4-7 お試しの結婚生活
「私も何度も言ってるんだよ?そんなのあんたがやる仕事じゃないじゃんって。でもあいつ、いっつも言うの。『誰かがやらなければ国が回らない』って。律がいつまでもこんな小さな村の首長やってるのも、同じ理由だと思う。こんな田舎好き好んで治めに来る王族なんていないから。律がいなくなったら、この村を守る人間はいなくなってしまう」
思いもよらぬ話に、紅悠は言葉を失ってしまった。
この国を、村人たちを守るために、律は文字通り倒れるまで働いていたのだ。
「…旦那様のお仕事を、どうにか減らしていただけないものでしょうか…」
膝の上で合わせた両手を握り締め、苦し気な紅悠の表情からは、どれだけ律のことを心配しているのか、痛いほどに伝わってくる。
「…難しいと思う。王家のやつらって、みんな自分の出世のことしか考えてないから。律の性格からして、自分から断ることも出来ないだろうし…」
ここで凛は、紅悠を見つめて優しい笑みを浮かべてみせた。
「でもさ、今日会ったら律のやつ、前よりずっといい顔してたよ。きっと、あなたの存在が律の支えになってるんじゃない?」
「私が…?」
紅悠は、瞬きをしながら凛を見つめ返す。
「そ。だからこれからも、あいつの傍に居てやってくれる?多分律は、自分でそう思ってても中々言えないだろうから、私が代わりに頼んどくね」
にかっと歯を見せて笑う凛に、紅悠もつられて笑みを返した。
「先生は、旦那様のことをよくご存じなんですね」
「えっ?いやいや、あいつとはただの腐れ縁だから!子供の頃は家が近所だったし、大人になってからも、何故か同じ村で仕事することになっちゃってさ」
顔の前で右手をぶんぶんと振ってみせる凛。紅悠は、くすりと笑った後。
「私はまだここへ来て日が浅いので、旦那様のことも知らないことばかりなんです。よろしければ、これからも旦那様のお話を、聞かせていただけますか?」
訊かれて、凛は一瞬ぽかんとした後、すぐに笑って頷いた。
「了解!じゃあ、ちょいちょい遊びに来るね!」
紅悠も、安心したように笑い返す。
「よろしくお願いします、先生」
「凛でいいよ。私も紅悠って呼ぶし!」
そう言って、二人が笑い合っているところに。
「紅悠様に凛ちゃん、お待たせしました。お茶菓子を買ってきましたよ」
風呂敷包みを抱えた圭が、ほくほくとした笑顔で居間に入ってきた。
「圭様、ありがとうございました」
「わっ、これ、松月堂の三色饅頭じゃん!やったぁ!」
こうして、居間ではしばしの間、三人の女子会が繰り広げられるのだった。