その2
あちこちの国が大騒ぎです。
もう、やりたい放題!
創世の女神の加護を受けるロードリック王国。
王侯貴族から一平民に至るまで女神を慕い国を守る。
騎士も兵士もその本分を自覚して精進する。
商人も農民も毎日の営みを通じて国を支え、女神を敬う。
隣人と共に日々の糧を感謝し、明日の光を信じて生きる国。
王侯貴族は能力を『発現』させて国を第一義に上げ。
平民は自らの力を国にささげ、女性陣と共に女神を讃える。
誰もが思う明日は、皆が笑って過ごす毎日。
そんな日々を女神に祈りつつ穏やかに毎日を過ごす、ロードリック王国。
この国への侵略を画策した諸外国は今、そのツケを支払わされていた。
ラブラブオーラの旋風をまともに浴びながら。
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『立太子前の顔つなぎ』と称して、周辺国を巡る一行。
第一王子のコルフォート・デュエル・ロードリックとフェリシア侯爵令嬢。
騎士団長子息ゲインズ・ランバルトとその婚約者シャロン侯爵令嬢。
魔術士長子息ジェミニ・フォルカスとその婚約者ミーシャ伯爵令嬢。
財務大臣子息トーマス・モルヴィスとその婚約者カリーナ伯爵令嬢。
ロードリック王国の将来を担う者たちが婚約者を同伴の上、国王へ目通りを願い、通過していく。『若輩者故、歓待は不要』とのたまいながら。
当初はどこも慌てふためき、警戒した。今まで仕掛けた様々な謀略に対し、抗議を持ち込んできたのかと構えた。だが、そんなことは忘れたかのように、ただただ穏やかに話し、国内を移動する。
『なるほど、ただの顔つなぎか。甘いな貴公らは』
そう考え、にんまりする輩はどこにでもいる。そして、そいつらは仕掛け……目をむくことになった。
ハルキクス帝国では、士官学校を見学していた一行に『若者たちの腕試し』と称して斬りかかり。
『ほほう、貴殿の国ではこのように不意打ちの訓練をするのだな。まことに興味深い。遠慮なく応じさせてもらおう』と、笑みを浮かべたシャロンにことごとく叩きのめされた。
挙句に『貴公らの剣は魂がこもっていないから軽く払われるのだ。少し指導致そう』と、物騒な笑いを浮かべたゲインズが拳ひとつで教官一同を叩き伏せ、『俺の唯一に刃を向けた野郎は許さん』とばかりに、士官武官生徒すべてに鉄拳をお見舞いして阿鼻叫喚の場に変えた。
次に行ったのはケイオシス教国。
ここでは、最高学府と自負するブライドリン国立学校の図書館を見学するが、その蔵書の偏りにミーシャが憤懣を爆発させる。
『何なのこれ。魔法大覧も歴史縦覧も異国漫遊記も植物全観もないなんて、どぉしてこれが国立大図書館なのよぉっ!』
怒りのままに学長室へ乗り込んだ。最初は小娘と侮っていた学長だが、その論法の正確さ、組み立てた理論の上に立って次の予測を敷衍させていく隙のなさに顔色が青から白くなり、口から泡を吹いて失神した。
それでもミーシャは満足せず、学長の危機に駆けつけた講師陣を前に一歩も引くことなく論争を続け、理路整然と根拠を説いて講師陣を一網打尽にした。
その間に、『うるさいのを黙らせて来るよ』と含み笑いを残したジェミニが向かったのは魔術部。
実技指導の場に乗り込んで魔法を発動、縦横無尽に走らせて生徒たちに見せる。格の違いを悟ったのは生徒のみならず講師一同もだ。恐れおののいて失神する者も出る凄惨な訓練場でひとり気を吐いていた。
ダクモンド共和国では、入国する前の砦で国王側近の歓迎を受けた。周辺国での惨状(?)を聞き知った上層部が大いに慌て、腫れ物に触るようにして王宮に招かれたのには一同呆れてしまったほどだ。
例の『若輩者』を連発して何とか王宮での宿泊を逃れたものの、影の護衛をつけられたため方針を転換、王都の中でも有数の力を持つアルケイド商会とロニヘル行商団を訪れて通商条例を結んだ。
これにはトーマスが能力『忠臣』を発揮、交渉術を駆使して有利な条件をもぎ取った。『商人とはギブアンドテイクで臨まないとだめなんですよ。今回の条件も2年後には見直さないと、ね』へばった両商会の交渉担当を前に、涼しげな顔で言い切って更改の余地があることをほのめかし、『あれ以上の交渉を迫られるのか!』と恐慌状態に陥らせた。
一方カリーナは王都の演劇団に招かれて演技指導を行っていた。
カリーナの書きおろした劇を演ずるそうだが、題目が『あなたに捧げる婚約破棄~ワタクシの愛を受け取って~』。
何のことはない、今回の婚約破棄騒動をコメディータッチにしたドタバタ劇なのだ。ロードリック王国を除いたほかの国では、一般に王侯貴族への反発が大きく、不満もたまっている。そんな中でのこの脚本は演じるのも観るのも大歓迎だ。
もちろんどの国とも分からないようにはしてあるが、見るものが見れば赤面するか顔をしかめるかのどちらかになることは間違いない。実体験をもとに行った演技指導で劇団員一同に崇拝に近い視線を向けられるまでになった。
あろうことか、脚本家には指導の最後に薔薇の花束を捧げられ、プロポーズまがいの状態になったのだが、『私、素敵な旦那様が居ましてよ』の一言で奈落の底に突き落としていた。
そんなこんなで巡ってきた訳だが。
「みんな、明日にはアレス皇国に入国する。わかっていると思うが、あそこが一番手強いし、何を仕掛けてくるか油断できない。十二分に注意してくれ」
コルフォートが注意を促す。
「ああ、わかっている。あそこも偏屈ぞろいだからな」
「だが、ほかのところより有能なのがそろっているし、上層部も堅実だ。そうそうしっぽは出さないと思うよ」
「あそこで注意すべきは教皇だろう。今代は女教皇のはずだ。かなり気分屋でわがままだとも聞いている」
「一番注意すべきはコルフォートだな。次期国王を射止めれば我が国を手にしたも同然と考えている節がある」
「そんなことができると思う段階であそこは頭がいかれているんだ。一発ぶん殴れば目が覚めねえかな」
「それで終われば苦労しないんだけどねえ」
男どもの会話を聞きながら、女性陣もひそひそ話。
「あそこってやたらと高慢ちきですのよね」
「特に今の女教皇、自分一人が大事!って感じ悪ぅいからね」
「ふむ、では私には絡んできそうにないな」
「うん、多分被害は一択だよ?」
「あら、わたくしが狙われるんですの?カリーナだって似たようなものだと思いますけど」
「そばについてる男性を見てごらんなさいまし。ずぇったいにあ・な・たですわ」
「カリーナ、力が入りすぎている」
「あら、ごめんあそばせ」
「でも、さ。そうすると……」
「ええ、多分、ですわね」
「ああ、確実にそうなるな」
「…………あまり確信しないでくださいます、皆様?」
「「「無理だよ(ね)、フェリシア」」」
「……そこでハモってほしくもなかったですわ……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あくる日。
一行は当惑していた。ある意味予想していた事だが、現実は更にぶっ飛んでいた。
アレス皇国に入国し、いつものように謁見を申し込む。
それほど待たされることなく、国王の待つ謁見の間に通され、いつもの『若輩者』の言い訳を述べ、王の御前を下がろうとした時。
廊下の方で騒ぎが起こった。しきりに引き留める声の中、甲高い声が響いて。
バタンッ
扉が押し開かれた。
「退きなさいっ!あんたたちにアタシの前を遮ることは許さないからねっ!」
入ってきたのは教皇の衣装を身にまとった少女、いや、幼女?
どう見ても10歳前後の女の子が、周りの大人を蹴散らして入ってきた。
そして、一行を見つけてにんまりと笑い。
「あんたたち、アタシの従者にしてあげるわ!ありがたく思いなさい!」
そう、宣言した。
アレス皇国のプロットが長くなりすぎて…
次話にしました。
誤字報告ありがとうございます。
大至急訂正しました(汗、汗)