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第11話 :選ばれた蕾たち ― 儀式の大切さ)

白百合女学院の特別講義室は、普段は使われない静かな部屋だった。

今日は、1年生の中から特に花の適性が強いと判断された30人の生徒だけが集められていた。

つむぎは後ろから2列目の席に座り、少し緊張した面持ちで前を見つめていた。隣には親友のすみれ野あかりがいて、いつもの明るい笑顔を浮かべながらも、どこかそわそわとしている。


「つむぎ、なんか緊張するね……私たち、なんで選ばれたんだろう?」


「あかりも選ばれてるんだね。私もよくわからないけど……」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


二人が小声で話していると、講義室の扉が静かに開いた。


白百合 カンナ教師が、落ち着いた足取りで入室した。26歳の彼女は眼鏡の奥から穏やかだが厳しい視線を教室全体に巡らせた。


挿絵(By みてみん)



後ろには、白百合 桜良さくらが控えめに立っている。

黒髪ロングと紫銀の瞳が、今日も静かな気品を放っていた。

カンナは教壇に立ち、ゆっくりと口を開いた。


「皆さん、今日は特別な時間を設けました。1年生の皆さんのうち、特に高い適性を持つ30名をここに集めました。……これは、決して軽いことではありません」


教室が一瞬、静まり返った。

カンナは黒板に「花紡ぎの儀式」と大きく書き、続けた。


「私たちの世界では、少女たちの強い感情が『花』として物理的に具現化します。

この現象は『特殊適性』と呼ばれ、社会では秘匿されています。

花は香り、光の粒子、触感を伴い、見えない『レイライン』と深く繋がっています。

レイラインは世界の感情のエネルギー網であり、これが乱れると局地的な災厄が起こります。」


生徒たちの間に小さなざわめきが広がった。つむぎは息を飲み、隣のあかりも目を丸くしている。


「このレイラインを安定させるために、古くから行われてきたのが『花紡ぎの儀式』です。女性同士のみで行われるこの儀式は、4段階に分かれています。

芽吹き――軽い触れ合いにより、花の蕾が目覚める段階。

開花――抱擁とキスにより、花弁が広がる段階。

交花――より深い愛撫により、花芯が溶け合う段階。

満開――心身が完全に融合し、二つの花が一つになる究極の段階。」


カンナの声は穏やかだが、重みがあった。


「儀式が成功すれば、二人は守り人として世界の均衡を支える力となります。

特に大守り人は、白百合家の純血守り人と、外部の違血守り人によるペアで、世界全体の安定を直接担います。

しかし、失敗すれば……あるいは禁忌を破れば、レイライン全体が崩れ、大災厄を招きます。

どちらかの守り人が死亡したり、男性と交わるなどの行為は、絶対に許されません。」


教室の空気が一気に引き締まった。

カンナは視線を少しだけ後ろの桜良さくらに移し、続けた。


「皆さんの中には、すでに微かな芽吹きを感じ始めている者もいるでしょう。

この儀式は、単なる恋愛や遊びではありません。心と心が触れ合い、花を咲かせることで、世界を守るための大切な儀式です。

咲いてしまった花は、もう二度と元の蕾には戻れません。それを、胸に刻んでください。」


その言葉に、つむぎの胸がざわっと鳴った。

咲良とのベンチでの手と手、中庭での肩の触れ合い、そして温室での遠い視線……。


あの時感じた温かさと光の粒子が、突然現実味を帯びて蘇ってきた。

あかりは隣で小さく息を飲み、つむぎの袖をそっと握った。彼女の周囲に、ほのかに紫色の小さな光の粒子が瞬いたが、すぐに消えた。


桜良さくらは後ろで静かに立ったまま、紫銀の瞳を教室に向けていた。

特に、つむぎの姿を捉えると、その瞳に微かな揺らぎが生まれた。

カンナは最後に、静かな声で締めくくった。


「今日の講義は、皆さんが自分の適性を自覚し、責任を持って向き合うための第一歩です。

適性が強い者は、いつか中守り人、あるいは大守り人となる可能性があります。

……特に、白百合 桜良さくらさんは、次世代の純血守り人として皆さんの模範となる存在です。」


教室の視線が一斉に桜良さくらに向いた。

桜良さくらは優しく一礼し、穏やかな声で言った。


「皆さん……どうか、自分の花を大切にしてください。私も、皆さんとともに、この世界を守っていきたいと思っています」



挿絵(By みてみん)


講義が終わると、生徒たちはざわめきながら教室を出て行った。

つむぎは席を立ちながら、胸のざわつきを抑えきれなかった。


母親の病気の看病、日常の優しさ、そして桜良さくらとの不思議な出会い……それらが、突然「世界を守る」という大きな使命と結びついた気がした。

あかりはつむぎの横で、いつもより少し静かに呟いた。


「つむぎ……なんか、改めて聞くとすごい話だったね。私たち、本当にそんな特別なの?」


つむぎは小さく頷きながら、温室で感じた甘い香りと光の粒子を思い浮かべた。

遠くの廊下では、桜良さくらがカンナ教師と並んで歩いていた。

カンナが小声で尋ねる。


「どう? つむぎの反応は」


「……彼女の花は、とても優しく、純粋です。でも、まだ自分の適性を理解していません。私が……彼女を導けるかどうか」


桜良さくらの紫銀の瞳には、期待と不安が静かに混じっていた。

選ばれた30人の蕾たちは、今、ゆっくりと目覚め始めていた。


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