その1
大人しかった国がブチギレました。
糖分多めでどうぞ。
創世の女神の加護を受けるロードリック王国。
王侯貴族はもとより、一平民に至るまで国を愛し女神を敬いその国を守ることに専念し。騎士はその主を守ることで誓いを体現し、兵士は外敵への備えを怠らずに精進する。
商人は国内外を移動して経済を回し、農民は大地を耕して民の食卓を守る。
誰もが毎日の恵みを女神に感謝し、明日への誓いを胸に安らぐ国。
女性陣は幼女から大人まで、皆一様に聖女体質持ち。
それは平民貴族に関わらず発現する能力。
女神の愛と鞭を両の手に持ち、道をたがえぬよう常に在り。
周りと手を携えて女神を讃え、国を守る。
王侯貴族は能力を『発現』させて国を第一義に上げ。
平民は自らの力を国にささげ、女性陣と共に女神を讃える。
誰もが思う明日は、皆が笑って過ごす毎日。
そんな日々を守るため、国民が一丸となって戦う、ロードリック王国。
こんな国を手に入れようとハニートラップを仕掛けた諸外国は、今、大恐慌に襲われていた。その原因、いや台風の目たち(?)はラブラブオーラを大発生させているだけ、なのだが。
・・・・・・・・・・
ラウード国、その中枢。
国王がいるものの、この国の中心は軍部卿とその組織。
国外のあちこちにイチャモン・諍い・ちょっかいをかけ、相手のミスを誘っては賠償を吹っ掛ける。軍事力をちらつかせては無理難題を押し通し、勝てないとなると即座に引っ込んで知らんぷり。
国王などは身代わりの使い捨てとしか見ていない雰囲気がビシバシと溢れている。
そんな傲岸不遜を絵にかいた軍部卿トップのオガステン公爵。彼は今、顔を引きつらせている。
場所は王城、謁見の間。玉座には現国王と王妃。その隣には王太子夫妻。
周りはびっしりと近衛兵で埋め尽くされている。
だが、謁見の間中央に立つロードリック王国の紋章をつけた一団は、数こそ少ないが周囲の人数などものともしないで平然としている。彼らの中央に居る者たちを守る気概がそうさせているのだ。
軍事力を統括する人間だからこそ、彼らの装備のすごさ、気迫の力強さをいやでも判らされる。
一団の中心から一組の男女が前に進み出る。
「お初にお目にかかる、ラウード国王。王妃殿。突然の訪問にもかかわらず、謁見を許していただき感謝に耐えない。私はロードリック王国第一王子コルフォート・デュエル・ロードリック。立太子前の見聞を広めるため、各国を訪問させてもらおうと思っている。また、婚約者のフェリシア侯爵令嬢も同道している。これからもよろしく願いたい」
あのどこか頼りなげな様子だった王子はもういない。ここに居るのは王族としての責務を自覚し、遂行すべくふるまう一人の王族。朗々と響き渡る声に『心酔』の能力が加わり、謁見の間に居る者たちはもはや反論するだけの力を持たない。わずかに国王がその力に耐えているだけか。
ここまでは公式の場で、王太子候補としての言葉。ここからは語調を変えて第一王子として述べること。ややこしいが、こういった切り替えも大切な仕事のうちだ。
「なお、私と同じ若輩者ではあるが将来国を動かしていく者たちも共に来ています。すべて婚約者と一緒なので、多少目に余るところもありますが、その点はご容赦を」
「あ、ああ。ご丁寧なあいさつ痛み入る。して、コルフォート殿。貴殿の予定はどのようになっているのだろうか。教えていただければ、ここで歓迎の舞踏会なども開催したいのだが」
「過分なお言葉を頂戴でき、感謝します。ですが、先ほども言った通り、我々はまだ若輩者。大げさな歓迎を頂けるような身ではありません。広く浅く回る予定で日程もかなりタイトに組んであるため、お気遣いは無用にして頂きたいと思います」
後ろの3組を呼び寄せる。
「騎士団長子息ゲインズ・ランバルトとその婚約者シャロン侯爵令嬢、魔術士長子息ジェミニ・フォルカスとその婚約者ミーシャ伯爵令嬢、財務大臣子息トーマス・モルヴィスとその婚約者カリーナ伯爵令嬢、この8名4組で伺いました。以後お見知りおきください」
そろって一礼し、騎士団と共に謁見の間を下がる。止めようとするものは誰もいなかった。
「なあ、本来は国王が下がってから俺たちも引くんだよな。なんか順番違わないか?」
8人を護衛しながら騎士たちがひそひそと話す。
「俺もそう思うんだが、あのままあそこにいても多分無理だぞ?」
「そうか?」
「そうだよ、正解だ」
不意に前からかけられた言葉に驚いてみると、ジェミニが見ていた。
やや抑えた声で説明する。
「あれはコルフォートの能力『心酔』が出ていてね、向けられた人間はしばらく心身の動きを阻害されるんだ。別に後遺症がある訳じゃないんだけどね。例えば素晴らしい歌を聞いた時とか、心を打つ名画を見たときなんかその場を動けなくなる事ってあるじゃないか。あれに近いんだよ」
「あ、ああ、そうなんですか」
「それにさ、あの場に留まっているといろいろ煩いことを言う奴がいたしね。サッサと消えた方が楽なんだよ」
「あのオガステン公爵、だったか?あの面を見れただけで良しとすべきだな」
ゲインズが怒りのこもった声で相槌を打つ。両手の関節を鳴らして今にも突進していきそうだ。
「あいつが居るだけで周りは大迷惑なんだ。この際掃除でもしていかないか?」
「ゲインズ落ち着け。殺気が漏れてるよ」
トーマスが指摘する。
「この国の問題はもっと根深いし、やり方の順序にも気を配らないといけないんだ。この場では更に混乱する可能性がある。そのほうがよほど迷惑だから押さえて押さえて」
「う、うむ、だがな…」
「トーマス殿の方が正論だ。ここはまずい」
婚約者のシャロンが口をはさむ。
「遠からず我々の武力が必要になるはずだ。その時は大いに働こう、私の将軍様」
「おう、了解した。シャロンのいう事に間違いはないからな」
あれほどダダ洩れだった殺気をきれいに消して満面の笑みを浮かべるゲインズ。
また始まったとばかりに生暖かい視線を向ける騎士一同。
「ねえねえ、ダーリン。あそこにいた人たち、どのくらいの魔力があったの?」
ミーシャがジェミニの腕にぶら下がりながら聞く。
「軍事国家だというのに、あの程度なら問題ないよ、マイハニー。キミの方が輝いて見えるからね」
「いやん、もう、ダーリンったら」
こちらはこちらで春爛漫。
「しかし、ここの内装はいけないね。大事なものはしまってあるにしても、ちょっと質を落としすぎじゃないのかな」
さりげなく周囲を見回してそんなことをつぶやくトーマス。
「ええ、謁見の間はそれなりでしたけど、ここがこれではひどすぎますわ」
同じくカリーナがチラ見しながら賛同して。
「そうだな、このくらいじゃないかな。どう思う、最愛の人は?」
こっそり計算機を持ち出して弾いて見せる。
「旦那様の見積もりは見事ですのね。わたくしとそう違いませんわ」
「おや、ピッタリじゃないんだ。寂しいな、どこが違うのだろう」
「多分、……こことここ、ですわね。…で、こうして…」
「なるほど。……ただ、この花瓶と、これは……こう、じゃないか?」
「まあ、本当ですわ。さすがは旦那様、わたくし惚れ直しそうですわ」
「いやいや、僕はもうとっくにキミの虜だよ、我が最愛の人」
こっちはこっちで砂糖を吐きそうに甘い。
騎士団はすでに悟りの境地で、遠い目をしている。
先頭を行くコルフォートとフェリシアはまた別の話をしていた。
「これで大人しくはしていただけませんわね?」
「それは無理だな。今はただ呑まれただけだ。こうなったらさっさと移動しよう」
「あの軍部卿が見逃してくれますかしら」
「来るならそれでいいさ。あんなのに負けるつもりはない。君を守るためなら、僕はどんな手を使っても守って見せる。愛しい、大切な君」
「コルフォート様…」
ここも空気がピンクに染まっているようだ。
王宮を出た一行は、街の大通りを進み、高級宿へ入る。その夜。
宿の屋上から侵入した人影が貴人たちの部屋を襲う。だが、
「くっ、しまった・・・!」
「こっちもいないぞ!」
「やられた!・・・気づかれていたのかっ!」
部屋はどこもきれいに整えられたまま、使われた様子もない。
「すぐに撤退しろ!お館様に報告と、追撃の…!」
「させるか、ボケェッ!」
「うぐおぉっ!?」
部屋のあちこちから湧いて出た(?)騎士たちの一撃で吹っ飛び、ノされ、押さえ込まれる侵入者たち。
「き、貴様たちはっ!ロードリックの……!」
「はん、あんたたちの事は織り込み済みなんだよ。その対処もな」
「くっ・・・裏切り者がいたか!」
「いいや?単に行動を予測しただけさ。読み易かったな」
「なんだとぉっ」
「この後は王家に引き渡すことになるね」
(ふん、王家など恐れるものか。俺たちにはあの方がいらっしゃる)
「あ、それと今頃はオガステン公爵の屋敷にも監査が入ってるからな。お前さんたちまでかばっていられないと思うぞ?」
「「「「!!??!!」」」
「何やらわいろだとか公金横領とかの書類が見つかったらしくってね?公爵も言い逃れできないみたいだよ」
「そ、そんなぁっ!」
「まあ、この後はそれぞれで。それとな…」
「ま、まだ何か?」
「(大きい声じゃ言えないけど、ほかの奴らのやってた悪いことを話すと、罪一等を減じる、らしいよ?)(ぼそっ)」
「「「「!!!!」」」」
「(噂だからガセかもしれないけどね。これは早いもん勝ちの情報だしなぁ。うん)(ぼそぼそっ)」
「「「「…………」」」」
「とまあ、そんなわけだからせいぜい頑張ってくれ。じゃ、な」
近衛騎士たちに囲まれた一団は何やらがっくりしながら連れていかれる。
「先輩、あんなこと言っていいんですか?」
「ん?ああ、大丈夫。あくまでも『噂』だと言ってあるからさ、あとは自己責任だよ」
「先輩、黒い……」
「それにあいつら、余罪が多そうだしな。何を言おうとそれ以上の罪が重なってアウトだろ」
「なるほど、勉強になります」
「ははっ。さ、殿下たちの後を追うとするか」
「「「「はいっ!!!!」」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
その頃。
ロードリック王国の一行は、少し離れた森の中で休んでいた。
あの後、宿に入ると見せかけて騎士団の約半数を残し、すぐに裏口から抜け出した。王城へ入る前に作っておいた森の拠点まで、一気に馬で駆け抜ける。各国を巡る旅程を作成する中で意見を交わし、散々検討を重ねた結果の行程だった。
『ラウードは単純だから、目の前にぶら下がったえさに食いつくよ。それが罠とは知らずにね』
ジェミニが地図の上で親指を立てる。
『我が国を舐め切ってるラウード国は確実に釣れる』
そう言い切った魔術士長子息は怖かったな、とは全員で一致した意見だった。
今、彼はミーシャと二人で小屋の前にたたずんでいる。
空の月を見上げて何やら言っているが、誰も耳を貸さない。胸やけが起きること間違いないからだ。
逆にゲインズとシャロンは拠点の周辺を見回っている。
騎士たちの半数が宿に居るため、護衛が十分でないことを承知の上で立てた作戦なのだから、自分たちも見張りを務めよう、そういって積極的に動いている。
コルフォートとトーマスは拠点のテントで打ち合わせをしながら体を休めている。彼らの婚約者もそばに居り、和やかな雰囲気が漂っていた。
そこに、見回りをしていたケインズとシャロンが戻ってきた。
「宿で待機させていた騎士たちが着いたぞ。うまく引っ掛かったそうだ」
「そうか、では極秘に渡したあの書類も有効活用できたとみるべきだね」
「何をどなたに渡されましたの、コルフォート様?」
フェリシアが不思議そうに聞く。
「チェリスト王太子にオガステン公爵の不行跡をいろいろとね。賄賂とか公金横領とか水増し請求とか」
「ちまちまとやっていたからね、あの軍部卿は」
トーマスが穏やかな口調で繋ぐ。
「これまでつかんでいた資料を出る前にこっそりと渡るようにしていたんだよ」
「まあ、素晴らしいですわ。旦那様のやることにミスはないんですのね」
「君の協力なしでは僕は何もやれないよ、最愛の人」
「旦那様、うれしいですわ」
「うん、そのあとは二人でやってね」
お前が言うな、と全員が心の中でジェミニに突っ込む。聞こえないのが幸いだ。
「さて。これでラウードは終わりにしようか。いいかな?」
コルフォードが一同の顔を見る。全員、頷いた。
「では休もうか。騎士たちは交代で休みを取るように。明るくなったら動こう」
こうして国巡り第一弾は終了し、しばしの休息を得るのだった。
ラブラブカップルってあんまり書かなかったんですが、うまく書けてますかね…?
誤字報告ありがとうございました。さっそく訂正しました。




