Scene15 警告
Scene14 までのあらすじ
森の中で「おばあちゃん」と暮らす少年シルヴァは、ある新月の日、女王の部下によって攫われてしまう。
牢獄で出会った少女リーシャとシルヴァは仲良くなるも、その晩に熱を出してしまうリーシャ。そんな時に現れた青年フィルフィーリィは何故か二人を助け出してくれる。
女王の追っ手を倒すために使ったシルヴァの魔法の威力はとても高く、シルヴァは気を失ってしまう……。
目を覚まし、フィルフィーリィを魔法の先生とし、リーシャと三人で暮らすことにしたシルヴァはある日港町に買い物へ出かけると、何度か夢に出てきた青年ニースヒールと出会う。何故か懐かしく感じるシルヴァ。しかし軽く話して別れることに。
そしてシルヴァは留守番をしているリーシャへのおみやげに、亡国ミシェラル王国のお守りを買った。
後書きに登場人物をまとめておきます!
家に着いたシルヴァは、ワクワクした気持ちを抑えきれず、走ってリーシャの元へと向かった。
「リーシャ! お土産、買ってきたよ」
シルヴァは「じゃーん」と言って、お土産の入った紙袋をリーシャに手渡した。リーシャはぱっと花が咲いたような顔をして、丁寧に紙袋を開ける。
「わぁ、これは、ブローチかしら?」
「うん、ミシェラル王国っていう、今は無い国の古代からのお守りなんだって。災厄から守ってくれるけれど、砕けてしまうって店主さんが言ってた。もしもリーシャに悪いことが起こっても、きっとお守りが守ってくれるよ」
シルヴァがニッと笑う。しかしリーシャはそのお守りをじっと考え込みながら凝視しているだけだった。もしかして、気に入らなかったのかな。そんな不安を胸に、シルヴァはリーシャの顔を覗き込む。
「……リーシャ? どうしたの? もしかして、気に入らなかった……?」
シルヴァの声で我に帰ったリーシャは、慌ててシルヴァの言葉を否定する。
「ううん、違うの。なんだか見たことのある形だなぁ、って思って……。うーん、なんでだろう。見た記憶はないのに」
そう言うとリーシャはまた考え込んだ。
「……?」
シルヴァは首をかしげてリーシャを見る。やっぱり本当は気に入らなかったのかも。もう少し可愛らしい物の方が良かったのかな。リーシャは女の子だし……。
そんなシルヴァに気がついて、リーシャは優しく微笑んだ。
「ありがとう、シルヴァ。私、男の子からプレゼントをもらったのって初めて。大切に、ここにつけておくね」
そう言ってリーシャはお守りを服の襟につけた。
「シルヴァの星のブローチと一緒のところね。お友達だし、お揃いだっていいわよね」
「う、うん」
少し照れてシルヴァは頷く。さっきまで悩んでいたことも、リーシャの優しい笑顔で吹っ飛んでしまった。
夜。
シルヴァとリーシャを寝かした先生は、一人リビングで考え事をしていた。
すると突然、机にジワリと文字が浮かび上がる。親友からの、魔法メッセージだ。驚く素振りも見せず、彼はため息混じりに呟いた。
「……相変わらず嫌なメッセージの送り方だなぁ。まぁ、それがアイツらしいといえばアイツらしいけど」
机のメッセージには、「今すぐ来い」とだけ書かれていた。
先生は玄関の近くに置いてあったマントのような外套を羽織り、ふわりと飛んで行った。
「やぁ、フワーリズミー。相変わらずイヤな呼び出し方だね」
小さな家の扉を開けると、すぐにフィルフィーリィは言った。
その小ぶりな家の中には、彼と同じ歳くらいの男性が、ただ紙に数式と思われるものを書き殴っていた。
「ちょっとリズ、無視かい? 君が数式に取り掛かると周りが見えなくなるのは知ってるけども。ねぇってば、リズ」
何度名前を呼んでも反応がない。彼はついに痺れを切らし、リズの肩を力強く叩く。力強く、と言っても魔法使いの彼には大した力はなく、ただパフッという音がしただけだった。
「……呼び出しておいてそれはひどくない? もう帰るよ。家を空けておくわけにはいかないし」
そう言って玄関の扉を開けると、強い風が突然吹いて、リズの周りにあった紙が飛んでいった。それでようやくリズは彼に気づき、「よう」と彼を見て言った。
「……やぁ、リズ。ようやく、気づいたかい」
呆れた顔をして、フィルフィーリィは彼の近くにあった椅子に腰掛ける。
「それで、用ってなんだい。出来れば手短に済ませてくれると助かるんだけど」
「まぁまぁ、そう焦るな。まず、リーシャは無事なんだよな?」
「うん。ちゃんと僕が助けてあげたよ。熱を出してたけど、すぐに治ったし。今は僕の家で、一緒にいた男の子と仲良くやってるさ」
フィルフィーリィの言葉に安心したリズは、ため息をついて椅子に胡座をかいた。
「話はそれだけかい? これだけなら別に魔法メッセージで良かったじゃないか」
立ち上がろうとするフィルフィーリィを、リズは止めた。
「いいや、違う。まぁ、これ見てくれよ」
そう言うとリズは包帯で巻かれた体を見せた。長袖、長いワンピースという魔法使いの制服と、何事もないように振る舞う彼のせいで今まで気づかなかった。
包帯には赤い血が滲み、痛々しい。
「ど、どうしたんだい、その傷。ただ事じゃなさそうだけど」
「女王さ。女王にやられたんだ」
「じょ……女王に? なぜ?」
フィルフィーリィの頭は真っ白になった。数学と魔法の天才、フワーリズミーがいくら相手が女王とはいえ、魔法で負けるなんて考えられなかった。
「女王はお前のところにいるシルヴァというやつと、リーシャを狙ってる。これはまぁ、分かってるだろう? まぁ、女王はまだ諦めてないってことさ。分かってるだろうけど。自分は女王に呼び出され、拷問にかけられたのさ。フィー、お前の場所を教えろとな。なんとか逃げ出したがこのザマだ。まぁ、あのままいたら殺されてただろうがな。自分を囮に、お前とシルヴァ、リーシャを誘き出そうという目的だろう」
「……」
「呼び出した自分が言えることじゃないけどよ、早く帰って二人を守った方がいい。女王は本気だ。フィーの結界で家を隠してるんだろうが、時間の問題だぜ、正直」
「分かった。ありがとう、リズ。無茶しないでよ、その傷はだいぶと深いんだろう?」
「ああ、ありがとう。……お前も、気をつけろよ」
フィルフィーリィは深く頷いて、急いで家へと戻る。
嫌な予感がする。
何もなければ、いいんだけれど。
シルヴァ……主人公の少年。森の中で「おばあちゃん」と暮らしてきた。魔法の扱いに長けており、純粋でまだまだ子供らしい。たまに不思議な夢を見るも、あまり深くは考えない。リーシャに淡い想いがあるようで……?
リーシャ……牢獄で出会った少女。大人しく、礼儀正しい。防御魔法の扱いが上手で、すでに立派な防御魔法を使える。何故か家に帰りたがらず、親たちの心配もしていない。
フィルフィーリィ(先生)……シルヴァとリーシャを助け出し、魔法の先生となった青年。物腰が柔らかく、錬金術で生計を立てている。女王と知り合いなようで……。
ミシレーヌ……シルヴァの育ての親で、おばあちゃんと呼ばれている。女王セマレーヌと似た顔立ちだか、女王よりも老けている。
セマレーヌ(女王)……魔法王国の女王。シルヴァとリーシャを捕まえた張本人。ミシレーヌよりも若い容貌で、フィルフィーリィとは知り合いなようで……。
ニースヒール……シルヴァの夢に出てきた青年。メリッサという娘がいる。
ステラ……シルヴァの夢に出てきた男の子。全体的に白い。どうやら出自が普通ではないようで……。
おおまかな登場人物はこんなかんじかと思います!