80.来訪者
俺は皆に事情を説明して、椿だけを連れてベルクホーフに向かうことにした。
楓も同行を希望したが、妊婦に不要な負担をかけるわけにはいかないと、佐藤たちと共に家で待機するよう説得した。
到着したベルクホーフで、木村元帥が待ち構えていた。
「娘から今日はクリスマスパーティーをすると聞いていたが、緊急事態だ。すまない」
「いや、素早く対応していただき、ありがとうございます。彼女は西側連合国から亡くなったと聞いていましたが、なぜ突然に逮捕されたのでしょうか?」
「プロイセン王国側の国境のゲート付近を巡回していた部隊が、発見したらしい」
「椿が本物と面識があるため、身元の確認も兼ねて何をしていたのか、聞いてみます。今、彼女はどこにいるのでしょうか?」
「今は地下の独房にいる。俺も同席すべきか?」
「いや、あまり大人数で詰めかけると警戒されてしまうので、俺と椿だけで十分です」
「そうか。では、頼むよ」
のぞき窓から独房の中を覗き込むと、一人の白人女性が拘束服を着用し、中央に一脚だけの椅子に座って固定されていた。クラーラは国家安全情報局から提供された写真でしか見たことがなかったが、椿にも覗き窓から確認してもらい、本人であることが確認された。
兵士に鍵を開けてもらい、俺と椿は独房に入ったが、クラーラは目を閉じ、何の反応も示さなかった。
「あなたは何故ここにいるのですか?」
椿を完全に無視して俺に話しかけたが、椿が俺の顔を見て、構わないと言うように頷いたため、俺が返答することにした。
「貴方が園田さんかしら?」
椿を完全に無視して俺に話しかけたが、椿が俺の顔を見て、構わないと言うように頷いたため、俺が返答することにした。
「そうだけど、キミは何故ここに来たんだ?」
「私はクラーラではなく優香ですわ。園田さんにお会いするために来たのよ。」
「俺が園田だけど、何の用でここまで来たんだ?捕まるとは思わなかった?現に捕まっているけど」
「日本軍に捕まらないと園田さんに会えないと思ったから、わざと捕まってあげたの」
確かに正式なルートで面会を希望しても、悪戯だと思って相手にしなかった可能性があるが、なんだろうこの人、凄い人をイライラさせる態度だが、アイザックは彼女の何が良くて結婚したのだろうか。
「それは分かったけどさ、結局何で俺に会いにきたんだ?」
「園田さんに私とアイザックを保護してほしいの。日本に亡命するわ」
この女、自分の置かれている状況が本当に分かっているのか?
「アイザックも生きているのか?」
「ええ。生きているわ」
死体が見つかっていないからまさかとは思ったが、本当に生きているとは思わなかった。
クラーラが生きていたのだから本当なのだろうが、危険を承知で妻を一人で俺のことろ行かせるほど状況に余裕は無いのだろうな。
「そうか。アイザックはどこにいるんだ?」
「園田さんが私たちを保護して、亡命を認めてくれたら教えるわ」
「クラーラさん、そんなことが許されるはずないことくらい分からないの?あなたは小川さんを殺して、私と梢さんも殺そうとしたのに、同じ世界から来たからという理由だけで、助けてもらえると思うの?」
1年半一緒にいたけど、こんなに怒った椿を見るのは初めてだ。クラーラの言うとおり、小川先輩を殺しておいて随分と都合の良い話だ。
「クラーラではありません。優香ですわ。同じことを何度も言わせないでもらえるかしら?それに私は園田さんとお話ししているの、勝手に会話に参加しないで」
「優香さん、悪いんだけど即答はできない。みんなと話し合って明日また来るから、今日はこのまま拘束させてもらうよ」
俺たちはケールシュタインハウスに戻ってから、楓に今回の事情を説明して、チームのボイスチャットを繋いで、悠斗、翔、藤井先輩、椿、楓、俺の6人で久し振りの会議を始めた。
『以上がこれまでの流れです。皆さんの意見をお聞かせください』
椿がクラーラがベルヒテスガーデンで逮捕してからの話を皆に説明してくれた。
『なるほど。俺はアイザックには一応命だけは助けられたからな、命だけは助けてやってもいいかもしれん。クラーラについてはソ連かアメリカに引き渡したいところだが、アイザックとセットと考えるなら一緒に助けるしかないかと思うな。園田はどうだ?』
たしかに藤井先輩の言うとおり、藤井先輩に関してはアイザックが国外追放ということで命だけは助けたという事実はある。
『俺も藤井先輩とだいたい同じで、クラーラは会ったこともないから、正直助けたいとは思わないけど、アイザックについては個人的に何か被害を受けたということもないし、昔の友達でもあるから、命だけは助けてあげたいと思うかな。翔は?』
『クラーラがどうなってもええのは俺も悠斗と一緒やけど、俺はアイザックの指示でベルリンに原爆を仕掛けて、誠司も殺そかとしとったって聞ぃたから、助けてあげる義理は無いと思う。別に勝手に逃げる分には探さへんけど』
翔の言うとおり俺も椿が原爆の設置に気づかなければ、アイザックに殺されていたかもしれないというのは確かにずっと心の中で引っかかっている。
『楓も翔さんと同じでアイザックさんが逃げるなら、探したりはしなくても良いけど、助ける必要はないと思うな。優香については小川さんを殺して、遥も一緒に殺そうとして、椿と梢も危ないところだったって考えたら、被爆国であるソ連かアメリカに渡すのが良いと思うな』
楓の言うようにあの二人は原爆を大都市に使用して、凄まじい犠牲者数を生み出した責任を負う必要があると思う。
『今回は意見がまとまらなそうな話なので、多数決で決めないか?』
人の生死に関わる問題だから、一人に責任を押し付けることがないように、多数決を提案し、皆が承諾してくれたので、多数決をすることになった。
『投票の結果、助けるが2票、助けないが4票となりました。ほかに議題がなければ今回の緊急ミーティングを終えます。皆さんお疲れ様でした』
俺も色々と思うところはあるが、結局助けない方に投票し、二人を助けないことに決まった。
そして、クラーラについては現場の裁量で引渡先等は決めて良いとのことになった。
引渡先の候補はアメリカかイギリス、ソ連だが、関係性から言えばソ連が妥当だろう。
しかし、日本はアメリカの金融市場にも今後大きく関わっていくことも考えて、アメリカ国民の好感度を上げるためにアメリカに引渡すのも悪くない。
イギリスについてはロンドンの原爆トラップを指示したのはアイザックなので、クラーラをそこまで必要としていないだろう。
アメリカは今回の戦争では大きな損害を出しながらも得たものはあまり無いので、アイザックとクラーラ、ムッソリーニに責任を全て押し付ける必要がある。
なので、アイザックが生きているという情報もセットで渡せばそれなりに恩は売れるだろう。
そう考えるとここはアメリカに引き渡すのが妥当だと思う。
椿に俺の考えを伝えると引き渡し先はアメリカで良いと思うが、アイザックの居所をもし聞けるのであれば、聞き出して逮捕することを優先した方が良いとのことなので、ダメ元でクラーラから聞き出してみようと思う。




