第69話 白雪の導き ― 従姉の雪華と凍華の約束
白百合女学院の旧校舎奥、「花語りの間」。
柔らかな光を濾し、部屋を淡い紫銀の薄暮に染めていた。
「んっ……あっ……はぁ……っ、また……!」
すみれ野 あかりの声が、甘く震えて部屋に溶けた。
小さな健康的な体がびくりと弓なりになり、明るめで元気な髪が汗に濡れて頰に貼りつく。
彼女の花は、蕾を大きく開き、金色がかった柔らかな光の粒子を散らしながら、早々と絶頂の波に飲み込まれようとしていた。
対する白藤 ゆかりは、まだ花芯を深く重ねたまま、息を乱しながらあかりを見つめていた。
白に近い淡い藤色の髪が、柔らかな女性らしい曲線を優しく包んでいる。
ゆかりの花は、白藤の血筋らしい高い感度とコントロール力を持っていたが、あかりとの適性差が大きすぎて、どうしても抑えきれなかった。
「……ごめんね、あかりちゃん。
また、私が……」
ゆかりの声は優しく、しかし苦しげに響いた。
指先でそっとあかりの頰を撫で、溢れる花蜜のような光を優しく受け止める。
その優しさが、かえってあかりの花を刺激してしまうのだ。
あかりは頰を真っ赤に染め、潤んだ目でゆかりを見上げた。
「ゆかりちゃんのせいじゃないよ……でも、悔しい……。毎回、私が先に咲いちゃうなんて……。
私たち、もう先輩後輩じゃなくて恋人なのに……同時に花を咲かせたいのに……」
二人は交花の深部まで進み、花芯合わせの練習を繰り返していた。
白藤の血筋は元来、感度のコントロールがうまいのが特徴だった。
しかしあかりの健康的な花との適性差が大きすぎ、ゆかりの高い能力があかりの花を優しく、しかし容赦なく先走らせてしまう。
あかりは自分が「足を引っ張っている」と感じ、ゆかりは「大切な恋人を待てない自分」に苛立ちを覚えていた。
ゆかりはあかりの体を優しく抱き寄せ、額にそっと唇を寄せた。
「あかりちゃん……もう少し、ちゃんと同時に咲けるようになりたいよね。
……ねえ、雪乃お姉ちゃんに相談してみない?
雪乃お姉ちゃんは大学部で、従姉として私のことよく知ってるし、冴華さんと一緒に中守り人として満開を達成してる。
儀式のことで悩んだら、いつでも力になると言ってくれてたよ」
あかりは少し驚いた顔をしたが、すぐにこくりと頷いた。
恋人であるゆかりの提案に、素直に甘えるように。
「うん……ゆかりちゃんがそう言うなら、私も行きたい。
雪乃さんたちに、ちゃんと教えてもらおう……。
私、ゆかりちゃんと一緒に、ちゃんと満開になりたいから……」
翌日の午後。
二人は学院を抜け、白百合花びら研究所のビルを訪れた。
ロビーで雪乃が待っていた。
「ゆかり、突然どうしたの? ……あ、こちらがあかりちゃんね」
白藤 雪乃。
明るめの白に近い銀白色のロングヘアが、大学部の落ち着いた服装に優しく流れ、淡い紫銀の瞳が従妹とその恋人を温かく包み込んだ。
雪乃の微笑みには、雪華のように静かで包容力のある優しさが満ちていた。
ゆかりは少し緊張しながらも、恋人であるあかりの手をそっと握ったまま説明を始めた。
「雪乃お姉ちゃん……急にごめんね。
あかりちゃんとの花芯合わせで、どうしてもうまくいかなくて……。
私の白藤の血筋のせいか、感度が高すぎて……あかりちゃんが毎回先に咲いてしまうの。
コントロールしようとしても、適性差が大きすぎて抑えきれなくて……」
あかりが頰を赤らめながら、ゆかりの隣で小さく頭を下げた。
「雪乃さん……よろしくお願いします。私、ゆかりちゃんを待てなくて……悔しくて……。
でも私たち、もう恋人同士だから、ちゃんと同時に花を咲かせたいんです……」
雪乃は優しく微笑み、ゆかりの髪をそっと撫でた。
「ふふ……ゆかりの花が強すぎるのね。白藤の血はコントロールが上手いはずなのに、
恋する相手との適性差が大きいと、逆に想いが暴走しちゃうのよ。私も昔、似たことで悩んだわ」
そこへ、もう一人の静かな足音が近づいてきた。
「雪乃。相談なら、まずは私の部屋でゆっくり話しましょう」
白雪 冴華。
25歳の社会人らしい凛とした佇まい。
艶やかなプラチナブロンドに近い白銀のセミロングヘアを低めにまとめ、深い紫がかった青の瞳が二人を冷静に、しかし優しく見つめていた。
グラマラスなプロポーションを包むシンプルなブラウスとタイトスカートが、凍華のような冷たく澄んだ美しさを際立たせている。
雪乃がゆかりとあかりを交互に見ながら言った。
「こちらが私のパートナー、白雪 冴華。私たちは中守り人として、少しずつレイラインの安定に貢献しているの。
花芯合わせは技術だけじゃなく、心の工場(鍛錬)がとても大切だと考えているわ。
ゆかり、あかりちゃん。よかったら、今日これから時間ある?」
あかりが元気よく、しかし少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「お願いします……! 雪乃さん、冴華さん。私たち、どうしても同時に咲きたいんです」
ゆかりも恋人の手を握りしめ、従姉の瞳を見つめて静かに付け加えた。
「雪乃お姉ちゃんの雪華と、冴華さんの凍華……二人がどうやって心を重ねて満開を迎えたのか、
少しでも教えていただけたら……僕たち、頑張るよ」
雪乃は従妹のゆかりの頰を優しく撫で、冴華は静かに頷いた。
「わかりました。
まずは心の雪を静かに降らせて、相手の花が今どう感じているかを、ちゃんと感じ取ることから始めましょう。
技術だけを追いかけても、本当の満開にはなりませんから」
冴華が低い落ち着いた声で、的確に言葉を添えた。
「ゆかり。あなたがコントロールしきれないのは、優しさと想いの強さの裏返しよ。
あかりちゃんを想う気持ちが強すぎて、花が先に反応してしまう。
その想いを『待つ喜び』に変える心構え……私たちが、ちゃんと工場してあげます」
保存財団の奥にある、特別に用意された静かな「花の間」へと、四人は導かれていった。
窓から差し込む柔らかな光の中で、雪乃の雪華と冴華の凍華が、淡い白銀の粒子を静かに舞わせ始めていた。
そこは、恋人同士の二つの蕾が、次の段階へ踏み出すための、澄んだ雪の結晶のような場所だった――。




