鮮明に記憶に残っていたはず。本当に、ライトヒーリングを修得してよかった。もっともっと、魔法を学んで、貴方の役に立てるよう、これからも頑張るね! って、レイ。なぁに? その中途半端な姿勢。空気椅子?」
「…………………………ごめん、エリシア。最初から順を追って説明してくれないか? 本当に記憶が飛んで混乱しっぱなしなんだ」
「あ、ごめんね? えっと、じゃあまず、私がこの家に泊まる事になった経緯から話すね?」
つまりは、こういう事だった。
子供になってしまった俺を、この広い家に、真夜中一人にしてしまう事に抵抗を覚えたエリシアは、隣の客間に泊まる事にした。
すると、真夜中に俺が悪夢にうなされている事に気がついた。俺はそのまま目を覚まし、布団の中で、体を縮め、震えながら泣いていたらしい……。
それを不憫に思ったエリシアは、母親が悪夢にうなされた子供にしてやるように、優しく介抱し、ご丁寧にライトヒーリングまでかけ、子供の俺のストレスケアまでしてくれたというのだ。……それも、かなり念入りに。おかげで小さな俺は、その後目を覚ます事無くグッスリと、朝まで眠ったそうだ。……エリシアの服の裾をギュッと握ったまま。
そしてエリシアも、長時間のヒーリングにより疲弊し、そのまま眠りに付き、朝を迎えたのだという。
ちなみに、彼女が目を覚ました原因は、俺から伝わってくる、強烈な驚きと戸惑いの感情だったとさ……。なーんだ。全部勘違いだったんだ♪ めでたしめでた……。
「……全っ然めでたくなんかねぇ!」
俺は、小さな俺のしでかした恥辱にまみれた行動をすべて思い出し、絶望のあまりカーペットに卒倒していた。
「クスクス。何をしようとしたのかと思えば、あなた、土下座って! クスクス、一体どんな勘違いして、どう責任を取ろうとしたの? クスクス。ねぇねぇレイぃ♡ 教えて? ねぇってばぁ♡」
「あーうるせーなぁ。ただとりあえずヤバイと思って謝ろうと思っただけですぅ! 別に何も勘違いなんてしてませんー!」
「うっそだぁ♪ あの自尊心をかき集めたような、ごめんなさいが言えない大人になっちゃったレイが、土下座だなんてよっぽどの事よ? あーあー、あの素直なレイ君はどこいっちゃったのかなぁ? 『ご、ごめんなさい』って、謝る必要も無いのに謝っちゃう、あの良い子は何処行っちゃったのかなぁ」
「……ヤメレ」
「あれ? 照れてるの? レイ、照れてるの? うふふふ、ねぇねぇレーイ♪ かーわいっ♡」
「お、お前大概にしとけよ!? 珍しく人の弱み握ったからって、鬼の首を取ったかのように喜びやがって!」
「きゃー☆ レイくんがグレちゃったー♪ マスター達は口々に『この頃は可愛かった……』だなんて言っていたけれど、本当ね! あんな恥ずかしそうに、エリシアお姉ちゃんが望むなら……」
「わぁぁぁぁぁ! だからもう止せっていってるじゃねーかもぉぉぉぉぉぉ!」
こんな調子で、エリシアは俺を終始からかい続けた。俺にとって地獄のような時間が過ぎて行き、やがて、俺たちは気がついてしまった。時刻は4時を回ってしまっていたのだ。
「……あはは、やっちゃったね」
「知るか。お前もう帰れよ……」
俺はもう疲労困憊で、ソファーで頬杖を突きながらぐったりとしていた。
「そうしたいのは山々なんだけれどね、ギルドの鍵置いてきちゃったの。ごめんね、レイ。鍵開けられないかな?」
「ったく、えーっと?……ん? 財布とケータイ、俺の家の鍵はあるのに、ギルドの鍵が無い……。いつもズボンの後ろのポケットに入れて置くはずなのに」
「……あ! もしかしたら、昨日ギルドで洗濯したズボンの中かも! 私、ケータイや財布、おうちの鍵はズボンの前ポケットから取り出したけれど、後ろのポケットは見てなかったわ……」
「あるあるだな。じゃあそのズボン部屋か? ちょっと取ってくる」
「あの、それが、そのぉ……。レイのズボン、なかなか乾かなくて、ギルドの乾燥機に入れっぱなしなの……」
「…………はぁ。客間、好きに使えよ」
「あはは、ごめんね? 二泊目になっちゃった」
「いーよ。部屋なら余ってるし」
「きょ、今日は添い寝なんてしてあげないからね!?」
「あ、アホか! 誰も頼んだりしねーよ!」
俺たちは二階へとあがり、それぞれ部屋の前に立つ。
「そ、それじゃあまた後でね。お、おやすみレイ」
「ああ。おやすみ」
エリシアは少し頬を赤く染めながら、客間へと姿を消し、俺は部屋に入り、部屋着に袖を通し、布団へと潜り込んだ。
そしてふと、気がついてしまう。
今朝のエリシアの残り香が、微かに残っていたのだ。
「…………くっそ、エリシアめ。全然眠れる気がしないじゃないか」
だなんて、恨み言を口にした俺だったが、その数分後には、ゆっくりとまどろみに落ちて行き、珍しく熟睡してしまったのだ。
それが、エリシアがベッドに残した優しい花の香りのせいだと気がつくのに、そう時間はかからなかった。




