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―聖夜祭・アヴァロンにてⅠ―

 午前7時、俺はマダムッシュに教わった通りに髪をセットし、コルトモールにてオリビア&アーチャーが選んだ洋服に身を包んだ。


 フードつきの黒のコート、赤いチェックの長袖の上着に、白の長袖のハイネックシャツ。そしてGパンにスニーカーという無難なチョイスが、なんだかんだで一番似合うという結論に至ったらしい。


 持ち物の確認をし、普段着けていない腕時計なんかも着けてみた。無意識のうちに、テーブルの横に置かれた剣に手が伸びてしまったが、なんとか思い留まり、傍においてあったバックパックを背負い、手をポケットに突っ込んだ。


 今日は完全非武装だ。丸腰そのものだが、ある意味完全武装なのかもしれない。


「……つくづく、お前誰だよって思うよな」


 玄関先の姿見に映る自分に、思わず呟いてしまう。ここ数ヶ月髪を切っていなかったので、伸び放題だった髪は綺麗に整えられ、ワックスで軽くセットされていた。その大変身っぷりには、アーチャーやオリビアも、この出来には二人してハイタッチをするほどだ。


 これで成功しないはずがない! とか言いながら、あの二人はガッツポーズを決めていたっけな。


「……さて、そろそろいくか」


 俺が玄関の扉を開けると、冷え切った外気に晒され、思わず肩を竦めるが、すぐに慣れた。そして戸締りをして、家を後にする。


 我が家のすぐ隣。ギルドの門の前に、エリシアは白いダッフルコートを羽織り、首には青い毛糸のマフラーを巻いて、寒そうに待っていた。


「おはよう、エリシア。ギルドの中で待ってりゃいいのに。寒かったろ?」

「あ、レイおは……よう?」


 エリシアが、マダムッシュの『めたもるほぉーぜ』とオシャレコンビによって、変わり果てた俺の姿に絶句する。


「……別人みたいとか言うなよな。俺も気にしてるんだから」

「…………っ!」


 エリシアは俺の姿を見て目を丸くし、頬を赤くして俺を凝視したまま硬直していた。


「……だ、だからって、黙られても困っちまうんだけどな」

「あ……ごめん、なんかその……かっこよくて、見惚れちゃった……」

「…………そか」


 エリシアの予想外コメントに、俺まで赤面してしまう。


「あ、あのレイ! 私、いつもその姿でいいと思う! ギルドのみんなのレイのイメージもきっと変わるし、依頼者の方々も安心できると思うの!」

「え、そうか?」

「うん! 絶対そうだよ! だっていつも、私お仕事の受付をする時、依頼者さんは一度貴方を必ず頭の先からつま先まで眺めてから『あの、大丈夫なんです?』って聞いて来るのよ? その原因は絶対、貴方の身形みなりを見ての感想だと思ってたわ。ボサボサの髪の毛が、すっぽり被った真っ黒なフードマントの中からはみ出してて、見るからに犯罪者のような風体なんだもの! 見るからにダークサイドの人間の正体が、今私の目の前に居る人と同一人物だなんて、夢にも思わないと思うの!」


 ……あれ? 俺若干ディスられてない? いやまぁ否定は出来ないし、ただでさえ人の恨みを買う仕事してきたから、なるべく素顔は晒したくないのが本音なのだが……。


「……まぁ、善処するよ。お前も似合ってるぞ、その白いコート。お前って白とか青が良くが似合うよな」

「えへへ、そうかな。ふふふ、うれし。ありがとね、レイ」


 互いの顔をよく見れなくなるような、ふわふわと浮ついたよくわからない空気が流れてしまい、俺はそっぽを向きながらポリポリと頬をかいてしまう。


「……んじゃ、行くか」

「うん!」


 俺たちは並んで大通りへと向かう。王都行きの路面電車に乗れば、王都へはあっという間だ。


「エヘヘ、お仕事以外でレイとお出かけする日が来るなんてね」

「別に外出する時くらい、声かけてくれていいぞ。俺もそのほうが護衛もしやすいしな」

「そうなんだけどね。自分の置かれてる立場を考えれば、なるべく外出は控えるべきだし、ただの買い物とか、遊びに行くことにレイや他の皆に迷惑をかけちゃうのがちょっとね……。あ、でもオリビアといっちゃんは、私を買い物によく連れて行ってくれるのよ? あの二人は、私にとってかけがえのない親友なの」


 そういえば、3人でこの間も女子会をしてきたとか言ってたっけ。まぁ、あの二人なりに、エリシアを気遣っての事だろう。ギルドに閉じこもってばかりじゃ、気も滅入ってしまう。特に最近は暗いニュースや事件が続いていたからな……。


「……そのうち、お前が自由に一人で外出できる世の中になるさ。安心して待ってろよ」

「んー、それはそれで嬉しいけど、私は一人で外出するより、レイが一緒のほうが楽しいよ?」

「っ!……お前、ほんっとに天然だよな」


 そんな歯の浮くようなセリフを、平然と言いながら俺の顔を覗き込むエリシアに、俺は不意打ちを喰らったような気分になった。そういうのは反則だと思う。


「ひっどーい。また天然って言ったー。天然じゃないもーん」

「天然な奴ほどそう言うんだ。あと、基本的に俺は一日中部屋でグダグダ過ごすのが好きな人間だという事は、頭に入れておいてくれよな」

「もう! そんなだと、すぐおじさんになっちゃうんだからね!」


 駅に着いたとき、丁度路面電車が到着し、俺たちは少し混み気味の電車へ乗る。勿論、座席は全て満席だ。

 アヴァロンの最寄り駅までは……6駅か。時間にして30分ほどだろうか?


『次は、王都入り口~。王都入り口でございます。足元にお気をつけください』


 駅に電車が到着し、扉が開き乗客の何名かが降りたとき、事件は起きた。


 祭日とは言え、王都は常に活気溢れる町。デートに行くカップルだけでなく、仕事に向かう人々も勿論いるわけで、その人数は到底路面電車のような小さい電車に収まりきるような人数ではなさそうだった。

 大勢の人の波が、怒涛のごとく路面電車内に雪崩込み、俺とエリシアを反対側の扉まで押し込んだ。


「きっつ! 離れるなよ、エリシア」

「う、うん」


 ぐいぐいと無理やり入ってくる労働者たちは、俺とエリシアを容赦なく押し込み、潰してくる。エリシアのような華奢な体ではひとたまりもない。


「エリシア、もうちょっとこっち来い!」

「え?」


 俺はエリシアを扉側に何とか連れ込んだ。そしてそのままエリシアの正面に立ち、扉に両手をついてエリシアを庇ってやる。しかし、電車内に流れ込んでくる人の波は収まらない。すし詰め状態とはまさにこの事だろう。腕で突っ張っていたが、肘をついてエリシアを辛うじて潰さないようにするのがやっとだった。


「通勤ラッシュってこんな酷いのか……。普段こんな時間に乗らないから知らなかったぜ。エリシア、大丈夫か?」


 ふとエリシアをみると、かなりまずい状態になってしまっている自分に気がつく。


 エリシアと俺の体は殆ど密着し、エリシアは顔を真っ赤にしながら俺の腕の中に納まっていた。全然大丈夫じゃない。この体勢は非常に危険だ。


「う、うん。大丈夫だよ。……レイ、ありがと」


 もうこれは、エリシアを正面から抱き締めている状況となんら変わりない。至近距離にエリシアの顔があり、互いの体温や息遣いを感じ取ってしまった。お互い目線を合わせられず、気まず過ぎる沈黙が、二人の間に流れてしまう。


『次は、城下町南区~城下町南区~。左側のドアが開きます。ドア付近のお客様はご注意ください。降車直後の道路の横断は、危険ですのでお止めください城下町南区の次は、城下町東区、アミューズメントパーク、アヴァロンをご利用のお客様は、城下町東区で御降りください』


 電車が止まると同時に、あの労働者たちは一気に降りていき、アヴァロンに行くであろうカップルだけが電車に残された。


「……ふぅ、えらい目に逢ったなエリシア。……エリシア? どした?」


 エリシアは真横にいるカップルを見て、顔を真っ赤にし、目を丸くして絶句していた。いや、正確にはカップルのしている行為に絶句していたのだろう。男が女性の背後にぴったりとくっつきながら、腕の中の女性と口付けを交わしている最中だったのだ。……しかもかなりディープ気味に。


 エリシアには刺激が強すぎる場面だったのであろう。だが、俺はそれ以上に衝撃を受けた。なぜなら俺はそのカップルの顔に見覚えがあったからだ。


「ん……ぷはぁっ! もう! リオンの馬鹿、変態! こんな所でキスしなくたっていいじゃない」

「ハハハ、だってリンがかわいかったからつい……ん?」

「どうしたのよ、リオ……ん?」


 そしてその二人も俺たちの視線に気がついたようだ。以前、ヴァンパイアブラッド事件でパーティを組んだ、ガーディアンエンジェルズの騎士、リオンと、同じくエクソシストのリンさんだ。


「あれ、お前……レイ=ブレイズ!?」

「お、おう。奇遇だな……。なんかすごく仲が良いみたいだな、うん。でも、俺はやっぱTPOって大事だと思うな」

「ひぅっ! やだもぉ! リオンの馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!! 私帰るぅ!!! もぅ嫌ぁ!!!」


 リンさんは羞恥のあまり顔を真っ赤にして泣き出してしまう。心中察するよ、リンさん。アレは絶対に、他人には見られても、知人には決して見られちゃいけないシーンだ。


「ゴメンリン! 俺が悪い! 俺が悪かったから! な? ほら、向こうで何でも奢るし買ってあげるから許してくれ!」

「ぐすっ。もう二度とこんな所でしないって誓って! 破ったら別れる」

「わかった。わかりました誓います。だから機嫌直してくれ!」


 やれやれ、人間ああはなりたくないもんだ。いや、機嫌を損ねたカトレアを前にすると、俺もあんな感じか。ああ、あんなみっともないものなのか。気をつけよう。


「ってか、お前彼女居たのな! お前らもアヴァロン?」

「ん、まぁえっと、そうなるのかな? あーでも彼女では……」

「コホン!……実際会うのは初めてですね。私、エリシア=リーゼリットです。どうぞよろしくお願いします」


 リーゼリット? それはマスターのファミリーネーム……。ああ、偽名だよな。エリシア=バレンタインなんて名乗ったら、そりゃまずい。


「え? エリシアって、じゃああの、カメラ越しに俺達に指示をしてくれていた戦場指揮官か!? あの後すげー噂になってたんだぜ!? 俺らだけじゃなく、他の部隊にまで指示を出して、全滅を免れた隊がいくつもあったって! 『天空の賢者』の他にも、とんでもない軍師がエアリアルウィングに現れたって、他のギルドでももっぱらの噂だぞ!?」


 ……こいつ、あの状況でそんな事してたのか。一度にいくつ同じ作業を同時進行してたんだ。実はエリシアってとんでもなく凄いんじゃないか? いや、てかそんな事して有名になったら、それはそれで厄介なんだよなぁ。後で釘を刺しておくべきかな? いやでもこいつが善意でやった事にチャチを入れるのは良くないな。何か問題になるようなら、俺が何とかするべきなのだろう。


「その節は大変お世話になりました! あなたの指揮がなかったら、私達のギルドはもっと甚大な被害を出していたかもしれない。私達自身、今こうしていられたかどうか……」

「いえ、そんな大したことは……」

「リーゼリットってことは、やっぱり賢者様の妹さんとか? 流石だよなぁ」

「私、従妹なんです。でも私にとってセイラは従姉妹のお姉さんっていうよりは、先生っていうイメージのほうが強いですね」


 しかし、下手をこいてるぜエリシア。リーゼリット一族はエルフの一族だ。お前がリーゼリットを名乗ったら、エルフの特徴である尖った耳をしていなきゃおかしいんだ。まぁ、そんな内情はこいつらにはわからないだろうが……。


「ああそれなのに、私は命の恩人の前で、なんてはしたない所を! 恥ずかしくて死にそう!」


 リンさんは再び顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。


「気にしないでください。悪いのはもちろん、女性に恥をかかせる男性ですから!……ところでリンさん。アヴァロンで一番高いお土産、何か知ってます?」

「……あ! アレですね! アヴァロンのジュエリーショップの、エンジェルハートペンダント!」

「そう!……あーあ、リオンさん。悪戯の代償は高くつきますよ? 女性に恥をかかせるなんて、騎士にあるまじき失態ですね。しっかりと責任を取って貰いましょうね、リンさん。クスクス」


 俺はエリシアとの作戦会議に使用していた、アヴァロンを特集していた旅行雑誌を開いてみる。


「リオンドンマイ。純正の大粒のピンクダイヤで、150万だってさ」

「ちょっ!? えっ!? おい、なんかエリシアさんって、とてつもなく策士っぽいんだけど!?」

「そりゃお前、誰の弟子で、誰の相棒だと思ってんだよ。当たり前じゃないか」


 男に反撃を許さない畳掛けは悪魔の領域。そう、マスターそのものだ。マスターのえげつなさなら、ロキ以上に理解しているという自負がある。それを確実に、エリシアも受け継ぎつつあるのだ。俺も気をつけよう。



―その頃、エアリアルウィングでは―


「……っくしゅん!」

「マスター風邪ですか? 空気乾燥してますし、気をつけてくださいね?」

「……いいえ、いっちゃん。これは誰かが私の悪口を言ってるわ。この気配は間違いなくこれはレイちゃんね。後でお仕置きよ!」



「……いっくし!」

「やだ、レイばっちぃ」

「ズビビ……。どうやら感づかれたようだ」

「え? 何の話?」


 その後しばらくの間。エリシアはリンさんとパンフレットを開き合い、エリシアの壮大なアヴァロンコンプリートプロジェクトを意気揚々と、エリシアは聞かせていた。もちろん、二人はそんなエリシアに若干引いていた。そんなことをしている間に、俺たちは城下町東区に到着し、電車を下りた目の前には、レオニード城の城門と同じくらい立派なゲートが待ち構えていた。


「わぁ! すごーい! ねぇねぇレイ、早く行こうよ!」

「子供じゃないんだから慌てるなよ。顔面から転んだって知らないぞー」


 やれやれ、まぁでも。いい顔で笑うなぁ、エリシア。まさに、万遍の笑みで、見てるこっちが恥ずかしくもなり、心が温まった。


「エリシア。特別招待の受付は一番左端のゲートだってさ」

「イエス、マイ・バディ! それじゃあリンさん、リオンさん。よき聖夜祭を!」

「ふふふ、テンション高いですね、エリシアさん。よき聖夜祭を! 今度ゆっくりお茶でもしましょうね。この間のお礼を是非させていただきたいです」

「ええ、機会があれば是非! リンさんの恋バナ、沢山聞かせてくださいね!」

「ちぇっ。そのチケットで4人とか入れないのか?」

「無理だ。んじゃま、園内で会うかも知れないけど、またな」


 俺は普通に、エリシアは聖夜祭特有の挨拶を、互いに二人と交わし、特別招待客専用のゲートへと向かう。そしてゲートの係員にチケットを渡すと、係員は無線のマイクに向かって何か連絡をした。すると、ゲートの向こう側から支配人らしき中年の男性がこちらへと向かってきた。


「ようこそいらっしゃいました。レイ=ブレイズ様とそのお連れ様ですね。私、当テーマパークの支配人、セバスチャンと申します。さて、折角早朝よりお越しになったのですし、簡単にご説明させていただきます」


 セバスチャンと名乗った紳士風の中年は、やや早口で説明を始めた。


「当テーマパークでは、全ての武器の持込を固く禁じさせていただいております。そして園内には、大変強いジャミング魔法が継続的に発動しています。園内では一切の魔法の行使は出来ません。そのため、医療魔法やその他の魔法など、特別な事情を持つ方には、こちらのパスポートをお渡ししています。これを身に着けていれば、園内のジャミング魔法の影響を受けずにすみますが、魔力行使は出来ませんので、あらかじめご了承ください。では、パスポートをどうぞ」


 彼は、素早くサササっとエリシアにパスポートを差し出し、そして俺にもプレミアムパスポートを手渡してくれた。


「お時間を取らせてしまって申し訳ございません。では、よき聖夜祭に、最高の思い出を御作りになられますよう。行ってらっしゃいませ」


 中年の紳士は、深々と頭を下げて、俺達を送り出してくる。


「どうも」

「行ってきます!」


 パスポートを使いゲートを潜った所で、俺はコートと上着をエリシアに預け、屈伸や前屈など、軽い準備運動をする。


「ロスは?」

「2分! 取り戻せるよね?」

「余裕!」


 それじゃ、レディー……。


「レイ、ごー♪」

「イエス、マイ・バディ」


 駆ける。殆ど人のいない園内を、俺は疾走する。園内の地図はすべて把握し、そしてファーストパスの時間帯やスケジュールも全て暗記した。一つ目のアトラクションのファーストパスを回収し、俺はそのまま次へとダッシュする。


「ったく、神速が使えればもっとスムーズなんだが! っとと、通り過ぎた!……よし次!」


 俺は園内をくまなく駆けずり回った。エリシアの待つ最初のアトラクションの前にたどり着く頃には、そりゃもういい感じに体が出来上がってる感じだった。


「ただいま。いい感じのウォーミングアップになったぞ」

「25分! スポーツ選手でも1時間かかるのに!……やっぱりレイは流石だねぇ」


 エリシアは腕時計で時間を確認しながら、タオルを俺に差し出してくれて、俺はそのタオルで汗を軽く拭き取る。


「これくらい余裕だ。エリシア、俺のカバンの中に替えのシャツあるだろ。ちょっと着替えてくるから出してくれ」

「うん、……はい、お疲れ様。あとジュース買っておいたよ」

「さんきゅ。準備の良さは流石だな」


 俺は差し出されたジュースを飲み干し、トイレに向かいシャツを着替えてきた。


「よし、んじゃあ行きますか」

「うん! じゃあまずはあのアトラクションね! レイ早く早く!」

「え……?」


 エリシアはきっと何も考えてなかったんだろう。早く行こうと急かすあまり、俺の手を握ってしまい、自分のしてしまったことにハッとしたのか、握る力が一瞬弱まる。が、エリシアは困惑しながらも、俺の手を離す事は無かった。そして不安げに、俺の顔をちらりと見た。


「……そんな走り回らなくたって平気なように、予定組み直さなかったか? もし乗れないアトラクションが出来たって、次来た時乗ればいいだろ?」


 俺は何事もなかったように、そして、まるでいつものことのように、エリシアの手を優しく握り返した。


「ゆっくり行こうぜ、時間はたっぷりあるしさ」

「……うん!」


 心の底から嬉しそうに笑うエリシアの笑顔。こんな笑顔は、久しぶりに見た気がする。いや、違う。この笑顔は、俺も初めて見ている。これが、エリシア本来の笑顔なんだ。今、俺はこの瞬間を目に焼き付けなきゃいけない。そして今日は絶対に、この笑顔を曇らせてはいけない。それが俺に与えられた最重要任務なんだと、そう感じずにはいられないほど、エリシアの笑顔は美しく、そして温かかった。




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