終-3 その先に
「彼らは、諦め切れんかったんじゃ。異種族同士が互いに思いやり、助け合うかつての世界を。だからいつか、あの世界を取り戻そうと誓った。そしてその為に、この伝承を残したのじゃ」
『龍族の男が狐族の娘と結ばれることで、内なる力が覚醒する』
『狐族の娘が龍族の男と番になった時、その娘には特別な力が授けられる』
実はこのような伝承の数々が、各地の神獣族たちに当時の王によって広められ、語り継がれているのだそうだ。
完全に断絶してしまった異種族同士の関係を、結び直すきっかけとするために。
「特に、我ら龍族と狐族の国は、山一つ挟んだ隣国同士。あちらの皇帝とは、代々連携を密にし、ずっと機を待っておったのじゃ。お主らのような、心の広い若者たちが現れるのをの。」
そう言って振り返った皇帝は、子供のように無邪気に、瞳を輝かせていた。
それからゆっくりと玉座に戻り、腰を下ろすと、そこにはもう、普段の皇帝の顔が戻っている。
「今では、同じ種族の国内でも争いが起こる始末。…だが、お主らの姿を見ることで、互いに尊重し合い、思いやることの大切さに、気付く者も多いはずじゃ。そしてこれからは、異種族同士の交流も、徐々に増えるかも知れんのう」
ここで皇帝は、紅悠に優しい眼差しを向けると。
「紅悠。異郷の地に残ることを、よくぞ決意してくれた。改めて感謝する」
「いいえ。私は、旦那様と一緒に居たかっただけですので…」
紅悠が答えると、今度は律に目を向けて。
「律。あちらの国から預かった、大切な花嫁じゃ。必ずや、守ってみせよ」
「勿論。何があっても、守り抜きます」
律の答えに、皇帝は満足げに頷いた。
「若き二人の門出を、余は心から祝福するぞ。此度の結婚、誠に、おめでとう」
皇帝の言葉に、二人は改めて深く頭を下げる。
「おお、そうじゃ」
頭を上げた二人に、皇帝は茶目っ気たっぷりに微笑んで見せると。
「伝承の真実は、当面の間、余とお主らだけの機密事項じゃ。よいな?」
そんな皇帝に向けて、紅悠と律も思わずくすりと微笑んでから、頷いた。




