第10話 狩りの失敗と翻訳能力の片鱗
同日午後 森の中
「いいかい、ユイちゃん。猫の基本は狩りだよ」
トラが見本を見せてくれる。低い姿勢で草むらに身を潜め、獲物に気づかれないようにゆっくりと近づく。そして、一瞬の隙を突いて飛びかかる。
「こうやって、ネズミや小鳥を捕まえるんだ」
トラは簡単そうにネズミを捕まえて見せた。素早い動きで、一瞬のうちに仕留める。
「はい、ユイちゃんの番」
ユイは真似しようとしたが、全くうまくいかなかった。
まず、低い姿勢が保てない。お腹が地面についてしまい、泥だらけになる。次に、音を立てずに歩くことができない。枯れ葉を踏んでパリパリと音を立て、獲物に逃げられる。
「難しい...」
何度挑戦しても、一匹も捕まえられない。お腹はどんどん空いていく。胃が痛むほどの空腹感。人間の時には経験したことのない、原始的な飢餓感。
「生きるって...こんなに大変なんだ」
涙が出そうになった。人間だった時は、お金さえあれば簡単に食べ物が手に入った。でも、野生の世界では、自分の力で獲物を捕まえなければ生きていけない。
その時、トラが鳴いた。
「「ニャー」
その瞬間、ユイには単なる鳴き声以上のものが聞こえた。
「ニャー(腹減った)」
(え?今、言葉の意味が分かった?)
トラがまた鳴く。
「シャー」
今度も意味が理解できた。
「シャー(危険)」
単語レベルだが、確実に意味が分かる。これは普通のことではない。
「トラくん、もう一度何か言ってみて」
「ニャニャー、ミャウミャウ」
すると、ユイの頭の中で自動的に翻訳された。
『大丈夫、焦らなくていいよ』
「すごい...トラくんの言葉が、完全に分かる!」
トラが驚いた表情を見せた。
「本当に?じゃあ、これは?」
トラが複雑な鳴き声を発する。普通なら、ただの猫の鳴き声にしか聞こえないはずだが、ユイには完璧に理解できた。
『君には特別な才能があるみたいだね。心の声を聞く力、翻訳の力。これは珍しい能力だよ』
「翻訳の力...」
ユイは自分の前足を見つめた。小さな黒い足。でも、その中に特別な力が宿っているらしい。