第26話:藤の囁き ― 守り人の重圧
生徒会室は午後の柔らかな光に包まれ、静けさが満ちていた。
古い木製の机と、白百合の花を模した装飾が、伝統と重厚さを漂わせている。温室の授業が終わった後、桜良は楓に誘われるまま、ここへ来ていた。
楓と怜奈の推薦で生徒会へ参加することになったのだ。
二人は向かい合って座り、しばらくの間、穏やかな沈黙が流れた。やがて楓が淡い藤色の髪を優しく揺らし、深い紫の瞳で桜良を見つめた。
「桜良。
ここでは遠慮なく話して。白百合家の遠縁として……私はあなたの重圧を、誰よりも理解しているつもりよ」
桜良の紫銀の瞳がわずかに揺れた。優等生らしい落ち着いた表情の下に、守り人としての孤独が静かに滲み出ている。
「楓お姉さま……ありがとうございます。
私は、大守り人として約束されている身です。
掟の重さは、幼い頃から知っています。
でも……身体は慣れているのに、心がまだ……」
言葉をそこで止め、桜良はそっと視線を伏せた。姉・澪からの繰り返しの愛撫に慣れた体は、どんな触れ合いにも敏感に反応してしまう。それでも、心の奥底にある蕾は、まだ完全に開こうとしない。紡への想いが芽吹いている今、そのギャップがますます胸を締めつける。
楓は静かに頷いた。白百合家の遠縁として、次期純血守り人である桜良が背負う運命を深く理解していた。
彼女の周囲に、紫藤の蔓が優雅に伸びるような気配が広がり、淡い藤色の光粒子が柔らかく桜良を包み込んだ。蔓は決して強く締め付けず、ただ優しく支えるように。
「大守り人の責務は、確かに重いわ。
純血の血筋がもたらす孤独……それを知る者は少ない。
でも、蕾は無理に開かせるものではないの。
焦らず、自分の心の声を聴きなさい。
蔓は、相手を包み込むことで初めて強く絡みつく……あなたも、そうやって紡さんと向き合えばいい」
その言葉は冷静で、しかし温かかった。紫藤の蔓のようなメタファーは、桜良の心に静かに染み入った。
桜良は少し迷った後、以前から楓に相談していた件を切り出した。
「実は……澪お姉さまの夜這いの件、まだ続いているのです。身体はもう……慣れてしまっていて……」
楓の表情が一瞬、厳しくなった。淡い藤色の髪がわずかに揺れ、声に怒りが滲む。
「澪お姉さまは、まだそんなことをしているの? 白百合家の次期当主が聞いてあきれるわ。
あの方のシスコンは、守り人の均衡を乱す危険さえある……許せない気持ちになるわね」
楓の言葉に、遠縁としての本気の苛立ちが込められていた。守り人の掟を重んじる彼女にとって、澪の行動は看過できないものだった。
その時、生徒会室のドアが静かに開き、純白に近い明るい白髪の橘 玲奈が明るく入ってきた。
「ただいまー。遅くなっちゃった」
玲奈は黄金の瞳を輝かせ、情熱的に桜良の肩に軽く手を置いた。
「桜良、、楓から話は聞いてるよ。
澪さんのこと、確かに問題だけど……今はあなたの心が大事。紡さんへの想いが本物なら、恐れず触れなさい。
情熱を抑え込んじゃダメ。橘の花は、強く咲いてこそ周りを明るくするんだから!
私たちみたいに、ちゃんと向き合えば、きっと美しい満開になるよ」
玲奈の声は情熱的で、背中を強く押すような力があった。純白の髪が輝き、爽やかな橘の香りが部屋に広がり、桜良の胸を温かく包んだ。
桜良は二人の言葉に、静かに息を吐いた。守り人の重圧はまだ消えないが、楓お姉さまの冷静な蔓のような支えと、玲奈様の情熱的な光が、心の蕾を優しく揺らしていた。
「楓お姉さま、玲奈様……本当にありがとうございます。少し、勇気が出ました」
生徒会室の窓から差し込む光が、三人の周囲で淡い藤色と純白の粒子を静かに舞わせていた。




