一度咲いてしまった花は、もう二度と蕾には戻れない
この世界は、表向きはごくありふれた現代日本である。
しかし、少女たちの強い感情は「花」として物理的に具現化する。
花は香り、光、触感を伴い、見えない感情のエネルギー網「レイライン」と深く結びついている。
花が美しく咲けば心は癒され、レイラインは安定する。
逆に、花が暴走すれば局地的な異常気象や集団的な感情の共有、心身の枯死現象を引き起こす。
この特殊適性は、社会の表舞台では徹底的に秘匿されている。
一部の伝統家系と研究機関のみがその存在を知り、管理・監視を続けている。
白百合家は、そうした家系の中でも特に古くからレイラインの均衡を守る役割を担ってきた。
約120年前、近代化による感情の乱れが頻発した時代に、白百合家は「守り人体制」を確立した。
守り人は常に二人でなければならない。
一人は白百合家の純血の血筋。
もう一人は血筋以外の「適合する違血の女」――外部から選ばれた高適性の少女。
守り人の役割は、レイラインを維持・監視し、花の暴走を抑え、大災厄を防ぐことにある。
二人の花を紡ぎ合うことで均衡を保ち、次世代の守り人を育て上げる重責を負う。
儀式は女性同士のみで行われ、芽吹き・開花・交花・満開の四段階を経て、心と花を融合させる。
満開は単なる絶頂ではなく、レイラインが「この二人を選ぶ」現象であり、一度到達すれば大きな代償を伴う。
白百合女学院は、そうした適性を持つ少女たちが通う伝統ある私立女子校として機能している。
校舎の奥には古い温室があり、そこで花紡ぎの儀式が行われる一方、禁じられた区画には過去に暴走し、枯死した守り人たちの花が永遠に残されていると言われる。
現在、現守り人である白百合 葵と藤宮 沙耶の力は、過去の満開儀式の代償により大きく弱体化している。
学園史上最高クラスの白百合適性を持つ純血の次世代は、急ぎで満開に至り、新たな守り人ペアを成立させなければならない状況に置かれていた。
花は心である。
心は触れ合いで咲く。
そして、一度咲いてしまった花は、もう二度と蕾には戻れない。
この世界で、少女たちの運命的な触れ合いが、静かに、しかし激しく始まろうとしていた。




