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「仕事中にわざわざすまないね」
「いいえ、滅相もございません……。して、一体どのような御用で、他の騎士様方まで……」
私は畏まりながら、彼らの傍らに置かれた「物体」に目をやった。
それは最初、何かの建築資材の山に見えた。
磨き上げられた上質な木材のパーツや、豪奢な装飾が施された部材が幾重にも重なっている。
「実はね」
と、アルフォンス様がその資材を指差した。
「君たちの部屋に遊びに行くたびに、ずっと気になっていたんだ。あのベッド、二人で寝るにはあまりに窮屈だろう? だから、新しいキングサイズベッドを誂えてあげようと思ってね」
「……はい?」
思わず、素っ頓狂な声が漏れた。
「え……? わ、私たちの寝床を設えるために、お忙しいはずの平日の昼間に、わざわざこれだけの騎士様を連れて、いらっしゃったのですか?」
「ああ。でも昼休みを利用しているから問題ないよ」
……問題大ありでしょ!
見れば、連れてこられた四人の精鋭たちは、腕まくりをして組み立ての準備を始めている。
どうやら彼らは、この新しいベッドを組み立てる作業員として招集されたらしい。
私はアルフォンス様にじりじりと歩み寄り、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。
「……閣下、正気ですか? たかがメイドのベッドを組み立てるために、王立騎士団の、国家の最重要戦力である方々を駆り出すなんて……」
「大丈夫だよ、エルナ」
アルフォンス様は、困惑する私を余所に楽しげに笑う。
「皆、自ら進んでここに志願したんだから」
「志願……? 何のためにですか?」
すると、四人のうちの一人がこちらへ歩み寄ってきた。
アルフォンス様より一回り小柄だが、燃えるようなブロンドの髪と、少年のような瑞々しさを残した美青年だった。
彼は私に対し、まるで高貴な淑女に接するかのような優雅な一礼をして、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「それはもちろん、あなた様を拝見するためですよ。……エルナ嬢」
「……え? あの、……え?」
あまりの事態に、私はただ狼狽え、視線を彷徨わせるしかなかった。
そんな私を見かねたのか、ブロンドの青年が優雅に腰を折り、完璧な所作で一礼して見せた。
「初めまして、エルナ嬢。王立第二騎士団で副団長を務めております、レイ・アヴェンチュラと申します。以後、お見知り置きを」
「アヴェンチュラ……」
その名を聞いた瞬間、私の脳内に、かつて令嬢だったころの知識が浮かび上がった。
「あの、魔法剣術の名門、アヴェンチュラ家の……」
アヴェンチュラ家といえば、代々王家に忠誠を誓う武門の誉れ高い一族だ。
特に、魔力を作為的に剣技に組み込む独自の「魔法剣術」においては、右に出る者はいないと言われている。
「これは光栄だ」
レイは即座に相好を崩した。
「ご存じいただけているとは」
とにかく彼は私の困惑を見透かしたように、隣のアルフォンス様を盗み見て、にやりと笑った。
「いやなに、団長が毎日毎日、耳に胼胝ができるほどエルナ嬢の話ばかりされるものでしてね。もはや洗脳を受けている気分でしたよ。一体どれほどの美少女が団長の理性を狂わせたのかと、この目で確かめに来たというわけです」
「わざわざ、ありがとうございます……。皆様のような高貴な方々に、このような……」
私は恐縮しきって、精一杯の感謝を込めて頭を下げた。
アルフォンス様は満足げに頷くと、レイに向かって誇らしげに言った。
「どうだ? 可愛いだろう」
「ええ、もちろん。毎日口が枯れるまで褒め称えても足りないほど、お美しい方ですね」
レイはそう言って私を見つめていたが、ふと、私の後ろに隠れるようにして立っていたクロエに視線を移した。
「ですが――後ろにいる彼女の方が、僕の好みに近いかな」
そう言って、レイがクロエに流し目を送ってウィンクを飛ばす。
あまりにも軽薄で、けれど抗いがたい魅力を放つその仕草に、クロエの顔は瞬く間に熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
「おい、レイ。やめろ」
すかさずアルフォンス様から鋭い叱咤が飛ぶ。
「うちのメイドにまで手を出すつもりか。許さんぞ」
「心外ですね、団長。そんな言い方をされたら、僕がまるで節操のないプレイボーイのようではありませんか。ねえ、子猫ちゃん?」
「女性を子猫と呼ぶ時点でアウトだぞ……」
そんなやり取りを尻目に、私はクロエの様子を窺った。
彼女は火照った顔のまま、アルフォンス様と言い合うレイの顔から視線を外せずにいた。その様子が、どこか微笑ましくも感じられる。
「というわけで」
アルフォンス様が、無理やり話を本論へと引き戻す。
「時間は惜しい。早速、ベッドを組み立てるとしよう」
「了解」
レイが答え、こうして本格的な組み立て作業が始まった。




