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ただの魔法使いですが、推しのアイドル騎士様に執着されています。  作者: 湊一桜
第四章

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新生活に向かって動き出す

 スタニスラスの恋人は、魔術師団員のエルザ・リヴィエールだ。そして、エルザ・リヴィエールこそが茶虫兄妹の妹で、夏祭りの夜、伝説の呪文を炸裂させた張本人だ。その噂は、あっという間に広まった。そして、人々は口を揃えて言った。


「伝説の呪文を使う強い魔法使いなら、仕方ないよね」


「リヴィエール家の末裔なら、仕方ないよね」


 それは、私が想像していた人々の反応とは、百八十度違ったものだった。


 ダミアンやスタンの言う通り、リヴィエール家の力は予想以上に大きいらしい。そして、私が正規の魔術師団員であること、しかも強い魔法使いであることという事実が、功を奏したらしい。完全にダミアンの思惑通りであった。


 アイドルが交際を公表したというのに、それを好意的に捉えられている。それはまさしく、私たちの作戦勝ちだ。これが私がただ普通の女の子であった場合、ファンからの集中砲火は避けられなかったに違いない。


 こうして私は、人々の前を堂々とスタンと歩けるようになったのだ。





 スタンが私と交際発表をしてから、ファンに悲鳴を上げられることも少なくなった。それはファン離れが起こったからかもしれないし、スタンとの疑似恋愛を楽しむ人々の夢が終わったのかもしれない。人気者のスタンには、申し訳気持ちでいっぱいだった。


 だが、当の本人は何も気にしていないらしい。むしろ、こうして堂々と歩けることを、楽しんでいる。





 交際公表をしてから、スタンは姿変のアクセサリーを使うことがなくなった。変装したスタンと私が歩いていたら、それこそ浮気だと大騒ぎになるだろうから。そして私も、今や堂々と魔法を使い、もちろん変装することもない。ありのままで生きていける幸せを感じている。



 ただ、一つ注意しないといけないこと。それは……


「エルザ。妻帯者は騎士団の宿舎を出なければならない。

 だから、結婚するに当たって新居を見に行こうと思う」


 スタンは人々の前で甘ったれることは出来ず、外出先では常に騎士モードでいなければならない。これは先人の教えのせいもあるのだろう。騎士は市民から信頼される騎士でなければならないのだ。たとえ、恋人がいたとしても。


 私はスタンを見上げ、目を細める。


「そうだね」


 そう答えながらも、結婚するのかと改めて思った。

 スタンは、手が届かないすごい人だと思っていた。思い返せば初めて彼を見た日、私の人生が彼と交差することなんて、想像さえしなかった。


「スタンはどんな家に住みたいの? 」


「そうだな……」


 彼は目を細めて遠くを見る。


「エルザを危険に合わせる可能性が少ない、安全な場所にある家。

 プライバシーを守れる、広い庭と部屋を持った家。

 いつでもエルザの料理を食べられるように、大きなキッチンを有した家。かな」


 そしてスタンは、人目もはばからず、ぎゅっと私を抱き寄せる。そして、耳元でそっと囁いた。


「実はもう、契約しちゃったんだ。

 勝手にごめんね、エルザ」


「えぇッ!? 」


 私は大声を出していた。


 (もう契約しちゃったって、一体……

 スタンはどこまで前のめりになっているんだろう)





 スタンは私を連れて、高台への階段を上がる。目の前には広大なニーズの住宅街が広がり、はるか遠くの城壁の向こうには広大な平原が見える。


「うわぁ!! すごい眺め!」


「エルザは気に入ってくれると思ったよ」


 スタンは甘く優しい声で囁き、とある大きな家の門扉に鍵を差し込む。ここは高級住宅街なのだろうか。両隣の家も大きいが、目の前の家もとてつもなく大きい。



「あら、スタニスラス騎士団長。今日もお疲れ様です」


 ちょうど隣の家から出てきた夫人が、にこやかに挨拶をする。街ではきゃあきゃあ持て囃されていたのに、ここの住人はスタンを見て驚くこともしない。


「お疲れ様です。

 近々引っ越しますので、よろしくお願いします」


 スタンは彼女ににこやかに挨拶をしていた。


 (スタンが市民に笑いかけるなんて、天変地異!? )


 私は驚いたが……スタンはどうやら、彼自身にきゃあきゃあと集まる女性が苦手なだけのようだ。一旦彼と普通の関係を築いてしまった人には、ごく普通に対応していることを思い出す。

 ……そう。アリスさんもその中の一人だ。


「隣は、もう引退した前騎士団長の家。向かいは前魔術師団長の家。

 この一角には軍の関係者が集まっているため、悪い人も近寄らないんだよ」


 スタンは優しくそう告げ、誰もいないことを確認してから私の頬にキスをする。いつになってもこの甘さに慣れない私は、決まって顔を真っ赤にする。もうすぐ夫婦となるのに、私はまだまだスタンに狂わされている。




「さあ、エルザ。今週末は僕の両親に挨拶に行こう」


「……えっ!? 」


「僕の両親と話して、君の家族に関して知らなかったことを色々知れたんだ。

 彼らなら、エルザを喜んで迎え入れてくれると思うよ」


 (知らなかったことって何!?

 そして、いきなり挨拶!? )


 動揺を隠せないが、彼とはいずれ結婚する身だ。彼の両親への挨拶も、逃げられない道だろう。どうか、『息子はなぜこの女を選んだのだろう』だとか『息子に相応しくない』だとか思われないことを祈るばかりだ。


いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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