二話 スキルと過去
「ステータスってご存知ですか?」
次の日、エクシスは掃除をしながら俺にそう言った。
ステータス、異世界なら良くある話だが、今の俺は何の期待もしていない。
何故なら殴られた時などに痛みを感じ、魔王から光を受けた時も痛みを感じたからだ。
いや、ここに来て痛みしか浴びてないんだが。
そもそも、見た目も変わってないし、特段何かパワーアップした所も感じれない。
「あーパスパス、どうせこの流れなら、チンカスみたいなステだしな」
「そう言わず、自分の事なんだからきちんと知っておきなさいよ」
古城に部屋を用意されたレイカは目覚めたらしく、パジャマ姿で俺にそう言った。
エクシスは金のミディアムヘアーを束ねながら俺に近付く。
「分かった。でも、絶対笑うなよ! 絶対だぞ!!」
念入りに、そう言って俺はエクシスの前に立つ。
エクシスら片手を俺の額に乗せ、何か呪文を唱えだした。
「……はい。出ました」
エクシスら紙にサラサラと書き写し、俺に差し出す。
えーと、……うん、うん⁉︎
闇野世界の特殊スキル一覧。
気絶無効。
自身の痛覚が三倍。
意識断絶無効。
自身の状態異常が三倍。
即死回避。
体力増幅。
タフネス。
何これ、やはり俺は呪われてるらしい。
今の俺なら神すら怒りで殺せる気がする。
痛みを三倍に感じ、意識断絶も気絶も許されないとは、どんな業を負っているのか。
更に一息に死ねないとか、こんなキャラがもし、ゲームで居たら可哀想で使えない。
これをスキルバランスという概念で見れば、狂気すら感じる。
その上に状態異常を食らえば三倍の効果。
猛毒なら大変な事になると思うんですけど……。
俺は、眩暈と共に読み進める。
出来れば、もう読みたく無い。
固有能力
ダメージ移動
はい。
もう噛み合ってるのか噛み合ってないのか分からない。
そりゃ、痛みを三倍に感じてそれを受け渡せるなら強い。
でも、その渡す前に俺が本気でショック死するんではないだろうか。
あっ、それも出来ないのか……。
基礎ステータス
体力のみ化物。
以上。
……ばーか! エクシスのおたんこなす!
エクシスは何も悪くはないのだが、愚痴らずにはいられない。
「尖りすぎて、どうしたら良いのか私にも分からないわ」
「前魔王様も、ここまで罰を受けてはいませんでしたよ」
魔王のステータスって、そんなざっくりで良いの?
普通、魔力とか攻撃力とかカンストしてるとか、あると思うんだが。
しかも体力だけ、無駄に溢れてるのでどうすれば良いのか分からない。
笑うなというフリも虚しく、本気でエクシスもレイカも困っていた。
気を遣わせてごめんとしか言いようがない。
俺は紙をクシャクシャに丸めて、ゴミ箱にありったけの力で叩き込む。
俺はジャージの上着を振り回して、自分のステータス、スキルを見なかった事にした。
本気で、本気で俺は魔王や世界そのものをぶち壊す決意を固めた。
「世界様はかなりショックみたいですね」
「そりゃね。気絶無効とか即死回避とか便利だけど、あのスキルの組み合わせは悪意しか感じないもの」
二人はコソコソと俺には聞こえないように話し合っていた。
その優しさが痛い。
けれど、いつまでも落ち込んではいられない。
俺はゆっくりと顔を上げて、脱いだジャージを着る。
「よし、第一回魔王討伐会議するか!」
今後の方針をより深く考える為、会議を行う事に決めた、
すぐさま、エクシスが手を勢い良く挙げる。
「では世界様、序列を上げるだの、システムなどをぶち壊すなどと言ってらっしゃいましたが、そもそもどうやるつもりですか」
「まず、何事も情報が命だ。とりあえず、この先は町に出ようかなって。あ、それと後でお前達のスキルも教えといてくれ」
「はい! 根本的な質問なんですけど、吸血族って陽の光は駄目なんじゃないの?」
レイカの質問に、俺は吸血鬼の伝承を思い出した。
完全にまだ見ぬ野心に心が燃えていたので、忘れていた。
さて、どうしよう。
あ駄目だ……日傘とか、そんな案しか浮かばない。
「私超ハイブリッドなんで、ニンニクも十字架も効かないですし、陽も別に問題ありませんよ」
「さ、三流なんて言ってごめんなさい」
多分それ、もう吸血族とかじゃない。
昨日の夜も普通にご飯を食べてたし、血を吸う必要もないらしい。
昨夜驚いたのは、前世とここではご飯も殆ど変わらない。
魚や、肉料理もあれば豆や米、麦もあるらしい。
それを言えば、言語なんかも意識してなかったけど全然問題無い。
異世界のこういう所は、正直な所とても助かった。
今から勉強とか、多分年数が経ってしまう。
そもそも勉強とか絶対に嫌だ。
「それよりレイカさん。聞きたかったんですけど貴女仲間とか居ないんですか?」
……沈黙は金なり。
空気が凍っていく。
俺はなんとなく察したが、エクシスはあたまにハテナを浮かべたままだ。
「べ、別に? あ、あいつら使い物にならないし? そもそも、私一人で……う、うわあああぉんんんん!」
エクシスは何が起きた分からないと慌てる。
そうだよね、こういうの俺みたいに理解ある人しか分からないよね。
俺はレイカの背中をゆっくりとさすってあげた。
急速に親近感を覚えた俺はそのまま話を聞き続ける。
「ひぐっ……私のこと、要らないって。っぐ……聖剣を持ってない勇者はただの肉壁だって……!」
「ああボッチか。……辛かったな、よしよし」
……この世界、ポンコツに厳しすぎないか。
痛みの一つ、二つくらい引き受けてやるから勇者も倒そうと決めた。
この世界で偉いのは、強さじゃないと。
畜生具合が重要だと、俺が天から教えられたように、皆さんに教えてやろうじゃなないか……!
「大丈夫です、レイカさん。ハイブリッドとか言いましたけど、私なんて吸血族で異端すぎたので、こんな辺鄙な魔王城まで送り込まれてますから。そもそも、親も私の事忘れてると思います。というか、浮きすぎて割と早い内に追い出されましたし、村から」
空気がさらにどんよりと暗くなる。
俺の仲間は思ってたよりも苦労していた。
思わず、俺は涙が出そうになる。
……これ以上続けると精神が死にそうだ。
今日の会議はここでお開きとしよう。
こうして第一回魔王討伐会議は名を変え、第二回から、この世界に蔓延る悪の撲滅会議に変更となった。