二十話 円卓と決断
「そうか。……私からも話があるのだよ。マレガ、トリストン」
朝食からそうしばらく経たないうちに、俺はレイオンに呼ばれていた。
恐らくマレガさんとトリストンさんの話だろうと思い足早に向かう。
城内の人がその場まで案内してくれたのだが、そこには思ってもいない空気が出来上がっていた。
円卓会議、とでも言うのだろうか。
入ってみれば、円卓にある計十三の席に騎士や魔法使いが座っていた。
「座ってくれ、闇野」
そう促されて、俺は空いた一席に座る。
その様子を穴が開くのではないか、それくらいまじまじと見られた。
いや、何で俺が座ってるんだろう……こう部外者が座ってて良いものなのだろうか。
さて、俺がそう圧迫されている間。
パーティメンバーはというと、悠長にメイベールとお茶をしているらしいかった。
もしかして、こっちの方がマシなのでは?
いや、もう一種のトラウマだよね、
メイベールさん……。
……ああ、それにしても円卓は重い雰囲気で息がしにくい。
そんな中で、俺たちは女王からの言葉を待った。
「では、私から。……いきなりだが、今日をもって私は魔物組合を抜ける」
ざわつく円卓。
「お待ち下さい、お嬢!」
「一体何を!」
今まで頑なにその組合からの命を忠実に守っていたレイオンからその言葉が出るなんていったい誰が予想できるのか。
トリストンさんとマレガさんは、喜んでいるようでその表情は心なしか明るいが、それに反対するように意を唱える人もいた。
「そりゃ良きかな。のう、七位の」
……!
更にざわつく円卓。
それもそのはずで。
確かに空席だったはずのその席にはこれ歴戦の魔術師とか、そういう言葉がしっくりくるおじいちゃんが、悠々と座っていた。
紺のローブに身を包み、金の刺繍がほどこされたその壮麗な衣服に、背丈と変わらないほどの太い杖を持って現れる。
「マリーン様! いつの間にいらしていたのですか!」
「かか、こんなときに居らんようなら大魔法使い失格じゃろうが! トリストンのクソガキ!」
何だこのおじいちゃん、超絶口が悪いぞ。
大きな杖を卓にひっかけ、足を机に乗せるファンキーなおじいちゃん。
すげえ、めちゃくちゃ堂々と足乗っけてるよ……。
「マリーンか。全く都合の良い時に帰ってくるものだ」
「おー姫! 久しいな、やっほー!」
パタパタと手を振って挨拶をする。
すげえ、ノリが軽すぎて吹けばぶっ飛ぶんじゃないか。
「そもそも儂はずっと言っておったんじゃぞ。魔物組合とは手を切れと。まぁ、よく決断したなぁ」
「ずけずけと言うではないか、マリーン」
顔を引きつらせ、マレガさんがおじいちゃんに話しかける。
マリーンはどこ吹く風、それを聞いてかか、と再び笑った。
「七位の。儂見てどう思う?」
「……ファンキーだなって、思います」
それ以外の感想がねぇよ。
足乗っけるわ、いきなり現れるわ、どんな魔法使いなんだよ。
「かかっ! 適当に話せ七位の。別にかしこまる必要はないぞ。で、本題だがどこまでお前は自分の信念を貫ける? 儂とて勝算なくして姫に魔物組合を抜けろとは言わんし。その為にお前の答えが聞きたいのう」
引く波のように、円卓は静まった。
このマリーンとの会話はきっとみんな意味あるものと理解しているのだろう。
耳をすませ、じっとその会話の続きを待つ。
「勿論、死ぬまで」
俺は真剣にそうマリーンに言った。
「……良い目をしてるな。よし決まりじゃ。こいつの目、汚いのは汚いが悪くない。この話、賛成に儂は回ろう」
マリーンの一言で、円卓は全て丸く収まった。
どんだけみんなから信用されてんだ。
……目が汚いは余計だ!
「では、私からも。フレイヤ国はこの七位の魔王様と手を結び、本格的に魔物組合と勇者への対抗策を考える。それで良いな?」
マレガがそう言うと、円卓に座っていた者は一斉に立ち上がり手を胸に置いた。
俺を慌てて立ち上がり、周りの真似をする。
「かかっ! こりゃこの国始まって以来の大騒動よ。けれど、君主が良いように使われる時代は終わりじゃ。七位の、宜しく頼むぞ」
熱気冷めやらぬ円卓。
マリーンは俺にそう言うと再び姿を消した。
……ゴーストか何かかよ。
「うむ、こうあっさりと皆がそれを受け入れてくれて嬉しい。闇野、円卓に混ざってくれて助かったぞ」
「何もしてねぇよ。マリーンとかいう爺さんが凄かっただけだ」
「何を言いますか。マリーンが人を褒めることは決して、決してありえないのです。……もっと自信を持たれよ、闇野様」
マレガさんは、そう言って俺の肩に手を置いてくれた。
この人本当に良い人だなぁ。
爺さん見てるか、これが慕われる方法だぞ!
「では、マレガとトリストン。お前達が先頭で指揮をとり、内外の方針を固めよ。闇野、休憩しよう。私もお腹が空いた」
円卓はざわついた。
今度は何? なんかマナーでも違反した?
「お嬢様が、食事に誘った……!」
「ありえない、食事を……だと!」
ああ、そっちね。
……レイオン、どんだけ身持ち固いんだよ。
メイベールがとやかく言うのも分かる気がする。
「レイオンも大変だな」
食事を終え、俺たちは再び円卓に戻ろうと歩いていた。
マリーンに宜しくと言われた以上、俺が参加しないわけにもいかないので、気を引き締めて頑張るつもりだ。
「そうでもない。けれど、どうにか皆のイメージを変えたいとは思っているのだが」
そう苦笑いするレイオンと話しながら城内を歩く。
それにしても見れば見るだけ、美しい城だった。
レンガのように白い石を積み上げ、高価そうな鎧や装飾品が所狭しと並ぶ。
大きく広い部屋に、整えられた花々の庭園。
見れば見るほど、圧巻であった。
「まぁゆっくりやってけば良いだろ。それよりあんな大胆に宣言しても大丈夫なのか?」
「ん? ああ、魔物組合についてか。大丈夫だ、円卓で決められた事は絶対で不出だ。あそこで決められた方針は変わる事はない。……ん? マレガ?」
息を切らし駆けてくるのは、マレガさんだった。
その慌て様はマリーンが現れたよりもずっと緊迫していて、良くない事が起きたのだと俺でも分かる。
「お嬢様、お急ぎ下さい。魔物組合から遣いが来ました!!」




