↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10万PV 百合小説】白百合の満開 ― 運命に咲く禁断の花【ヴィジュアル・ドラマチック・ノベル】  作者: 泉水
第1部 花の乙女たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/135

第1話 閉ざされた蕾 ― 守り人の使命

白百合女学院《しらゆりじょがくいん》の朝は、いつも静かに始まる。

四月の柔らかな光が、校舎の白い壁とガラス張りの温室《おんしつ》を優しく照らしていた。


黒髪を長く腰まで流した少女、白百合 桜良《さくら》は、校舎の最上階にある自室の窓辺に立ち、紫銀の瞳《しぎんのひとみ》で遠くの空を見つめていた。

胸の奥に、固く閉じた白百合の蕾《つぼみ》があった。

それはただの比喩ではない。

この世界では、少女たちの強い感情が「花」として物理的に具現化する。香りを持ち、光を伴い、時には触感さえ伴うその花は、見えない感情のエネルギー網、レイラインと深く結びついている。

桜良《さくら》は、そのレイラインを守るべき存在だった。

白百合家《しらゆりけ》の純血守り人《じゅんけつまもりびと》。

守り人は常に二人でなければならない。

一人は血筋である純血守り人《じゅんけつまもりびと》、もう一人は血筋以外の適合者である違血守り人《いけつまもりびと》。

どちらか一方が死亡したり、男性と交わるなどの禁忌を犯せば、両者の効力が失われ、レイライン全体が崩壊し、大災厄《だいさいやく》が世界を襲う。

それは、ただの伝説ではない。

桜良《さくら》の母、白百合 麗華《れいか》が管理者として守るこの学園は、そうした適性を持つ少女たちだけが集う特別な場所だった。

過去に起きた「皐月の悲劇《さつきのひげき》」

守り人の一人が禁忌を破り、レイラインが激しく乱れた事件は、今も禁じられた区画《きんじられたくかく》に永遠の枯死《こし》した花として残されている。


「私は……守らなければならない」


桜良《さくら》は小さく呟いた。17歳。

白百合女学院《しらゆりじょがくいん》2年生。

学園史上最高クラスの白百合適性《しらゆりてきせい》を持つ、次世代の純血守り人《じゅんけつまもりびと》。

その肩にのしかかる重圧は、誰にも理解されない。


去年の春、彼女は同級生の藤花 ひよりと共に花紡ぎの儀式《はなつむぎのぎしき》に挑んだ。

女性同士のみで行われるその儀式は、四つの段階を持つ。


芽吹き《めぶき》――触れ合い。

開花《かいか》――抱擁とキス。

交花《こうか》――指や舌による、より深い愛撫。

満開《まんかい》――心身の完全融合と絶頂の極致。


儀式は単なる愛の行為ではない。


二人の花が互いに呼応し、レイラインを一時的に書き換える、神聖にして危険な儀式だ。満開《まんかい》は、人間の意志だけでは成し得ない。世界、レイラインそのものが「この二人を選ぶ」現象として起こる。

しかし去年、桜良《さくら》と藤花 ひよりは満開《まんかい》に届かなかった。

芽吹き《めぶき》と開花《かいか》は成功したものの、交花《こうか》の途中で桜良《さくら》の花が強すぎてひよりを傷つけかけた。ひよりの感情は憧れ止まりで、世界はこの二人を選ばなかった。

桜良《さくら》の心もまた、重圧と孤独、過去の悲劇への恐怖で固く閉ざされていた。

その失敗以来、桜良《さくら》は誰とも深く触れ合うことを恐れている。

満開《まんかい》の代償は大きすぎる。暴走すれば局地的な災厄《さいやく》を引き起こし、最悪の場合、花は枯死《こし》し、怪物化し、レイラインへ同化してしまう。

「また……誰かを傷つけてしまうかもしれない」

桜良《さくら》の指が、窓ガラスに触れた。

その瞬間、彼女の胸の奥で白百合の蕾《つぼみ》が微かに震え、淡い白い光の粒子が指先から零れ落ちた。温室《おんしつ》の方角で、小さな花弁が一枚、風に舞うのが見えた。


学園内では、この現象は厳しく秘匿されている。


特殊適性《とくしゅてきせい》と呼ばれるこの力は、社会の表舞台には決して姿を現さない。

白百合女学院《しらゆりじょがくいん》は、そうした少女たちを守り、導くための伝統ある檻のような場所だった。


少し離れた場所では、深紅の髪の薔薇宮 ルリカ《ばらみや るりか》が、情熱的な視線を桜良《さくら》に向けていた。

3年生。棘の薔薇《いばらのばら》の適性を持つ彼女は、独占欲が強く、花が暴走しやすい危険な存在だった。

そして、淡い紫の髪の藤花 ひよりは、去年の儀式以来、桜良《さくら》から距離を置きながらも、静かに見守り続けていた。

彼女の藤の花《ふじのはな》は少し色を失っていたが、忠実な心は変わらない。


白百合 カンナ教師は26歳、分家出身で儀式の管理・指導役は、そんな桜良《さくら》の様子を、銀縁の眼鏡の奥から冷静に観察していた。

今年も、桜良《さくら》は新しい「違血守り人《いけつまもりびと》」候補を探さなければならない。

守り人の掟は絶対だ。

二人でなければ、レイラインは保てない。

桜良《さくら》は自室に戻り、ベッドに腰を下ろした。

胸の奥の白百合の蕾《つぼみ》が、痛いほどに重く感じられる。


「私は……純血守り人《じゅんけつまもりびと》として、この世界の均衡を守らなければならない。

誰かを愛し、誰かと満開《まんかい》を迎え、レイラインを安定させる。

それが私の使命。

でも……もしまた失敗したら? もし私の花が強すぎて、お相手を枯らしてしまったら?」


窓の外では、温室《おんしつ》のガラスが淡い光を反射していた。

そこは、花紡ぎの儀式《はなつむぎのぎしき》が最も多く行われる場所。禁じられた区画《きんじられたくかく》に隣接し、過去に満開《まんかい》を迎えられなかった者たちの永遠の枯死《こし》した花が、静かに息づいている。


桜良《さくら》は目を閉じた。

今年も、新しい春が来た。新しい適性を持つ少女たちが、この学園に入ってくる。

その中に、運命の相手がいるのだろうか。

世界が「この二人を選ぶ」ような、特別な少女が。

蕾《つぼみ》はまだ固く閉ざされたままだった。

しかし、その奥で、微かな震えが確かに生まれ始めていた。


挿絵(By みてみん)


【用語解説】

レイライン:少女たちの感情が織りなす見えないエネルギー網。世界の均衡を保つ根幹。


花紡ぎの儀式《はなつむぎのぎしき》:女性同士のみで行われる4段階の儀式(芽吹き《めぶき》、開花《かいか》、交花《こうか》、満開《まんかい》)。レイライン《れいらいん》を一時的に書き換える。


守り人《まもりびと》:レイライン《れいらいん》を守る者。常に純血守り人《じゅんけつまもりびと》(白百合家の血筋)と違血守り人《いけつまもりびと》(外部の適合者)の二人一組。


特殊適性《とくしゅてきせい》:強い感情が「花」として具現化する現象。社会では秘匿されている。


満開《まんかい》:儀式の最終段階。心身の完全融合。世界が二人を選ぶ現象。暴走の危険性が高い。


枯死《こし》:花の暴走の果てに訪れる、永遠の死と怪物化の状態。禁じられた区画《きんじられたくかく》に安置される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。