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第73話 揺らぐ世界の骨格 ― 藤華と鈴蘭の蕾、再び

遠い中東の地で、大きな戦争が始まっていた。


アメリカとイスラエルによるイランへの大規模空爆が引き金となり、報復のミサイルとドローンが中東全域を覆った。

ホルムズ海峡は封鎖の危機に瀕し、石油の流れが乱れ、世界経済に暗い影を落とす。

レバノン、湾岸諸国、イラク……炎と煙が広がるたび、見えない感情の網。

レイラインが大きく歪み始めた。

少女たちの強い想いが花として具現化するこの世界では、遠い戦火の恐怖・怒り・悲しみが、微かな黒い蔓となって日本にまで忍び寄っていた。

レイラインのバランスが崩れれば、大災厄が現実のものとなる。

中守り人の増員が急務となり、引退した高齢の小守り人たちにさえ招集がかかった。

白百合女学院の理事長室。


白百合 麗華(45歳)は、厳しい表情で電話を切った。

「……政府からの要請は明確です。現役の高校生ペアも、早急に育成・満開へ導け、と。

 世界の骨格が揺らいでいる今、次世代の力を待っている暇はない」

隣に立つ白百合 カンナ(26歳・教師)は、銀髪を静かに揺らし、紫がかった瞳を伏せた。

沙耶からの指示で桜良と紡に与えた嫉妬のスパイスが、まだ自身の花に微かな棘を残している。

「わかりました。当主。

 私が候補者を絞ります。交花前の安定したペアを中心に……12組。

 早い段階で花を芽吹かせ、開花まで達した者たちを優先して」

カンナは数日間、学園の記録と花の観察データを丹念に調べ上げた。

そして選ばれた12組のリストの中に、二人の名前があった。


藤花 ひより(18歳・3年生)

鈴蘭 詩織(17歳・2年生)


夜の花語りの間。

淡い藤色の光が、部屋を柔らかく染めていた。

ひよりは小柄で可憐な体を少し縮こまらせ、詩織の隣に座っていた。

淡い藤色の髪が、彼女の儚げな横顔を優しく縁取る。

詩織は水色のショートボブを整え、かわいいメガネの奥で水色の瞳を穏やかに細めた。

「ひより先輩……また、呼んでいただいてありがとうございます」

詩織の声は清楚で、鈴蘭の花のように優しく響く。

二人は数週間前から、静かに触れ合いを重ねてきた。

芽吹きの段階から始まり、最近ようやく開花――抱擁とキスの段階に達したばかりだった。

ひよりは過去の記憶を胸に押し込み、詩織の手をそっと握った。

「……詩織。桜良さんとの時は、私の想いが足りなくて……満開には届かなかった。

 でも、あなたとなら……」

そこへ、静かな足音が近づいた。

「藤花 ひより、鈴蘭 詩織。

 二人とも、よくここまで花を育ててきたわね」

カンナだった。

銀髪ロングの落ち着いた大人の美女は、二人を優しく、しかし厳しい視線で見つめた。

「政府の要請により、中守り人の候補を急遽増やすことになった。

 あなたたちも、その12組の中に選ばれたわ。

 開花まで達している時点で、すでに大きな適性がある。

 これから……私の監視のもと、満開までの訓練を始める。

 交花の深部へ。花芯合わせへ。そして、一生を約束する恋人として、正式に満開を迎えるまで」

ひよりの藤色の瞳がわずかに揺れた。

過去の失敗の棘が、胸の奥で疼く。

詩織はメガネを軽く押し上げ、ひよりの手に自分の手を重ねた。

「ひより先輩……いえ、ひよりさん。

 私、ひよりさんの藤の蔓を、鈴蘭の小さな鈴で優しく包みたい。

 一緒に、ちゃんと咲きましょう」

カンナは静かに頷き、部屋の空気に微かな指導者の香りを漂わせた。

「訓練は厳しいわ。世界の乱れが激しくなるほど、私たちの花はより強く求められる。

 心の同期、感情のコントロール、そして……相手だけに咲く、一生の絆。

 桜良と紡のように、嫉妬の棘に苛まれるかもしれない。

 それでも、あなたたちの花が美しく満開を迎えられるよう、私が導く」

ひよりは詩織の肩にそっと頭を寄せ、藤色の光の粒子を小さく散らした。

「詩織……一緒に、頑張ろう。

 今度は、ちゃんと……あなただけに咲く花になりたい」

詩織の水色の花が、優しく応じるように淡い粒子を返した。

カンナの監視のもと、12組の新たなペアたちの訓練が、静かに始まった。

中東の戦火が遠くで燃え続ける中、東京の学園で、少女たちの蕾が急ぎ育ち始めていた。

レイラインの歪みを正すため――

そして、咲いてしまった花は、もう戻らないという運命のもとで。


挿絵(By みてみん)


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