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【コミカライズ4/20発売】悪役令嬢よ。お前はコソコソ、何をしておる?  作者: 六花きい


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【第一巻発売記念SS】ギルのお誕生日プレゼント(後)


『放課後、イザベラルームに来られたし――』


 稽古中止の連絡とともに、イザベラの護衛騎士ジョルジュから渡されたのは、果たし状めいた一通の手紙だった。


 奇しくも今日はギルの誕生日。

 差出人は、婚約者であるイザベラ・フランシスである。

 珍しくイザベラの姿が学内になく、ギルは一日、意外な気持ちで過ごしていたのだが――。


「……? 妙に静かだな」


 いつもなら談笑する声が、騎士科のそこかしこから聞こえるはず。

 だが稽古場の掃除を終えて教室へ戻ると、今日に限って人影ひとつ見当たらなかった。


 不穏な空気に警戒を強めながら、ギルはイザベラルームへたどり着く。

 卒業するまでの三年間、イザベラが買い取ったラグジュアリー空間……なのだが、いつもの扉の隣にもう一つ、見慣れぬ入り口が増えている。


 一体いつの間に……?

 よく見れば赤い矢印で、『ここから入れ』と御丁寧に指示がある。

 昨日までは他の教室同様、引き戸だったはずのその入り口は、なぜか手前に開くタイプの扉に改装されていた。


「……」


 迷う余地はなく、もちろん選ぶ余地もない。


 ……もう一度言おう、今日はギルの誕生日である。

 実家である貧乏伯爵家の誕生祝いはおしなべて質素であり、ましてや三男坊のギルなんて、サラダに添えられたパセリ以下の扱いである。


 剣を磨く布が新調される。

 食卓に並ぶ好物が、一品だけ増える……その程度の認識だった。

 だから学友からお祝いの言葉がなくても、ギルはさして気にも留めず、帰る頃にはすっかり忘れてしまう程度のものだったのに。


「どうぞお入りください……」


 ギルの気配を察したのだろうか、ドアノブの奥からくぐもった声が聞こえてくる。


「……パメラ?」

「いいから早く、お入りください……」


 普段の元気な調子からは想像もつかないほどに弱々しく、パメラの声が震えていた。


 なぜ、いつもの入り口ではないのか。

 なぜ、これほどまでに弱々しい声なのか。

 ここにきて嫌な予感に苛まれ、ギルの額にじわりと汗が滲む。


 だがすべての答えは、ファンシーな扉の向こう側にあるのだ。


「くそっ、考えても仕方ない!」


 ついにギルは意を決して、ドアノブに手を掛けた。

 ガチャリと軽い音を立て、扉が勢いよく開いていく。


 次の瞬間、パァン! とファンファーレが高らかに鳴り響き、ギルは割れんばかりの歓声に包まれた。


「ギル様、お誕生日おめでとうございます――ッ!!」

「……は?」


 おやつの時間を削って準備したんですよと告げるパメラは、お腹が空いているのだろう。

 頬が心なしかこけている。


 騎士科だけでなく特進科までおり、大々的に呼びかけたのかもしれない。

 扉の前から奥まで伸びた赤い絨毯は、縁に金の刺繍が施されており、その上にはもさもさと、零れんばかりの花びらが散りばめられていた。


「これは一体……?」

「いいから進め。イザベラ様がお待ちだ」


 天井から吊り下げられた色とりどりのリボンが風に舞い、夕方にも拘わらずシャンデリアが、昇りたての太陽のように眩い光を放っている。

 案内役のレナードに「早く行け」と急かされるがまま進んだ先には、玉座を思わせる重厚な椅子が、ドンと鎮座していた。


 こ、これに座るのか……。

 ギルが腰を掛けるなり進み出てきたのは、発案者と思しきイザベラその人だった。


「ギル様。改めまして、お誕生日おめでとうございます! こちら、わたくしからの贈り物でございます」


 その言葉が合図だったのだろうか。

 護衛騎士のジョルジュが、布に包まれていた一振りの剣をイザベラへと手渡した。


「本当は新しいものをと思ったのですが、中古がいいと伺いましたので、当家の武器庫から見繕い、専属の職人に手入れをさせました」

「ありがとう、イザベ――」


 イザベラから差し出された剣を目にした瞬間、ギルの笑顔が凍りつく。

 鞘に彫られた紋章は王家のもの。

 その中央にはどデカい宝石が埋め込まれており、びっしりと文字が刻まれていた。


「なぁギル、どこかで見たことがあると思わないか?」


 すすすと歩み寄り、そっと耳打ちをするレナードの目が死んでいる。


 既視感のあるその外観は、確か騎士科一年の教科書の挿絵で――?

 弾かれたように顔を上げると、イザベラ以外のすべての生徒達が、そっとギルから目を逸らす。


 改めて教室内を見回せば、そこにあるはずの壁がない。

 二教室ブチ抜きで拡張し、パーティー会場を設置したのだと、そこで初めて気が付いた。


「い、イザベラ?」


 中古で十分だと言ったけれどもコレじゃない。

 だが「喜んでいただけると嬉しいです」と嬉しそうに微笑むイザベラに、そんなこと言えようはずもない。


「やはり代々伝わる宝剣のほうが良かったかしら……?」

「いや、ちょうどこういう剣が欲しかったんだ」

「ギル様……ッ!」


 うるっと瞳を潤ませるイザベラ。

 頬は薔薇色に染まり、胸の前で祈るように手を組んだ姿は、恋する乙女そのものである。


「お気に召していただけて、嬉しいです!」

「……うん」


 ギルの反応ひとつに一喜一憂する姿が、正直可愛くて仕方がない。

 いつもなら気にも留めない誕生日。

 国宝級の剣を持ち出すのは、いくら何でもやりすぎではと思わなくもないが、コレが彼女の普通なのだ。


「ありがとう、イザベラ。大切にするよ」

「……ッ」


 引き寄せ、そのまま腕の中に閉じ込める。

 ギルの胸元に顔を埋めたイザベラが、ぴくりと身を震わせた。


「ギ、ギル様……っ、皆の前で……!」

「駄目だった?」


 耳元でそっと囁くと、腕の中の華奢な身体が、かぁっと熱を帯びる。

 真っ赤に染まった耳を慌てて両手で覆うイザベラに、ギルは思わず吹き出した。


「……だめ、じゃないです」

「うん」


 消え入りそうな声でそう告げるイザベラの頭に、そっと頬を寄せる。


「誕生日をこんなに祝ってもらえたのは、初めてで……正直、どうしていいか分からないけど」

「そんな……」

「だから、ありがとう」


 告げるなりギルが観衆に視線を這わせると、特進科の女生徒達から悲鳴にも似た黄色い声が上がる。

 騎士科からは「うおおお」と、地鳴りのような野太い声で野次が飛び、広々とした教室は一時騒然となった。


 割れんばかりの歓声の中、パメラとレナードがなぜか安堵の表情で喜びあっている。


 国宝級の剣に、二教室ブチ抜きのパーティー会場。

 これだけ準備するのも、人を集めるのも、大変だったに違いない。

 サラダに添えられたパセリ以下の誕生日は、どこへやら。


 ギル・ブランドの誕生日は、この日、生涯忘れえぬ大切なものになったのだ――。




 なお、ギルと打ち合った指導教官サルエルが、その名だたる剣に度肝を抜かれたのは……三日後の朝稽古でのことだった。




読んでくださり、ありがとうございました!

とても楽しかったので、また思いついたら書かせていただきますね。

そして昨日に引き続き、宣伝をさせてください!

※コミカライズはタイトルが変更になっています。


*************

『こじらせ令嬢の幸せな黒歴史 ~鈍感騎士に溺愛されるための秘密のアプローチ~』第1巻

レーベル:ぶんか社BKコミックスf様

マンガ:木箱キユ先生

https://www.amazon.co.jp/dp/4821111721


ぜひお手に取っていただけると幸いです。


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