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勇者転生の面接に落ちたので、俺は異世界で魔王になりました!  作者: 鮎 太郎
一章 面接落ちて、魔王になりました
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十九話 魔王適正者と見えぬ闇

 俺だけ離れに部屋を用意されていた。

 誰だろう、そんな部屋にこつりとノックする音が聞こえる。

 まだ朝早いのか、それとも単に俺が寝不足なだけか。

 その音が疎ましく思えて、俺は睡眠を続行する。

 こんこん、再びノックの音。

 昨夜結局、レイオンとメイベールの果てなき論争を眠りそうになりながら聞き続けたせいだろうか。

 まだ脳が睡眠を欲しているが、どうやら扉の前に立っている人は諦めるつもりもないようなので、俺はベッドから起き上がり扉に向かう。


「どちらー?」


 床に敷かれたカーペットを踏みながら、重厚な扉から俺は外へと顔を出した。

 ギョッとする。

 姿勢良く、立つのは『獣人』だった。

 珍しい話ではないし俺も何度か見たが、朝一番は心臓に悪い。

 パッと見ただけで、姿勢良く立っていて、その雰囲気はどう考えても立派なお方であろう。

 赤くかっちりした軍服には煌めく勲章がつけられて、俺はますます萎縮する。

 朝から怒鳴られるとか絶対嫌だぞ……。


「朝早く失礼致します。フレイヤ国軍事部、軍事長マレガです。闇野世界様、ご挨拶遅れて申し訳ございません」


 獅子の顔をしたマレガと名乗る男は、そう言うと俺に深く頭を下げた。

 何て紳士的な挨拶なのだろうか。

 ……驚いてごめん、マレガさん。


「あ、おはようございます。わざわざ出向いてもらって申し訳ないです」


 俺は眠いながらも、しっかりと挨拶を返しその訪問を労った。


「いえ、魔王様ともなるお方にそう言って頂けるとこちらとしても大変喜ばしいです」


「いやー、魔王って言っても俺最下位のダメ魔王ですから」


 そこまで丁寧にされるとそれはそれで困る。

 俺はマレガに頭を下げるのを止めるように、手を下から上へ動かし、ジェスチャーで伝えようとする。


「いえ、お嬢様が認めるお方。私としても是非色々考えをお聞かせ願いたいのですが」


 そのジェスチャーが伝わったのか、頭を上げてマレガさんはそう言った。

 俺が聞かせること……ね。

 やばい、浅はかな俺から軍の偉い方に話せる事なんて何もないぞ……。

 これは断らないと苦しい会話になって、気まずくなりその後ギクシャクするパターンだ。


「そんな、俺の話なんてちんけなもんです」


「そうご謙遜なさらずとも。……そうですね、今すぐ内政部の私の仲間も呼んできましょう。誰か、誰ぞ! ここに椅子と机と朝食を用意し、すぐに内政部のトリストンを呼んできてくれ」


 有無も言わさず、マレガさんは側にいた男の子と女の子を呼び素早く準備させる。

 しまった、完全に出遅れた。

 場を掌握されるというのはこういうことを言うのだろう。

 場を作られれば、もう断る事も出来ない。


「これは魔王様、参上遅くなって大変失礼致しました。内政部、政治長トリストンと申し訳ます。朝食会お呼び頂いて、誠にありがとうございます」


 白い髭をたくわえ、ゆったりと歩いて来たのはトリストンという普通の人間だった。

 そりゃ全員が獣人の訳がないよな。

 トリストンはこれまた丁寧に自己紹介をして、頭を下げると用意された椅子に座った。


「準備感謝する。下がっておいてくれ」


 使いの者にマレガさんがそう言うと、女の子と男の子がそそくさと去って行く。

 美味しそうな朝食をどうもありがとう。

 俺は手を合わせると、サンドウィッチを頬張った。

 卵のサンドウィッチ、久しぶりに食べたけど美味しいな。


「ふふ、実に美味しそうに食べなさる。ただの卵のパンなのに」


 マレガさんは、そう言うとティーカップに注がれたお茶を口にした。

 うーん、獣人なのに暑苦しさが全く感じられない。

 むしろ優美さまで感じるな。


「いやあ、凄い美味いですよ。実際、飯には感謝しかないです」


「ところで魔王様はどのようにしてこちらへ?」


 トリストンさんは、同じように皿に乗せられたサンドウィッチを手に取ってそう質問した。


「転生者です。七位の魔王の跡を継いでます」


「……魔王になった転生者、ですか。トリストン、もしかすると……」


「実際に見るのは初めてだ。私も驚いている。ふむ、そうだったか。……なら魔物組合も血眼になろうな」


 目をパチクリとさせながら、トリストンさんとマレガさんは見つめ合う。

 というか、俺を魔物組合が探してるって知ってたのか……。

 待て待て、俺ここで捕まったりしないだろうな!

 レイオンはきっとまだ、どうしてこうなったのかを伝えていないはずだ。

 ここで牢獄行きなんて、そんなのは嫌だ!


「ちょっと待って下さい! 俺が魔物組合に探されてるって知ってたんですか?」


「ええ、知っていましたがお嬢様が連れてきたのできっと訳ありだろうと。そして、何より闇野様にどうしても直接会いたくて」


「はい。私たちとしても魔物組合はあまり信用してないので、気にもなりませぬ」


 ありがてえ、ありがてえ。

 しかし、レイオンは良い部下がいるなぁ。

 理解ありすぎて、羨ましいぞ。


「そうなれば……書物通りであれば適正者、ですな」


 適正者、以前風呂場で聞いた噂の事だ。

 トリストンは俺を見つめて確かにそう言った。


「適正者って、その能力を扱うにあたって一番っていう……?」


「正確に言うと、違います。この場合の適正者と言うのは魔王適正者の事です」


 マレガさんが、そうトリストンさんの言葉を補足する。

 魔王適正……。

 当たり前だが、聞いた事も見た事もない。


「マレガよ、これは本格的に我々の話もしておくべきだろう」


「闇野様、我々の話をお聞き下さい。今のこの世界については知っていますよね? 魔王と勇者の関係について」


 俺はこくりと頷いた。

 魔王は勇者に負ける、これがひっくり返る事はない。

 言うなれば敗北必死、敗戦が分かっている未来だ。

 そりゃレベルでいう一の勇者なら勝てるだろう。

 けれど、同レベルの話になると別だ。

 負ければ消える俺たちと、負けても消える事がない勇者。

 そもそものアドバンテージが違いすぎる。


「けれど、昔はそうではありませんでした。我々の国には古の書物があります。それによると、魔王側も勇者を倒していました。そして負ければ消える事もありませんでした。魔王が消える時、それは死だけです」


「けど、俺の前で前の魔王は消えてました! まだその時は死んでなかったんですよ!」


 どうなっているのか。

 その話が本当に正しいなら、明らかに前魔王の消滅はおかしい。


「そうです。今の魔王たちは負ければ消えてしまいます、それは序列一位でも関係ありません。……消えるに関しては、ほぼ間違いなく勇者と魔物組合が組んでいると私たちは睨んでいます」


『相変わらず身内には容赦ねーな』

 俺は風呂場で聞いた、町人の言葉を反芻していた。


「恐らくですが、闇野様が魔物組合に捕らえられれば組合によって、ーー殺されます。今勇者をも倒せる可能性があるのは、転生による魔王。それが魔王適正者です。闇野様以外の他の魔王は、お嬢様も踏まえ転生者ではありません。そして、私たちの目的は一つ。魔物組合の脱却と我が国の繁栄です」


 何て、ことだろう。

 前提が全て崩壊するような説明だった。

 どうして魔物組合、勇者が手を結ぶ?

 本当にマレガさんの説明が正しければ、例え転生して魔王になったとしてらも何も分からないうちに殺されてるかもしれないって事か?

 新しい情報に目眩がする。


「正直に言いましょう。私たちは始め、闇野様の事を利用しようとしました。勇者の為に消えようと望むお嬢様に、闇野様を使って私たちの考えうる魔物組合と勇者の在り方を伝えられればと」


「けれど今の適正者の闇野様の話なら信じてもらえるかもしれない。お願いです、どうか女王にお伝え願いでしょうか」


 懇願する、マレガさんとトリストンさん。


「そこまでこの国の事を思うのであれば、きちんと自分の口から伝えるべきです。レイオ、じゃなかった……。獅子女王も、俺の言うことなんかよりらあなた達の思いを考えを信じてくれるはずですから」


「……そう、ですね。マレガよ、私たちで……」


「ああ、分かっている。国を思うなら、ですか。……やれるだけやってみましょう。ありがとうございます闇野様。話せて、本当に良かった」


 それを聞いて、マレガとトリストンは力強く立ちあがり礼を述べて立ち去った。

 あそこまでつよく思えるなら、きっとそれはレイオンにも届くだろう。


 そして俺は、この世界が思っていたよりも更に黒く。

 得体の知れない気持ち悪さ、それを感じてならなかった。

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