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第3話 耳長さんがやって来た ~それは悲しい男の性だった~

前回のお話……ブリ坊は美味かった( ノД`)…

「こちらが牛角猪(ブルボア)の納品に魔石と素材の買い取り金も含めた報酬になります。どうぞ、お受け取り下さい」


 冒険者ギルド一階の受付。そのカウンターの上に硬貨が詰まった革袋が置かれる。

 代表してミシェルが革袋を受け取り、掌に感じるそのズシリとした重みに笑みを浮かべた。

 ローリエもニコニコと機嫌良さそうに笑っている。


「そしてこちらはフカミさんにです。お受け取り下さい」


「お受け取りします」


 メリーが微笑みながら差し出してくれた物を受け取る。

 なんだかこのやり取りも懐かしいな。

 彼女から手渡されたのは冒険者の認識表だが、これまで首から下げていた銅製のものではなく、その材質は鉄製。


「昇格おめでとうございます。今この時より、フカミさんは鉄級冒険者です」


 ―――俺は鉄級冒険者に昇格したのだ。



「ようやくマスミも鉄級に昇格か。うむ、感慨深いな」


「これでみんな同じ等級ですね」


「そうだねぇ」


 ギルド一階に併設されている飲食スペース―――ぶっちゃけ酒場―――で、俺達は受け取った報酬を確認しながら今後の予定について話し合っていた。

 俺は渡されたばかりの新しい認識表を、なんとはなしに掌の上で転がしていた。


「む? どうしたマスミ、嬉しくないのか?」


「いやいや、嬉しくない訳じゃないのよ。ただ……」


「ただ、なんですか?」


「俺が異世界(こっち)に来てから、もうそれだけの時間が経つんだなぁと思ってね」


 俺がこの異世界に迷い込んでから、早いもので既に一ヶ月以上が経過している。

 今更だが、この世界の暦について説明しておこう。

 以前に話した気もするが、一日が二十四時間なのは地球と同じ。

 だが暦に関しては全く異なるのだ。

 地球であれば一年―――閏年は省かせてもらう―――は十二ヶ月の三百六十五日。

 ところがどっこい異世界の一年はなんと十五ヶ月の四百五十日。

 月は全て三十日で固定されており、七日で一週間や曜日といった概念も特にない。

 しかも月初と月末にだけ二つの月が同時に天に昇るという謎仕様。

 流石はファンタジー世界。

 月すら複数存在するらしい。


 ―――各月の名称―――


 一月・人理(じんり)の月

 二月・始精(しせい)の月

 三月・闘牙(とうが)の月

 四月・賢樹(けんじゅ)の月

 五月・鉱酒(こうしゅ)の月

 六月・爬鱗(はりん)の月

 七月・流海(るかい)の月

 八月・比翼(ひよく)の月

 九月・巨凱(きょがい)の月

 十月・争角(そうかく)の月

 十一月・勇小(ゆうしょう)の月

 十二月・片妖(へんよう)の月

 十三月・永魔(えいま)の月

 十四月・天権(てんけん)の月

 十五月・至竜(しりゅう)の月


 以上の通りとなっております。

 俺が異世界に迷い込んだ日―――ミシェル達と出会ったのが、賢樹の月の十三日。

 そして本日は鉱酒の月の十八日。

 地球とは日数が全く異なる訳だが、俺の実年齢ってこういった場合はどうなるのかしらん?

 みんなと同じような歳の取り方って出来るのかしらん?

 なんてことをちょっとだけ悩んだりもしたけれど、気にしたところで仕方ないという結論に至った。


「ふむ、長かったような気もするし、あっという間だったような気もするな」


「マスミさんもすっかり冒険者として馴染みましたからね。言動以外は」


「おい待てコラ、それじゃまるで俺が普段から非常識な言動を繰り返しているみたいじゃないか」


「「え?」」


「え?」


 おい待て。本当に待てコラ。

 なんだそのリアクションは……。

 なんで二人揃って、こいつ何言ってんだみたいな顔してんだよ。


「マスミは……いや、何も言うまい」


「仕方ありませんよね。それがマスミさんですから。個性は人それぞれです」


「悲しくなるから、そういうこと言うの止めて」


 フォローにならないフォローは時に相手を傷付けると学ぶべきだ。

 それはともかく……。


「今回は随分と稼いだもんだな」


 牛角猪(ブルボア)の納品依頼達成によって得られた報酬は、なんと銀貨三十枚。

 俺達が納品した数は成獣が六匹にブリ坊が一匹。

 成獣丸々一匹分につき銀貨二枚。

 ブリ坊が結構な高級食材らしく銀貨四枚。

 合計で銀貨十六枚。

 これに魔石やその他の素材の買い取り金を追加したとしても、本来ならここまでの金額にはならないのだが、どうも依頼主がかなり色を付けてくれたらしい。


「肉の状態が相当良かったとの話だからな。依頼を出してから僅か数日で納品があったことも、依頼主にとっては有り難かったそうだ」


「この点に関してはマスミさんの作戦と能力に感謝ですね」


「褒めるな褒めるな……もっと褒めろ」


 牛角猪(ブルボア)を罠に嵌め、生け捕りにしてからトドメを刺したので外傷は少ない。

 更には俺の〈顕能(スキル)〉―――空間収納の中では時間が経過しないため、肉の腐敗を防げる上に荷物が増えて帰りの馬車の足が鈍ることもない。

 俺達にとって良い条件が重なった結果なのである。


「前回の分の報酬も残ってるもんなぁ」


 ここで言う前回の分とは、ローグさん達と合同で行った灰猟犬(グレイハウンド)大量発生に関する調査依頼とヘルハウンド討伐のことだ。

 元々は一人につき銀貨二枚の調査依頼だった筈が、まさかのヘルハウンド登場という事態に流石のギルドも焦ったらしい。

 依頼の危険度や難易度の上方修正。

 原因の究明と解決に伴う貢献度や報酬の大幅な上乗せ。

 結果として一人頭の報酬は銀貨十枚。

 それとヘルハウンド討伐と素材買い取り等の諸々を加味した特別報酬として、金貨二枚も追加で支払われたのだ。

 初めて金貨を目にした。

 俺達とローグさん達とで一枚ずつ受け取り、俺達の分からコレットにも分配しようとしたのだが……。


「コレットの奴、頑なに受け取ろうとしなかったからな」


 金貨を四分割―――銀貨二十五枚をコレットの取り分として渡そうとしたのだが、彼女は受け取りを拒否したのだ。


「あたしにとっては銀貨十枚だけでも貰い過ぎなくらいです。これ以上貰ったらフカミさん達に顔向け出来ません」


 なんて言われてしまった。

 コレットの意思を無視して無理矢理渡すのも気が引けたので、この金貨は俺達パーティ共通の財産となった。

 ヘルハウンド戦で使用した物資の補充や破損した装備の修繕。あるいは買い換えなどでそれなりに出費はあったものの、各人が受け取った銀貨やこれまでの貯蓄で充分賄うことが可能だった。

 おかげで金貨については、ほぼ手付かずの状態で残されている。

 そこに今回の報酬銀貨三十枚が加わるのだ。ちょっとした一財産だ。


「俺達三人だけなら三ヶ月……いや四ヶ月はダラダラ出来るな」


「いや、働くからな? ダラダラなんてしないぞ?」


「言ってみただけだから気にしなさんな」


 とはいえ日本で生活していた頃は社畜気味に働かされていた訳で、気ままにのんびり暮らすスローライフ的なものには割りと憧れがある。


「ダラダラするかどうかは置いとくとして、今後の活動はどうするよ?」


「マスミさんが仰る通り、今のところ資金には余裕がありますからねぇ」


「ふむ、折角だから遠征でもしてみるか?」


 おお、遠征。それは良い考えだな。

 何しろ異世界だ。まだまだ知らないことが多過ぎる。

 是非ともネーテ以外の都市も見てみたい。

 いずれは国外に足を伸ばしてみるのも良いかもしれん。


「遠征か、さて何が見られるのやら……っと?」


 なんだか妙に周りがざわついてるような気がする。

 ぐるりと首を巡らせれば、酒場を利用している他の冒険者連中―――主に野郎共―――が全員ロビーの方を向いていた。

 はて、何か珍しいものでもあるのだろうか?

 多くの視線を辿っていった先にあったものは―――。


「なん、だと……」


 ―――そこには『肉』があった。

 上下に、左右に、時には斜めに『肉』が弾んで……否、最早弾むなどという表現は適切ではない。

 暴れている。

 そう『肉』が暴れているのだ。

 俺を含めた全男性冒険者の目がそれ(・・)に釘付けとなっている。

 そんな男共に冷たい目を向ける女性冒険者の皆様。

 我がパーティの女性陣も例外ではなかったのだが、正直それどころではない。

 その『肉』は……二つあった。

 その『肉』は……丸みを帯びていた。

 その『肉』は……母性の象徴であった。

 その『肉』は……男にとっての愛とか夢とか希望とかその他諸々がたっぷりと詰まっていた。


 ―――人それを乳房(おっぱい)と言う。


「……ありがたや」


 気付けばその偉大なる乳房―――爆乳を拝んでいた。

 両手を合わせて深々とお辞儀。


「おいマスミ、貴様……」


「何を……見ているんですか?」


 ゾクリと背筋が冷たくなるような声がすぐ傍から掛けられたものの、努めて聞こえていない振りをした。

 断じて二人の顔を見るのが怖かったからではない。

 そして我が崇拝の対象たる規格外の爆乳の持ち主。

 その人物は当然ながら女性であった。

 腰まで届く金色の髪。垂れ目気味の碧眼。十人中十人が美形と称するであろう整った顔立ち。

 服の上からでも分かる細い腰と豊かな臀部までの見事な曲線。成熟した女性らしい肉感的な肢体。

 身に纏うのは動き易さを重視してか、濃緑色を基調とした薄手のシャツやショートパンツ。

 その上から革製のベストを羽織っている。

 むっちりとした御御足(おみあし)には、膝上までのロングブーツが履かれている。

 彼女自身も冒険者なのだろう。

 手には長弓が握られ、腰に巻かれた細めの帯革には矢筒やナイフ等が取り付けられている。

 他の冒険者―――言うまでなくも野郎共―――の注目を集めている爆乳美女は、自身に向けられる好色の視線を気にした様子もなく、キョロキョロと酒場の中を見回していた。

 それにしてもこの世界の女性達は、顔面偏差値が高過ぎるように思えてならない。

 果たしてそのように考えているのは俺だけだろうか?

 そして熱烈な視線を爆乳美女に注ぐ野郎共とは対照的に、女性冒険者達の視線はどんどん冷ややかなものへと変化していく。

 我がパーティも例外ではなく、先程から悪寒が止まらない。

 美女というだけでも素晴らしいのに、そこに爆乳という素敵な要素まで加わっているのだ。

 咄嗟に反応してしまうのも致し方ない。

 最早条件反射の域。男の悲しい(さが)なのである。

 どのように説明(いいわけ)をすれば、女性陣はその点を理解してくれるだろうか。

 そんなしょうもないことを考えつつ、胸部を中心に爆乳美女を眺めていると……。


「おんやぁ?」


 美女の側頭部。長い金髪を掻き分けるようにしてピョコンと何かが突き出ているのに気付いた。

 刃の先端にも似た形状をしているそれは、細くて長い……耳?


「……エルフ?」


 ギルドのロビーに現れた爆乳美女の正体は、ファンタジー世界の定番種族。

 俺がこの異世界で初めて目にするエルフだった。

新キャラ登場



お読みいただきありがとうございます。


次回更新は、週明け辺りを予定しております。

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